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ローストチキンにしてやれ

本日3回目の更新です。

……………………


 ──ローストチキンにしてやれ



 崩壊しかかった床を的矢たちは慎重に進む。


 すぐ真下がエリアボスのいる場所であることを考えると慎重にもなる。


 エリアボスのいる20階層は大きな構造になっているという。人工筋肉頼りの降下でも耐えられない可能性はあった。


 ポイントマンの信濃は慎重に安全なルートを開拓し、後続がAR(拡張現実)に表示される信濃の通ったルートを経由してダンジョンを進んでいく。


『アルファ・リーダー。こんな状況だが、敵だ。オークが12体。すり抜けるか?』


『いや。叩き潰しておこう。連中を混乱させて、下に落としてやる』


 的矢はそう言い、いつものように胸や頭を狙うのではなく、オークたちの両肩を撃ち抜いた。オークたちは混乱を起こし、でたらめに動き始める。


 そして、床が抜けた。


 オークたちが落下していく。


『マイクロドローンを進ませろ。落ちた先の状況が知りたい』


『了解、アルファ・リーダー』


 マイクロドローンが飛翔していく。


 マイクロドローンの暗視装置で20階層の様子が映され、映像が共有される。


『見えたか?』


『見えた。間違いない。グラーフ・ゴルフだ』


 日本国防軍コード:グラーフ・ゴルフ。グレーターグリフォンだ。


 それが空を飛び回り落ちて来たオークの落ちて来た穴を覗き込む。


『撃つな。撃つなよ。ここでの戦闘は圧倒的に俺たちにとって不利だ。戦いならば20階層に降りてからだ。いいな?』


『了解。確かにここで戦うのはぞっとする』


 足場は不安定。重火器は使用困難。こんな状況では戦えるものも戦えない。


 グレーターグリフォンは体長15メートルほど。翼を広げた横幅は40メートル近い。圧倒的な大きさだ。その嘴は鋭く、爪も強力で、さらにかなり素早く飛行して回るために銃弾で狙うのも難しい。


 そんな相手とこの状況で戦う馬鹿はいない。


『行ったな。20階層のエリアボスはこれで分かった』


『準備しに戻るか、アルファ・リーダー?』


『準備ならできてる。進め、アルファ・スリー』


 それから的矢たちは崩壊しかかった床を慎重に進んでいき、オーク数体を排除し、20階層に繋がる階段を確認した。


『降りるぞ。先頭を代われ、アルファ・スリー。俺が先に降りる』


『あいよ』


 的矢が先に20階層に降りる。


 音響探知、振動探知両センサーが作動しているし、分析AIが常に情報を解析している。どこに獲物がいるのかは、ほぼ分かっているようなものである。化け物の種類さえ特定しておけば、位置特定までは一気だ。


 的矢は慎重に周囲を見渡す。


 遮蔽物はほとんどない。先の爆撃で落下した家具店の家具が転がっているのと、20階層を無理やり押し広げた結果生じた瓦礫の類があるだけ。それも上空からの攻撃には無力である。グリフォンなどの飛行する生き物にとってはないも同然の障害物だ。本気で連中の攻撃を避けようというならば、塹壕でも掘らない限り無理だ。


 的矢は状況を見ながら、判断を下していく。


 グレーターグリフォンの弱点は頭部だが、その頭部は7.62ミリ強装弾でも貫通できない。徹甲弾を使っていてもおなじこと。貫通させるには50口径が必要になる。だが、流石の日本情報軍も50口径の大型ライフル弾の銃声を完全に消せるほどのサプレッサーは持っていない。けたたましい銃声が響いた時点で仕留めなければ、グリフォンは暴れまわる。


 グレーターグリフォンのもうひとつの弱点はほとんど化け物がそうであるように胸部を吹き飛ばされることだ。だが、これも厄介で頑丈な肋骨が銃弾から胸部を守っていることに加えて、グレーターグリフォンの胸部でも即死させられるのはほんの一部。


 ならば、どうするか?


 もう、的矢は判断を下している。


『アルファ・ツー。重機関銃をあのタンスを使って展開しろ。他はアルファ・ツーを支援。効こうが効くまいが銃弾を浴びせろ。特に顔面を狙え。連中はそれだけでもパニックになる。そして、アルファ・ツーは奴を叩き落として、釘付けにしろ』


『了解』


 陸奥が背中から三脚とM906重機関銃を下ろし、12.7ミリ強装徹甲弾を使用する重機関銃を展開した。家具店から落ちて来たタンスにそれをしっかりと据え付け、狙いを羽を休ませているグレーターグリフォンに定める。


『アルファ・ツー。余裕があればそっちで始末しても構わないぞ』


『できればそうしますよ』


 今までの戦闘でも重機関銃でグレーターグリフォンクラス級の目標を排除できたケースは複数回ある。今回も上手くやれば、1発、2発目でグレーターグリフォンを仕留められるかもしれない。


『グラーフ・ゴルフをマーク。無理に頭を狙って外すなよ、アルファ・ツー。俺たちの方が不利だってことを忘れるな。奴は空気の振動に敏感だ』


『了解』


 空気の振動に敏感。それは陸奥を支援する他のオペレーターも危険があると言うことだ。サプレッサーから漏れる僅かなガスの流れ、地面に落ちる空薬莢の金属音。そういうものを探知できるのだ。もちろん、熱光学迷彩で隠れている人間そのものの動きも。


『設置完了』


『3カウントでパーティー開始だ』


 M906重機関銃にはナノスプレーが振りかけられ、熱光学迷彩ほどではないせよ、姿が隠せるようにしてある。だが、その意味があるのも撃ち始めるまで。


『3、2、1──やれ』


 重機関銃が重々しい銃声を響かせてグレーターグリフォンに50口径ライフル弾を叩き込む。強装弾かつ徹甲弾であるそれが容赦なくグレーターグリフォンの肉を抉り、骨を砕き、全身に一斉に打撃を与える。


『目標飛翔!』


『撃て、撃て。顔面を狙え。アルファ・ツーは羽根を狙え』


 サプレッサーに抑制されつつも、7.62ミリ弾がグレーターグリフォンの顔面を狙う。眼球を守ろうとグレーターグリフォンが防御姿勢を取れば容赦なく、陸奥が50口径ライフル弾を浴びせる。


『いいぞ、アルファ・ツー。そのまま叩き落とせ』


『了解』


 だが、グレーターグリフォンもやられてばかりではない。反撃に転じた。


 空中を駆け抜け、その巨体で重機関銃に向けて突撃する。


『こなくそ!』


 そこで椎葉の放った一撃がグレーターグリフォンの眼球を貫いた。


 その痛みにグレーターグリフォンが墜落する。


『よくやった、アルファ・フォー』


 陸奥は落ちたグレーターグリフォンに銃弾を浴びせ続け、ついにグレーターグリフォンを飛行不可能と思われる状況に追い込んだ。


『トドメを刺す』


 そして、出番が回ってきたのは的矢の背負っていた84ミリ無反動砲だ。


 弾頭は対戦車榴弾(HEAT)の半誘導弾。弾頭の尻尾に着いたフィンが動くことによってマークされた目標に可能な限り近づいて突入するようになっている。だが、完全誘導ではないので、無誘導よりマシ程度の精度しかない。


『目標マーク。発射』


 そして、的矢がロケット弾を発射する。ロケット弾は真っすぐ飛翔し、動けないグレーターグリフォンの骨を貫き、肉を貫き、炸裂する。


 辺り一面にグレーターグリフォンだったものの残骸が散らばり、灰になり始める。


『ローストチキンが灰になったな』


『全くで。これで20階層まで制圧完了ですね』


『ああ。拠点を20階層に移したら、次は30階層だ』


 的矢はそう言いつつ、グレーターグリフォンが残した握りこぶしふたつ分の魔石を眺め、フンと鼻を鳴らした。


……………………

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