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奴らは人間じゃない

本日1回目の更新です。

……………………


 ──奴らは人間じゃない



 狂った演説はもう音調探知センサーを使わなくとも拾える距離まで来た。


 そこで的矢たちは歩調を緩め、慎重に進み始める。


 ダンジョンカルトは殺してもいいが、奴らが化け物の生贄にするか、あるいは自分たちで消費するかする生きた人間は無事に確保しなければならない。


『マイクロドローンを先行させろ。状況が知りたい』


『了解、アルファ・リーダー』


 マイクロドローンが飛行し、上空からの映像を送ってくる。


『わお。ちょっとした地獄が出来てる』


『クソ野郎どもめ』


 死体。死体。死体。死体。死体。


 公園の中心で積み上げられた死体にゾンビが群がっている。中にはゾンビとして蘇る死体もあり、混迷の度合いを深めている。子供の死体も、妊婦の死体もある。そして、それを崇めるようにダンジョンカルトの連中が首を垂れていた。


『生存者がいる。ダンジョンカルトじゃない。縛られて、拘束されている。畜生、今、ひとり首が切られた。アルファ・リーダー、突っ込もうぜ』


『ああ。もちろんだ』


 そこでテンポを上げる。


 そして、公園が目に入ってくる。


『マークしろ』


『目標マーク』


『目標を割り振った。射撃自由。殺していけ』


 そして、銃撃が始まる。


 まず頭を弾き飛ばされたのは公園のベンチの上で演説を垂れ流していた初老の男だった。生存者のデータベースにはこの地区選出の地方議員とあった。


 地方議員からカルトのボスに転職かと的矢は思う。


 そして、今は死体に転職した。


 それから次々にダンジョンカルトが射殺されて行く。包丁を棒にダクトテープで括りつけた武器や、バール、スコップなどを持ったダンジョンカルトのメンバーたちが周囲を見渡し、自分たちを攻撃している人間を探そうとするが、見つけられない。


 的矢はダンジョンカルトたちに容赦なく銃弾を叩き込んでいく。


『殺せ。ぶち殺せ。奴らは人間じゃない』


 奴らはダンジョンそのものだ。


 このクソッタレで忌々しいダンジョンと同じ存在だ。


《その通りだとも。ダンジョンカルトは化け物を崇拝することを選んだ狂人たちだ。君の大嫌いな化け物をね。それは殺さなければならないよね。君にとって、彼らはもう人間じゃあないんだから。化け物の仲間だ》


 その通りだ、クソ化け物。奴らもクリーピーな化け物どもの仲間だ。


『さあ、もっと殺せ。化け物どもの群れだ。殺せ、殺せ』


 ダンジョンカルトのメンバーが次々に射殺されて行く。


『ゾンビどもが死体からこっちに目標を変更。突っ込んでくる』


『纏めてぶち殺せ。撃て、撃て。人質の加害圏外でのグレネード弾の使用も許可する』


『正気かよ、大尉?』


『俺はいつだって正気だ』


 そして、お神酒を滴らせた空中炸裂型グレネード弾が叩き込まれる。


 目標を捉えたそれが空中で炸裂し、ゾンビたちが吹き飛ばされる。


《ダンジョンカルトがどうやって何の補給もない地下で生き延びられているか知ってるかい? 彼らは食べているんだ。同じ人間を。家畜のようにして。彼らが生贄を捧げるゾンビのように。貪っているんだ》


 だろうな。驚くべき情報じゃない。


 的矢は撃ち続ける。陸奥もM906重機関銃から50口径のライフル弾をゾンビの群れに叩き込み、一掃していく。ゾンビもダンジョンカルトも、同じ死体へと変わっていく。肉の塊に変わっていく。化学式で表せる存在に変わっていく。


『クリア』


『クリア』


 そして、全てが一掃された。


『アルファ・フォー。ブラボー・セルに増援要請。人質を後送する』


『了解』


 椎葉はダンジョン内部でも上層と通信可能な通信機を持っている。それぞれの生体インカムはそれに増幅されて、上層や下層と連絡を取っている。


『アルファ・ツー、アルファ・スリー。周辺を確保しろ。いつ敵の増援が来るか分からないからな。いいな?』


『了解』


 これだけ大騒ぎして、それ以上敵が来なければそれで終わりだろうが、万が一という場合もある。そして、今回は20名近い生存者を確保してる。


『アルファ・ファイブ、アルファ・シックス。あんたらは次の階段を見てきてくれ。交戦は可能な限り避けろ。見てくるだけでいい』


『了解』


 それぞれに指示を出し終えると、的矢は崩れ落ちた地方議員が座るように倒れているベンチに腰掛けた。


「あんた、なんでダンジョンカルトなんておっぱじめたんだ? どこからか電波でも受信したか? 発狂したか? この空間は狂気をはらんでいるのか? あんたは無自覚に大量虐殺を成し遂げたのか?」


 積み上げられた無数の死体を見ながら、的矢が呟くようにそう尋ねる。


「分かるはずもないか。あんたはイカれてたんだ。ダンジョンの狂気に飲まれたんだ」


 的矢はそう言ってベンチにゆっくりと背を預ける。


《彼はダンジョンに閉じ込められて狂った。そんなところに喜び勇んで飛び込む君が狂っていないと誰が保障してくれるんだい?》


 自分の正気は自分で証明する。


《どうやって? 狂人は狂っていることを認識できないから狂人なんだ。君も知っているだろう。狂人だと自覚して申告できる人間は狂人ではない。故に出撃しなければならないって話をさ》


 キャッチ=22か。そうだ。狂人は自分の狂気を認識できない。だが、俺には分かる。化け物を殺しているときは頭がクリアになる。ナノマシンが感情をフィルタリングして、恐怖や同情という感情を消す。それでクリアになり、自分を客観的に見つめられる。だから分かる。俺は自分が狂っているか、いないかが。


《ナノマシンに保障されている正気か。まともじゃないね。精神科医に保障される正気とさして変わりない。精神科医は面と向かって『あなたは狂っている』とは言わない。遠回しにそう示唆する。それでも自覚できなければ檻の中さ》


 じゃあ、俺は正気そのものだな。


《イカれているって部下に言われているのに?》


 いい意味でイカれているのさ。


《君は狂気に囚われているよ。ボクが言うんだ。間違いない。だが、それはダンジョンへの異常な執着を示すだけのもの。確かにいい狂気ではある。人間にとってはダンジョンなんてない方がいい。こんな地獄はなくなった方がいい》


 珍しく意見が一致したな、クソ化け物。


《ラルって呼んで。君は特別だから》


 ラル。


《そうそう。ボクは君のことが好きだよ。嘘じゃない。愛着を感じている。君がボクの仮初の肉体に銃弾を叩き込んだときから君と一緒。愛着のひとつやふたつ湧くだろう? 人間の肉体は化学式で表せる。それだけの存在だ。だけど、ボクたちの関係は化学式では表せない。特別なものだ》


 くたばれ、ラル。


《無理なお願いだね。ボクはずっと君の傍にいるよ》


 そうかい。


 ラルヴァンダードは的矢の前に立って語り続けていた。


『ボス。ブラボー・セルが来ます』


『了解。お出迎えの準備をしておけ』


 的矢はそう言って人質にされていた生存者たちに方に向かう。


「助けが来る。もう大丈夫だ」


「か、彼らは……?」


「くたばった。ひとり残らず」


「私の母があの中に……」


「死体は後で回収する。生きている人間が優先だ」


 的矢はそう言うと、周囲を見渡した。


『このクソみたいな穴倉に一体何人暮らしていたんだ?』


『陸軍のデータだと8753名です』


『うち、救助されたのは?』


『121名』


『クソみたいに化け物どもとダンジョンカルトが湧きそうだな。今からワクワクしてきたぜ。クソみたいにワクワクしてきた』


 まるでクリスマス前の子供のようにと、的矢が付け加える。


……………………

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[一言] ボクっ娘っていいよね
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