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生存者の痕跡

本日3回目の更新です。

……………………


 ──生存者の痕跡



 居住区はゾンビ物のパニック映画状態だった。


 生存者は点々と生き延びている。そして、そこに群がるゾンビたち。


 ゾンビに貪られた死体が居住区の廊下に転がっている。


 既に騒動が始まってから2ヵ月。死体はそのまま腐乱するか、ゴーストに憑りつかれてゾンビになっている。ゴーストもまだ少数ながらうろうろしており、パニック映画は続いている。


 パニック映画と違う点は軍隊が真っ当に強いところだと的矢は思う。


 パニック映画の軍隊は軍隊の格好だけしていて、能力はまるでない。現実の軍隊を欠片も知らないのか? と思わされるような描写があり、そしてその妄想のごとき無能さにより全滅するわけである。


 だが、実際問題、そんないい加減な軍隊で化け物どもが子供に見えるほど強力な兵器で武装した他国に対して軍隊というカードを切れるのかという話だ。


 確かに人類は奇襲された。だが、すぐさま人類は反撃に転じている。化け物どもの特性を理解し、対抗策を講じ、ただちにダンジョンを潰しにかかった。だから、人類にとって記念すべき──そして忌まわしきダンジョン発生1日目にしてペンタゴンダンジョンは陥落したし、1週間たらずでで市ヶ谷地下ダンジョンも攻略された。


 人類は適応してきた。人類は殺し合ってきた。人類は進歩し続けてきた。


 その歩みが止まることはないし、必要があれば人類はどんなクソッタレな事態にだろうとクソッタレな武器と技術を用いて応戦するだろう。特に科学技術が指数関数的に進化している2060年代においては。


『アルファ・スリー。慎重に進め。生存者がいる可能性が高い』


『了解、アルファ・リーダー』


 生存者がいる場合はどうしても歩みが遅くなる。


 博多ダンジョンでもそうだったし、他のダンジョンでもそうだった。


 軍が間違って市民を撃ちました、ということはあってはならないのだ。少なくとも表向きには。日本情報軍は必要があればそのような事実など握りつぶすだろうが、民間人を間違って撃ってしまった兵士というのは心に傷を負う。


 ゾンビに鉛玉をぶち込んで殺していても兵士たちは思う。俺たちが殺しているのは本当に化け物なのだろうか、と。


 馬鹿げたことだと的矢は思う。


 これだけ市民との距離が近い戦場で、市民を巻き込まずにクリーンな戦闘ができるほどには軍隊は進歩していない。いや、確かに軍隊は戦場のビッグデータを手に入れ、それをAIに解析させることにより、非戦闘員と戦闘員を即座に判断できるようになった。だが、それは武器を持った人間とそうでない人間を見分けるだけに過ぎず、今回のゾンビのようなケースには適応できない。


 しかし、そろそろAI様のデータベースにもゾンビやゴーストのデータベースが蓄積されているはずだ。遅かれ早かれ、民間人とゾンビを見分ける方法はできるだろう。それが人類の進歩というものだ。


《航空力学も、核物理学も、通信技術も、ナノテクすらも戦争のために。誰かを殺すため、誰かを傷つけるために発展させてきた。君たちは業の深い生き物だよ。君たち人類はエデンで知恵の実を食べて以来、ずっと殺し合いのための技術を進歩させている》


 それ以外のことにも使っている。そうとも。クソッタレな戦争が技術を進歩させてきたなんてのは、遥か昔の神話に過ぎない。


『アルファ・スリーよりアルファ・リーダー。前方にゾンビが群がっている。生存者の可能性があるが、どうする?』


『マイクロドローンで捜索。生存者がいるなら救助する』


『了解』


 マイクロドローンが僅かな波尾を響かせながら飛行し、居住区を飛行し、今度はコンビニに立て籠もっている住民たちを発見した。


『民間人。数6名』


『結構。化け物どもに鉛玉をお見舞いしてやろう』


『了解』


 再びお神酒を滴らせた銃弾が叩き込まれる。


 コンビニに群がっていたゾンビたちは数は200体ほど。銃撃されていることに気づくと、素早く的矢たちの方に迫ってきた。昔の映画のゾンビと違い、人間の生物としての恒常性を維持しているため、人間と同じかそれ以上の速度で迫ってくる。


『弾幕を切らすな。撃ち続けろ。ミンチにしてやれ』


 迫りくるゾンビたちに的矢たちが銃弾と爆薬を叩き込む。


 7.62ミリ弾が突き抜けていき、空中炸裂型グレネード弾が炸裂し、手榴弾が炸裂する。人体の機能を保持しているという意味では、生きた人間と代わらないゾンビたちは、その死の際に撒き散らすものも人間と同じだった。


 臓物と血液。


 7.62ミリ弾がその柔らかな肉を裂き、空中炸裂型グレネード弾がその臓腑を抉り、手榴弾が血液を撒き散らす。ゾンビの死体は残るため、凄惨な光景がその場に残されることになった。


『クリア』


『クリア』


 200体と増援の100体ほどのゾンビを迎撃し終え、的矢たちは居住区の一角を確保した。的矢は熱光学迷彩を解除して、生存者が立て籠もっているコンビニに向かう。


 コンビニは昔から変わらないデザインの店舗であるものの、ガラスだけは防犯用の強化ガラスになっていた。それがゾンビの浸入を防いでいたと言っていい。


「救援だ。負傷者はいるか?」


「た、助かった……。酷い怪我をしている人がひとりいる。それ以外は無事だ」


「分かった。開けてくれ。それから死体はなるべく見るな」


「分かった」


 扉の前にいたコンビニの店員は扉を開くと、的矢たちを中に案内した。


「アルファ・フォー! 負傷者だ! 見てやってくれ!」


「了解です、ボス」


 そして、椎葉が右足を骨折した住民に添え木をし、とりあえず動けるようにして、それからブラボー・セルに生存者たちを引き渡した。


『で、だ。この調子だと残弾が流石に危うい。一度戻るぞ。最後に他に生存者がいないか確認して、20階層の拠点に戻る』


『了解』


 的矢たちは各居住区を見て回り、生存者の有無を確認したが、コンビニの他には住宅に1、2名閉じ込められていた生存者がいただけだった。


 的矢たちはそれを救助し、ともに20階層へと帰還した。


 20階層では救助された住民に対する支援が行われていた。これまでまともな食事が食べられていなかった住民に食事を与え、医療支援を行う。血液と尿を採取して検査し、異常がないか確認してから10階層まで護送される。


「勇猛果敢で恐れ知らずのアルファ・セルの諸君。弾薬補給のついでで悪いが、司令部から呼び出しだ。弾薬をどうこうする前に行くぞ」


 的矢はAR(拡張現実)に羽地大佐からの呼び出しが通知されていることを告げた。


「了解」


「さて、何のお説教やら。ご褒美にしては早すぎる」


 時間はあまりないんだぞと的矢は思う。


 30階層までのダンジョン区域はまだエリアボスが倒されていない。ゾンビどもは片付けたが、ゴーストは再発生するだろう。それが撃ち殺した死体に乗り移り、そしてまたゾンビが復活するということも考えられた。お神酒は永続的な効果を発揮しにくいことはこれまでの経験で分かっている。


《君は君が殺しを楽しむのを邪魔されたくないんだろう?》


 そうだな。羽地大佐は過保護なところがある。良くも悪くも俺たちを守ろうとする。


《君は反抗期のティーンエイジャーってわけか》


 ティーンエイジャーに化け物は殺せない。


《精神だけ幼いまま大人になったのが君じゃないのかい》


 くたばれ、化け物。


《ほら。そうやって都合が悪くなると逃げる。言い返しなよ。自分の精神は大人だと。そうボクに証明してみせなよ。自分は自立した大人であり、子供のように幼いままじゃないって証明してみせなよ。できるだろう?》


 化け物をぶち殺すことが証明そのものだ。お前も殺してやる。


 的矢はラルヴァンダードにそう思いを叩きつけながら、指揮所に向かった。


……………………

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