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梶野宮家の転移家計簿  作者:
第二章 異世界移動編
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小人



 窓越しに見る小人は小さなサンタクロースのような服を着ていた。配色だけが白くデフォルメされたかのような大きい頭に二等身で手に収まるほどの大きさ。

 短い手で窓枠につかまり馬車の速度の影響もあってか、体を横に揺らしている。


 土筆は急いで窓を開けようとするが嵌め殺しの窓は開けることが出来ない。


 「アステリアスさま。小人が窓に!」

 緊急事態に急いで助けようと言葉にする土筆。


 「なに!? 小人?」

 三人は窓に視線を動かし確認する。

 小人は片手で窓枠につかまり旗のように揺らめき今二も吹き飛ぶ手前である。


 「なにもおらんぞ」

 「妖精族ピクシーでしょうか?」

 「兄ちゃん兄ちゃん。どこにもいないよ?」


 三人の言葉を聞きガラス一枚隔てた小人の場所を指差す。

 「おらんのじゃ」

 「いないです」

 「兄ちゃんだけ何か見えてる?」


 三人には見えないらしい。

 土筆は自分だけに見えるのなら助けたいと馬車を止めるようアステリアスに頼み窓枠へ視線を移す。 

 小人の姿はもう無くなっていた。


 アステリアスは操縦者への連絡に使われる紐を引き、馬車を止めるように指示を出す。ゆっくりと速度を落とし停車する馬車。

 レナが馬車の扉を開き急いで外に出る土筆。

 ひんやりとした外気の中、急いで落下しただろう地点へ走る。


 馬車は六台ほど連なっておりカピーラにまたがった鎧族リビングアーマーの女性兵士は土筆の行動を不審に思うがすぐ後にアステリアスたちが続くことで事態を察する。

 馬車近くに数名を残し、残りは土筆たちの護衛に周囲を警戒へと部隊を分けた。


 二百メートルほどだろうか。走っていた足を止め舗装されていない乾いた地面を注意深く見渡す。アステリアスや笑美も土筆と一緒にあちこち見渡す。

 レナは警備する鎧族に現状を報告し、雑草の少ない道の脇へと馬車を誘導させカピーラを休憩させるよう指示を出す。

 レナ自身もメイドの本業である主の休憩時間を確保すべく、馬車に備え付けられたテーブルや紅茶のセットを用意し鉄製の魔道コンロで湯を沸かし始めた。


 三十分ほどだろうか、警備する鎧族も含め十人ほどで探したが白い小人は見つからずアステリアスの声で探索は中断された。


 「お茶の準備が整いましたので、こちらへどうぞ」

 レナの声に探索に飽きていた笑美は走り去る。


 「土筆殿もどうかの? 体が冷えては風邪を引くのじゃ」

 アステリアスの優しい声に足を止め振り返り頷き返す。


 二人で来た道を戻り笑美とレナのいるテーブルへと向かう。道すがら一緒に探してくれた鎧族のリーダーだと思われる女性に謝罪する土筆。


 「いえいえ、これが私たちの仕事ですから」

 こもった声で言われたのだった。


 席に着く土筆とアステリアスを迎えたのは優雅な茶器とカラフルなドライフルーツ。

 漆黒のテーブルの端には魔道コンロが置かれ、その上には湯気を上げるポット。温かなお茶が土筆の前にも差し出された。


 「真っ青なお茶ってはじめて見る」

 笑美の言葉通りに青空よりも濃い青のお茶である。


 「うむ、ここより西で作られておるお茶で、空の雫と呼ばれておるのじゃ」

 アステリアスの説明を聞きながらお茶の香りを確かめる土筆。爽やかな香りと仄かに燻されたかのような香ばしいさが鼻をくすぐる。


 「こちらもどうぞ。このほとんどが私の地元で作っているドライフルーツです」

 レナの差し出す気の器にはカラフルなドライフルーツ。そのまま乾燥させた物もあれば一口サイズに切り乾燥させた物まで様々だ。どれも一口サイズで食べやすく宝石のような輝きを持っている。


 「あま~~~~~~いっ」

 コハクのようなドライフルーツをひとつ口に放り込んだ笑美の感想である。


 笑美の感想にアステリアスとレナは笑いを堪えながら「そうじゃろう」とドライフルーツを口に入れ手で口元を覆う。口を開けて笑うのは、はしたないとされているのだ。


 終始笑美が会話をリードし、それに応えるアステリアスとレナ。

 土筆はゆっくりとお茶とドライフルーツの味を確かめるように食していく。


 いくのだが視界の端に小さな人影が写りこむ。

 先ほどとは違い赤い衣装の小人。ヒゲとプレゼント袋を持たせたらサンタクロースといった姿である。


 テーブル端にある魔道コンロ近くに座り弱火を見つめ体を左右に揺らしている。

 土筆はその姿を見つめ小人と同じリズムで頭を左右に揺らす。

 顔はにやけ三人の話を完全に遮断し小人の横顔を見つめる。

 三等身ほどの小人が膝を抱えて座る姿を凝視し、気が付けば魔道コンロ近くまで身を乗り出していた。



 そんな姿を見る三人の感想は様々だった。


 土筆殿には何かしら見えているのだろう。我に見えないのが不思議じゃの。


 異世界転移によるストレスかもしれません。早めに手を打った方がよろしいのでしょうか……


 これは私にも見えてる体で話を合わせた方が面白くなるかも!



 その三人の視線に気が付いた土筆は顔を上げ声に出さず指で小人を指差す。


 アステリアスは頷き指先を見つめ微弱な魔力を感じ取り、これが土筆殿の言っていた小人の正体なのかの? そう結論付ける。


 レナもゆっくりと頷き優しい目で土筆を見つめ、幻覚を伴う状態異常やストレスにおける心のケアを考えていた。


 笑美はうんうんと頷き一番小さなドライフルーツを取り、「ほ~ら、ごはんだよ~」小声で小人がいるだろうところにゆっくりと置く。


 急に目の前に現れた小人の頭サイズはあるドライフルーツに驚くも笑美の言葉を理解してか、両手を上げ喜び「まぁ~」と可愛らしい声を上げドライフルーツに飛びついた。


 ハムハムと食べる小人。

 その手があったかと悔しがる土筆。

 ゆっくりと小さく無くなっていくドライフルーツを見て驚愕するレナ。

 見えている体で行くつもりだったが、本当に何かしらの存在が自分の与えたドライフルーツを食べ、小さく減っていくドライフルーツに目を見開く笑美。

 小さな魔力の揺らぎを感じたアステリアスは推理から確信へと変わり、いち早く気が付いた土筆の潜在能力を評価する。


 ハムハムしていた小人は食べ終わり両手を上げて「まぁ~」と叫ぶ。ドライフルーツをご馳走になった感謝だろうと土筆は思い「お粗末さまです」と小声で答え頭を下げる。


 小人は両手を下げるとゆっくりと歩き出し魔道コンロへと向う。そこが小人の家であるかのように魔道コンロの中へと入って行った。


 土筆の視線を追うように三人も魔道コンロを見つめる。


 「土筆殿には見えたようじゃが何だったのかの? 微細な魔力が動いておったが……」

 「魔道コンロに使っている魔石が関係しているのでしょうか?」

 「ドライフルーツが浮いて減っていくとかスゴイ! 兄ちゃん! どんな姿だったの?」

 テーブルに身を乗り出して聞いてくる笑美。目の前で起こったファンタジーな光景に興奮を隠せないでいる。


 「手乗りサンタ? はじめ見たのは白だったけどテーブルにいたのは赤い服で三等身ぐらい?」

 身振り手振りで大きさや特徴を説明する土筆をキラキラした目で見てくる三人。


 「アステリアス様。そろそろ移動しませんと日没に間に合わなくなる恐れがあります」

 鎧族のリーダーから掛けられた声に「うむ」と返し、休憩を終わらせる指示を出すアステリアス。


 レナが「小人さん移動しますよ」と小声で話しながら魔道コンロを注意深く片づける様を見て、少しほっこりする一同だった。




 

お読み頂きありがとうございます。

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