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腐敗する世界

本日5回目の更新です。

……………………


 ──腐敗する世界



 また1体、ゾンビが撃ち殺される。


 住民の多くがゾンビになっていた。このアンデッドの出没する居住区が多くの住民を抱えていたことを考えると、このままならば数千ものゾンビを相手にすることになるなと的矢は思った。


 だが、化け物を殺すのは愉快なことだ。


 化け物を殺し、殺し、殺し、前進を続ける。


 的矢の脳のナノマシンは彼に余計な感情を抱かせず、適度な緊張感だけを与え、他をフィルタリングしてしまうが、喜びまでは奪っていなかった。


 的矢は確かな喜びの中にあり、歓喜しながら化け物を殺していた。


《君ならば》


 ラルヴァンダードが的矢の前に躍り出る。


《きっとこのダンジョンの最下層に辿り着けるだろう。そして、多くの悲劇の原因を作ってきたダンジョンマスターを殺せるだろう》


 ああ。ぶち殺してやるよ。


《楽しみにしている。君ならきっとできる。君にしかできないかもしれない。いずれにせよ、ボクは君に期待しているよ》


 ダンジョンマスターがくたばれば、お前もくたばるのか?


《言っただろう。ボクの本体は地獄にあるんだ。今はリモート会議しているようなものさ。正直に話そう。仮初の肉体が死んだ今、魂だけがここにあり、その魂が君に纏わりついている。そういうことだよ》


 地獄、か。気軽に行けるのか?


《ある意味では。だけど、実際に地獄に乗り込んだ人間なんていない》


 俺が世界初になってやるよ。


《楽しみだ。ボクのところにおいでよ。歓迎するから》


 そうだな、クソ化け物。


『何をちんたらしている、アルファ・スリー。障害か?』


『いや。ちょっとした観光名所を見つけて眺めているだけだ』


『観光名所?』


 的矢が信濃の視界を共有する。


 信濃の視線の先にあったのは、死体で作られたオブジェだった。


 手足があらぬ方に曲がった男女の死体を組み合わせて、歪なオブジェが作られていた。見るもおぞましく、正気の人間が成せるものだとは思えなかったし、知性のない化け物どもにも作れないものであった。


『ダンジョンカルトだな』


『マジで連中、イカれてるな』


『そういうものだ』


 ダンジョンカルトはイカれている。それは朝になったら太陽が昇るのと同じくらい、常識であった。ダンジョンカルトは何かに憑りつかれたように作品を作る。


 先ほどのような死体で出来たオブジェ。血と肉で描かれた狂気を象徴するがごとし魔法陣。そういうものをダンジョンの中に残しているのは、ほぼ間違いなくダンジョンカルトの仕業であった。


 化け物にそれほどの知性はないし、知性のある化け物にしたところでそこまで狂ってはいない。人間だけが、人間だけが狂ってしまうのだ。ダンジョンという空間においては。発狂し、仲間を殺し、化け物に捧げ、悪趣味な死体の記念碑を作る。


『ダンジョンカルトが近くにいるのかもしれない。警戒しろ』


『了解』


 ダンジョンカルトは狂っていても知性がある。待ち伏せやトラップを使用して、生存者を捕え、そして殺す。化け物に生贄として捧げるか、オブジェにするか。あるいは自分たちで消費してしまうか。


 幸いにして、ダンジョンカルトには実体がある。ゴーストのように探知できない目標ではない。音響探知センサーと振動探知センサーに気を付けておけば、AIが自動的に検出してくれるだろう。


 問題は発見したあとにどうするか、だ。


 襲い掛かってくるなら殺せばいい。だが、彼らは一様に襲って来るわけではない。中には飲まず食わずでオブジェ作りに熱中しているものもいる。人間の死体を自らのダンジョンに捧げる芸術作品にしているものがいる。


 倫理的には彼らを止めなければならないが、襲ってくるわけでもない相手を撃てるかという話になる。拘束すれば、ブラボー・セルに負担を掛けて、後送しなければならない。彼らもまた生存者なのだから。


 だから、的矢は羽地大佐に食い下がって尋ねたのだ。殺していいかと。


『ダンジョンカルトを見つけたら、殺せ。危害を加えてくるかどうかは関係ない。殺してしまっていい。確実に殺し、ブラボー・セルには死体だけ回収させろ』


『了解』


 ダンジョンカルトはこれまでずっと頭痛の種だった。


 厄介な生存者。死んでいてくれた方がマシな生存者。


 だが、どういうわけかダンジョンカルトは化け物に襲われない。これまでの経験上、ダンジョンカルトは化け物と共存している。彼らが生贄を捧げてくれるからなのか、それともダンジョンカルトもダンジョンの一部と見做されたのか。


『音響探知センサーが反応。人の声だ。何を言っているかは聞き取れない』


『そのまま進め、アルファ・スリー』


 やがて聞き取れるようになる。やがて狂人の戯言なのか、それともまともな生存者の声なのかが明らかになる。


『聞き取れてきた。共有するか、アルファ・リーダー?』


『共有しろ』


『了解』


 的矢の生体インカムを通じて人間の声が響く。


『罪だ! 罪を犯したのだ! 誰もが罪人である! だが、より悪しき罪人たちの存在により地獄の扉が開いたのだ! この地獄を生み出したのだ! 悪しき罪人たち。政財界の裏に潜むものたち。電波を使い人間を操るものたち。そういうものの罪の積み重ねにより、この地獄の扉が開いたのだ!』


『狂人が』


 的矢が吐き捨てる。


『ダンジョンカルトだ。用心して進め。連中には熱光学迷彩が有効だ。密かに近づいて、銃弾をお見舞いしてやろう』


『それしか方法はないのか』


『ない、アルファ・ファイブ。嫌なら抜けても構わないぞ』


『いいや。参加させてもらうとも。ダンジョンカルトほど忌々しい連中もいない』


 ネイトはそう言い、シャーリーを見た。


『ええ。殺すべき相手』


『価値観が共有できて光栄だ、アメリカ人。では、行くぞ。ダンジョンカルトどもを殺し、より地下へと進軍する。俺たちは潜り続ける。俺たちは止まらない』


 的矢はそう宣言し、ダンジョンカルトの声のする方角に向けて進む。地下に設けられた公園からその声はしていた。丁度、地下に向かう進路上にある。


『全ては悪しきものたちのせいである! 我々は慈悲を乞わなければならない! 赦しを乞わなければならない! 贖罪が必要なのだ! 生贄を捧げ続けなければならない! 血が、肉が、骨が、罪を清めたまう……』


 狂った声が的矢の音響探知センサーにも捉えられ始めた。


《ダンジョンカルトはダンジョンの一部となっている。ダンジョンに存在する人間には種類がある。ひとつ、君たちのような“迷宮潰し”。ダンジョンを攻略し、破壊することを目的としたものたち。ひとつ、ダンジョンに閉じ込められ、身動きできなくなったダンジョンにとっての餌。ひとつ、ダンジョンカルトのようにダンジョンと一体化することを選んだものたち》


 じゃあ、ダンジョンカルトは明確な俺たちの敵だ。


《そ。敵だ。敵は殺さなければならない。殺して、殺して、殺して、血と肉を撒き散らさなければならない。それが勝利への道。それこそが勝利。勝利とは、いつだって鉄錆の味がするものだろう?》


 その通りだ、クソ化け物。


『全員、射撃準備。間もなく目標。確実に撃ち抜き、確実に殺せ。静かに、な。敵にとって俺たちは死神だ。本当の神がダンジョンなんかでないことを連中に思い出させてやろうじゃないか。俺たち人間こそが神の使いだと』


『了解。あんた、イカれているぜ、大尉』


『嬉しいことを言ってくれるな、アルファ・スリー』


 そして、的矢たちは狂った声の響く、公園へと向かっていった。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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