ファンタジー世界での移動
天使長の魔方陣に乗り光の中に消えた輝と美土里。
土筆と笑美の二人は絢爛豪華な馬車に乗せられ雪がちらつく道を進む。
馬車の中にはアステリアスと、アステリアス様の専属メイドと名乗るレナという少女が一緒に乗っている。
金色のツインテールのアステリアスとは対照的に、銀髪のセミロングの髪を軽く纏め上げフリル付きのカチューシャにフリフリメイド服姿。
身長はどちらも成長期を思わせるほどの背丈で、メリハリのないあどけなさ全開であった。
そして、一番の特徴が額にある小さな角。彼女の種族名は鬼人族であり、一般的な大柄の鬼人族ではなく北の寒冷地に住む鬼人族。作物の収穫が少ない中での生活で体を小さくし、体力よりも魔術に秀でた進化を遂げてきた一族である。
よく小鬼族と間違われる事があるのだが、透けるような色白の肌で見分けて欲しいと自己紹介をした。
「それでじゃが、まあ、あれじゃ。改めて言わせてもらうが、この度は巻き込んでしまって申し訳ない」
座りながらではあるがアステリアスは頭を下げ謝罪する。隣に座るレナは一瞬驚いた顔をするが遅れて頭を下げた。
勇者召喚に巻き込まれた土筆と笑美へ対し召還に加担した一人としての謝罪。
元をただせばトクベリカが原因なのだが、そんなことを知らないアステリアスからしたらサキュバニア帝国の第三王女として正式に頭を下げ、一年間という長い期間を不本意にこの国で過ごすことになった二人へ謝罪という形で誠意を見せたのだ。
「アッちゃん気にしないでよ! 私とアッちゃんの仲じゃない」
たった一日であだ名まで付けている笑美。
「異世界の食事も気になるし」
輝との別れで目の充血が収まらない土筆も自分よりも幼いアステリアスの謝罪事態が気まずく空気を変える為に話を続ける。
「それに、ほら、この馬車を引くモコモコした不思議生物とかにも会えたしさ」
「そうそう超かわいいよね。巨大なカピパラみたいだし」
二人のフォローにアリステリアも頭を上げほほ笑む。
ちなみにこの馬車を押すカピパラに似た生物はカピーラ。馬ほどの大きさで体毛が白く長いカピパラそっくりな四足獣。魔獣に分類されるが人懐っこい性格で草食であり長い体毛は肌触りがよく保温性に優れコートやマフラーなどの防寒着として人気が高い。
本体はもっと寒冷地に生息する魔獣なのだが、北の鬼人族との友好の証としてサキュバニアで多く育てられている。
「そう言ってもらえると助かるのじゃ」
「カピーラ可愛いですよね」
レナも自領の特産を褒められたのが嬉しいのか両手を合わせ笑顔へと変わった。
「他にも異世界だと感じるものもいっぱい見れたよな」
「護衛の人とか鎧だし、空に島あるし、町には老人の猫耳いたし、不思議がいっぱいだよ」
テンション高く異世界を語る笑美。
「うむ、鎧族はここサキュバニアにしかおらんからな。猫耳族はどこの国にもおるし、まあサキュバニア帝国は多くの種族が暮らすしのう。それにしても異世界には猫耳族や獣人の類がいないのじゃな? それの方が我としては不思議じゃ」
「そうですね。鬼人族もいないのですよね?」
可愛らしく頭を傾け聞いてくる二人。
「絵本の中。架空の生物として登場するぐらいですね」
「そうそう、アニメの中で出てくるぐらい。会ったのは初めてだし、友達になれて嬉しいよぅ」
キラキラした目で夢魔族であるアステリアスと鬼人族であるレナを見る笑美。
友達認定発言を否定してこない二人を見て安心する土筆。
「では、そろそろ本題に入ろうかのう。まず、勇者様たちは今頃王都で母上に挨拶して旅の準備を進めておるじゃろう。そなたたちは、これより我が友が収めるレガンス領で一年過ごしてもらう」
「はいはーい、どんなとこ? 海ありますか?」
手を上げ、話を遮る笑美は海なし県民。海への憧れが強く夏休み中だったこともあり海へ行きたいのだ。
「うむ、馬車を使えばすぐじゃな」
「馬車? カピさんじゃなくなるの?」
「カピーラとは途中でお別れなのじゃ。船で川を下る方が早いからのう」
「おおおお、川下りまであるんだ」
「七日かけての移動なのじゃ。途中新年を迎え休日を一日取るのじゃが、余り月に忙しなく移動るすことになる。すまんのう」
サキュバニアではひと月が三十日であり、それが十二月ある。残り五日を余り月と呼びその期間は家族で過ごし新年を迎える。これから本格的な冬に備える期間でもあるのだ。
裕福な家庭では王都へ行き召還された勇者を見に行った者も多いことだろう。
「アッちゃん気にしないでよ! 気分はサマータイム! 寒いけどギンギンな日差しを受けて常夏なんだから」
笑美のフォローにうむと頷くアステリアスと笑美のテンションに少し疲れてきたレナ。
「それでなのじゃが、お主たちが極力異世界人だとばれないようにした方がよいと天使族が言っておったじゃろ」
「あー言ってた気がする。異世界の文化はお金がどうとか?」
「はい、過去にも勇者召喚に巻き込まれた方が新たな文化を生み出し、巨大な富を国にもたらしました。もちろん勇者自身の活躍もあると思いますが、近年では酒の勇者がもたらした金醸なる酒や、酒の勇者様に巻き込まれ来られた方が簿記なる算術をもたらしたりと……」
「なかには汚点となる者もおっての。四代目の遊びの勇者とそれに巻き込まれた者がのう……」
「そういえばなんで初代さまとか、酒の勇者さまとかの言い方なの? 名前は言わないの?」
「おお、それはじゃな名前を呼ぶのが禁止されておるからなのじゃ。名がわかるだけで呪いを行使したりできる種族もおるからなのじゃ。他にも商品の売り文句にしたり似た名前を付けてあやかろうとしたりのう。そんなこともあって禁止されておる」
「へぇ~アッちゃんとレッちゃんは勇者さまに会ったことあるの?」
「うむ、我は全員と会ったことがあるし大魔王様とは仲良しじゃ。稽古をつけてもらったこともあるのじゃ」
自慢げに腰に手を当て無い胸を張るアステリアス。
「私も何度か初代様と大魔王様にはお会いしました。お二人とも神々しく大魔王様に至っては……」
レナは両手で大魔王の大きな胸を手振りで再現する。
「おおおおっ母さんぐらい大きいかもっ」
まさにその母である。
「笑美の母上殿も胸が大きいのかのう……」
「それは羨ましいですね……」
「母さんはね……」
堕ちこむ貧乳たちの横で土筆は居心地の悪さを感じながら窓の外へと視線を移す。
外には平原が広がっており見慣れない背の高い木や、野生生物なのか鹿に似た動物がその期の周辺に固まって暖をとっており長閑な風景が広がる。
空には浮かぶ島が遠くに見え、そこから流れる滝や流れる雲の色が黄色がかっていたりとファンタジーなところがある世界なのだ。
そうファンタジーなのだ。
土筆と外を隔てるのは一枚のガラス。所々に気泡が入っているガラスだがよく見え透明度は高い。中と外の温度差で曇りはあるもののよく見える。
そんなガラス越しにファンタジーな小人が張り付いていた。
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