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厄介な問題

本日1回目の更新です。

……………………


 ──厄介な問題



 2名のアメリカ人──ネイトとシャーリーを受け入れることは戦術的に面倒な問題を発生させた。部隊をふたつに分ける際に、3名2組になってしまうことだ。それもアメリカ人がアメリカ人同士で組むならば、アメリカ情報軍の中に日本情報軍の兵士を1名おくことになる。それが面倒なのだ。


 2名というのはツーマンセルという名前通り、2名1組のチームが作れる。それは敵に発見されるにはあまりにも小さく、それでいてお互いの背中をカバーし合って無駄がない。無駄な人員を生じさせない。


 対して3名となると無駄な人員が1名増え、かつ敵に発見される可能性が高くなる。あまり嬉しい話ではない。正直なところ、的矢としてはアメリカ人2名を銃殺して、おいていく方が楽だとすら思ってしまう。


 特にこのダンジョンというのは狭く、地下に進めば進むほど入り組んだ構造をしており、あまり戦力が多くても火力はそうそう発揮できない。例外はエリアボス程度であろう。それについても的矢の慣れた4名編成の方がやりやすい。


 2名のアメリカ人は本当に邪魔だ。どうにかしたい。


《殺しちゃえば?》


 お前もサイコパスだな。


《合理的な選択。ある種のトロッコ問題さ。2名のアメリカ人を犠牲にするのか、6名全員が犠牲になるのか。犠牲は少ない方がいいだろう? 特に君の部隊は君のお気に入りのチームなんだから》


 そうだな。死なせたくはない。


『アルファ・リーダー。準備できましたよ』


『ああ。アメリカ人が戦術脳神経ネットワークに繋ぐのを待ってる』


 陸奥が怪訝そうに尋ねると的矢はそう返す。


『アルファ・ファイブ、アルファ・ファイブ。戦術脳神経ネットワークに接続できたか? AR(拡張現実)の指示通りにやれば繋がるはずだぞ』


『繋がった。こいつはすげえな。ダンジョンの内部の情報がもう分析してある』


『楽しい玩具で遊ぶのはそこら辺にして合流してくれ。20階層まで潜るぞ』


『あいよ』


 とは言え、20階層に懸念要素があるだけで、20階層まではゴブリン、コボルト、オーク、オーガの四馬鹿だ。的矢としてはこのチュートリアルゾーンで、アメリカ情報軍の連中の実力を見定めておくつもりだった。


 日本情報軍は日本陸海空軍と違ってアメリカ軍との交流が薄い。アジアの戦争辺りまでは交流もあったそうだが、そこから日本情報軍は偏執的な秘密主義に陥り、アメリカ軍とも他の国の軍とも交流を拒否するようになった。


 恐らくは何かあったのだろうと的矢は見ているが、今のところ、断交の理由は不明なままである。だが、アメリカ情報軍がCIA(中央情報局)の軍事的ままごとの反省から作られたスパイと軍隊のハイブリットであり、日本情報軍も同じようなものであると考えると交流が少ないのは些か納得できる。


 秘密は知る人間が少なければ少ないほど漏れにくいものだ。


『16階層。もう滅茶苦茶だな』


『あれだけ弾薬を叩き込めばこうもなりますよ』


 元あった商業施設は完全に破壊されていた。日本陸海空軍の砲爆撃で、滅茶苦茶だ。衣類量販店だった施設は看板が辛うじて残っているだけで中の商品は全て燃え尽きている。他は看板すら吹き飛び、何の店だったのかレイアウトから想像するしかない。


 的矢たちはゴブリンをマークし、振り分け、射殺し、コボルトをマークし、振り分け、射殺し、オークをマークし、振り分け、射殺し、オーガをマークし、振り分け、射殺する。基本的にこの繰り返しの単調な作業だ。


 だが、化け物どもが訳も分からず死んでいくのを見るのはとても心地いいと的矢は思う。ほとんどの化け物どもが自分に何が起きたのか把握することもできずに、頭と胸に7.62ミリ弾を喰らってくたばっていく。


『殺しが楽しいみたいだな?』


『お前たちは楽しくないのか、アメリカ人』


『俺たちは仕事だと割り切っている』


『らしくないな』


『アメリカ人らしいってのは銃を撃ちまくって、自由を宣伝して、ファストフードを貪ることだってか。いつのステレオタイプだよ。アメリカ人も変わったんだよ』


『らしいな。俺としてはこれこそアメリカ人好みの娯楽だとばかり思っていたよ』


 またゴブリン。こいつらは聴覚が鈍く、嗅覚が鈍く、頭も鈍い。群れる習性があるので武器を持っていない一般人にとっては脅威だろうが、第6世代の熱光学迷彩、第4世代のボディアアーマー、戦術脳神経ネットワーク、そして、たっぷりの爆薬と7.62ミリ小銃で武装した軍隊を相手にしてはお祭りの屋台の景品の方がまだ頑丈と言えるくらい、脆い存在である。


 この手の雑魚が群れてるエリアで問題になるのはブービートラップの類だ。


 ポイントマンであり、優秀な下士官である信濃の仕事は、索敵の他にブービートラップの有無を確かめることにもあった。


 ダンジョンは生成された段階でブービートラップが自動的に配置される。


 ワイヤートラップ、地雷に似た爆発物、落下する天井などなど。


 大抵のものはちょっと用心深く調べれば判明するし、パターンがある。化け物が群れているのに不自然なまでに近づいていなければそこにはトラップがあるということだ。


 ただ、発見しても解体するのは面倒だ。普通のブービートラップならばワイヤーカッターなどで解体できるが、床が感圧式センサーになっていて作動するものは、解体の仕様がない。そういう場合は爆破して済ませる。


 ミュート爆薬。特殊な化合物とナノマシンを使用し、通常の爆弾のように衝撃を発生させるが、その衝撃を発生させる際の音は消してしまうという魔法のような爆弾。音の専門家と爆弾の専門家が作ったものである。


 もちろん、構造物が破壊される音までは消せない。だが、ミュート爆薬の最低使用量でトラップを破壊すれば、ほとんど音が響くことはない。


 それにダンジョンのトラップというのはそこまで多くないということもある。というのもダンジョンの四馬鹿と言われるゴブリンたちが適当にうろつくものだから、突入したときには罠が既に全て作動済みであったり、化け物たちが自由に動き回れるように敢えてトラップを設置しないということもあるのだ。


 特にダンジョン四馬鹿は危険予知能力にも乏しい。的矢たちもブラボー・チームもいいように敵を処分できた。指向性爆薬で待ち伏せて、一掃ということも多々ある。


『アルファ・リーダー。モンスターハウス。オークの群れが100体近い。ここは17階層。マイクロドローンで生存者を探してから進むか』


『アリバイは作っておくべきだろうな。俺たちはベストを尽くしましたってな』


『了解。マイクロドローンに上空から探らせる』


 モンスターハウスは広い何かの店舗のフロアにあり、あちこちにオークたちがいて、うろうろしたり、仲間内で殺し合ったりしていた。


 マイクロドローンはその上空を飛行し、モンスターハウスに生存者がいないことを確かめる。そもそも先の砲爆撃で20階層まで穴が開くところだったことを考えれば、生き残りなどいるはずもない。


 日本国防四軍は最初から20階層までの間に生存者はいないと思って砲爆撃を実行したというわけである。


『生存者なし。死体なし。マスコミに報道されて困るものなし』


『それでは後で必要なのは化け物の醜い死だけだ』


 的矢が目標を戦術脳神経ネットワークの状の分析AIに自動振り分けさせる。


『グレネード弾と手榴弾、強襲制圧用スタングレネードで相手の出鼻を挫く。後は自由射撃だ。存分に殺しを楽しめ』


『あんたどうかしてるぞ』


『人間相手に銃を乱射するより遥かに健全だぞ、アルファ・ファイブ』


 ネイトにそういうと的矢はタクティカルベストから手榴弾を抜いた。


『さあ、ぶち殺せ。パーティー開始だ』


 そして、手榴弾を投擲する。


 手榴弾は炸裂し、オークたちを薙ぎ払うとパーティーの始まりを知らせた。


……………………

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