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梶野宮家の転移家計簿  作者:
 第一章 異世界転移編
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説明 スキル



説明を受けた異世界人一行は別の部屋へと通された。

先ほどまでの石造りの簡素な部屋から大きな窓が四方にある最上階のスイートルームを彷彿とさせる豪華な大部屋。嫌みのないブラウンの家具から天井へ目を向けると金銀が踊るシャンデリア。床にはタイルが敷き詰められ白地に青の幾何学模様が浮かぶ。

一言添えるとしたら「落ち着かない」である。


「落ち着かない」

土筆の呟きに輝も頷く。


一般庶民である梶野宮家とはかけ離れた一室。いや異世界なのだが普段の生活とは違いがあるのだが……

テーブルには黄金や虹色をした果物がウエルカムフルーツてきに置いてあり、異世界なのだと実感させられた。


「兄ちゃんこの服大きいよ」


先ほど天使に着替えるようにと言われ、指輪の収納から取り出した服。まるで中世の貴族が着るようなボタン一つまで細工の入った立派な作り。サイズは一般中学生よりも大きく成人男性用だろうか。


「とりあえず着てみ、裾は折るから」


土筆の言葉に輝は素直に頷き着替えを始める。

土筆も着替えを始めようと収納から服を取りだすため、透明なディスプレイをタップする。

ディスプレイの先に落ちてくる衣服。

慣れない不思議現象に多少の戸惑いを感じながらも袖に腕を通す。


「兄ちゃん! この服スゴイ!」


声に着替え途中だった土筆は振りむき、輝の姿を確認する。かなり大き目に見えた服がぴったりに収まっている。見れば土筆のスラックスもウエストのサイズが小さいがゴムのように伸びる。伸縮性があるとは思えないような生地であるのにだ。


「もう伸びない? どうなってる? 魔法? 仕様?」


ウエストの部分を摘み広げて見るが一般的な広がり方をするだけで、先ほどのような伸縮性を持っておらず、新たな不思議に首をかしげる。


「兄ちゃん! この服スゴイ!」


煌びやかなエプロンドレスを着た笑美がドアを開け、輝と同じ言葉を叫びながら部屋へと乱入する。

続いて美土里や天使たちもなだれ込み「キャー」と叫び声をあげ退散した。


「土筆さま。身なりが整ってないのなら呼び込まないで下さい」


そう苦笑いの天使に注意を受ける土筆。その後ろでみんなに遅れて「キャー」と叫びながら部屋を出て行く笑美。

呼び込んだ覚えのない土筆は理不尽だと思いながらも口にせず、上着を素早く着こむのだった。



着替えを終えた一同はこの最上階最大の広さを誇るダンスルームへと通された。なにもダンスをするわけではない。説明途中だったことと、重大な発表があるためである。


真っ赤な木目のあるテーブルには湯気踊る紅茶が人数分。重厚なソファーに腰を下ろす異世界人四人。天使を合わせ四方に立つこの世界の住人達。召喚された場所が違うだけで同じ立ち位置に着いていた。


「皆様良くお似合いです。それでは勇者の発表をしたいと思います」

軽いお世辞から始まった天使の言葉に耳を寄せる。


「まずは……」

天使は輝、美土里、笑美、土筆と順に視線を向ける。

天使が行っていたのは鑑定である。

其の者のスキルを看破する力であり、世界での使い手は五人にも満たないほどレアなスキルである。


輝を鑑定する天使はゆっくりと頷き、「この者が勇者である」と言葉を発する。


美土里を鑑定する天使は目が大きく見開かれ、「この者も勇者である」と言葉を発した。


笑美を鑑定する天使は笑美から来るキラキラの期待した眼を反らし「勇者ではないがレアスキルを持っています」と言葉を濁す。


土筆を鑑定する天使は優しい笑みで「勇者ではありませ……うぇ!?」発言中に静止したと思えば目が見開かれ口までもが大きく開き、表情が百八十度変わったのだ。

スキルの内容に驚いたのではない。まあ、スキル事態も今までに見たことのないものではあるのだが、それ以上に気になる項目があり驚きの表情へと変わったのだ。





梶野宮 土筆 十九歳


スキル一覧


努力・頑張れ!

庇う・トラックだって受け止めちゃう?

父性・年下への溢れ出る親心ロリコンではない

ツッコミ・ボケの後に発動し場を整える

封印・ナイショだよ


称号

梶野宮家の魔王・怒るとご飯を作らない


人となり・梶野宮家の母親的存在。大学受験を輝と笑美のインフルエンザにより失敗するも保父の職を目指している。




父・初代勇者

母・大魔王





息を整え改めて他の三人を見渡し両親を確認。美土里の両親が銀行員の中間管理職ということに親近感を覚えた。


「そうじゃない……」

天使は一瞬現実逃避していた自分を奮い立たせ姿勢を整える。


梶野宮家三人は兄妹なのだ。特に訳あり一家でもない普通の家族であり……なんだよ! 大魔王と初代勇者の子供ってよっぽど訳ありだろ!!! そもそもなんでこんな訳ありが召喚され……分体様……

よし! 気が付かなかったことにしよう。


天使は色々放棄した。



「では、勇者は輝さまと美土里さまです。はい拍手」

コロコロと顔色を変え落ち着いたと思ったら笑顔で発表する天使。周りは困惑顔で拍手した。


「明日の朝から輝さまと美土里さまは別行動になります。十五カ国を天使一同と回って頂き、十ヶ月後の勇者祭りへ参加して頂きます。一年後この場所で送還させて頂きますので、そのつもりでお願い申しあげます。何か質問はありませんか? ないですよね?」


早口で捲し立てる天使の言葉に笑美は手を天高く上げる。


「はい! 私が魔王を退治します!」

元気な宣誓に天使は思う。この子は話を聞いてない子だと。


「今聞くことはそれじゃないだろ。帰れるのは一年後ですよね? 冷蔵庫の中身とかどうにかなりませんか? こっちに持ってこれないのは諦めるとしても、帰ったらカビだらけの腐乱臭漂う冷蔵庫とか……」

土筆の言葉に天使は思う。それも今聞くことなのかと。


「はい! 私が勇者ってことは世界の半分が……」

美土里の発言に天使は思う。こいつもダメだと。


「あの、たまには兄ちゃんたちに会えたりしませんか?」

輝の発言に天使は思う。見本みたいな質問だ。道中はこの子で癒されようと。


「週に一度は転移で会いに行くこともできます。精神的なフォローも任せて下さい」

笑顔で輝の問いに答える天使。


「笑美さまの質問ですが後ろで立つ二人は現魔王の御息女で在らせられます。五度目となる勇者召喚。この度は初めて魔国側での開催となり、ここサキュバニア帝国が選ばれたのです。ですから魔王=悪い人ではなく魔国の王さまです」


天使の説明に笑美は「私のtueeeチートが……」と悔しそうに呟く。


ちなみに笑美のステータスは以下の通りである。





梶野宮 笑美 12歳


スキル

ボケ・ツッコミへの信頼有き

コント・東京○3

媚びる・よっシャチョさんスゴイね

特殊効果・コントで使えそうな物が色々あります

封印・ヒミツ


称号

コメディ・笑えばいいと思うよ


人となり・ひとつ相談すると、ふたつ悩みが増えるタイプ。調理実習でクラスメイトから公害の発生源と呼ばれるほどの調理技術を持つ。

本人曰く「タバスコのポテンシャルは隠せない」




父・初代勇者

母・大魔王



笑美はチート(笑)であった。


「それと言い忘れそうになりましたが、一年後住んでいた場所へ送らせて頂く時期は夏休み終了の二日後になります。後日、夏休みの宿題とそちらの勉強セットを用意させて頂きます」


天使の残酷な言葉を聞いた約一名が椅子から崩れ落ち奇声を発する。


「ぎゃー!? 何で余分なことを!!! 鬼!」

「天使です」

笑顔で答える天使に叫びを続ける笑美。

「悪魔!」

「天使長です」


「兄ちゃん! 異世界には人権がない!」

土筆へ振り向き助けを求めるが「夏休みの宿題は生徒の義務だろう」というぐうの音も出ないツッコミを貰い輝と美土里へと縋りつく。


笑美えーちゃんよく聞いて。一カ月で終わらせなきゃいけないものの猶予が一年もあるのよ!」

どや顔で語る美土里に苦笑いの輝。


「おっおおおおおおおお、異世界でも美土里みっちゃんの頭は冴えてる!」

「私は輝のを写すけどね」

椅子から立ち上がり笑美を下に見ながら、どや顔MAXである。

「にゃ、にゃにおぅ! ずるいぞ!」


笑美も立ち上がり掴みかかろうとしたが、天使の大き目の咳払いに動きを止める二人。

美土里は何事もなかったかのように椅子へ座り、笑美は後方で控えるアステリアスの横へと進み、夏休みの宿題がどれだけ残酷で無慈悲なものかを小声で力説する。

アステリアスは「説明を聞かなくていいのか?」と喉まで出かかるが、盛りに盛った宿題の話に身を震わせた。


「もう一つだけ重要な、いえ、最重要な話があります」

最重要の単語に土筆が笑美を呼ぼうとするが天使は顔を横に振る。

関わらなければ脱線することなく話が早く終わると天使も気が付いたのだ。


土筆も顔を縦に振る。

初めのころは輝いて見えた天使から輝きが薄れてきていることに。いや、疲れて見えてきていることに。

これから聞く話はあとで伝えよう。何やら、あ~んした美少女と仲良くなっているようだし、友達になってくれるかもしれない。

土筆はそんなことを思いながら天使の話に集中した。


「指輪のことなのです」


天使は両手を前に出し、土筆たちが先ほど装備した金の指輪をその手に出現させた。

それを指で摘み口を開く。


「この指はとても便利に作られています。その中の機能で特に注意して頂きたいのがヘルプの項目にもあるように子作り禁止にまつわるものです。異世界人特有のものになりますが、どの種族とでも子孫が残せる強い生殖能力の封印が施されているのです」


天使の説明に頬を染める異世界人たち。

約一名は異世界の情報収集「だから私が助け出した王子様から求婚されて……」もとい無駄話をしている。


「男性の場合は使用不能になり、女性の場合は鉄壁のシールドが付与されます。溜まったものは魔力へ返還されますので問題ありません」


真剣に聞く一同と「意地悪な公爵令嬢との対決は……」他一名。


「もちろん副作用なども確認されていません。もし不安に思うことがありましたらヘルプの項目か私へメッセージを飛ばしてもらえば、右上のメールの項目に私へ届くアドレスがあります。困ったことがあれば大小関わらず、お応えできる範囲で答え相談にも乗りますのでメールして頂けたら……」


「はいっ!はい!」

笑美の手が垂直に上がり天使へと走り寄る。どうやら話を聞いていたらしい。


「おしっこしたらシールドで大変なことになったり」

「なりません」

ほぼ被せるように答える天使は笑顔である。


「兄ちゃんがオネエになったり」

「なりません……たぶん……ですよね?」

即答した天使は笑顔から眉間にしわを寄せ、土筆へ視線を送る。


「えっ、はあ、ん?」

一年後に自分がオネエになる可能性を聞かれても、どう答えたらいいか分らない土筆だった。







お読み頂き、ありがとうございます。

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[気になる点] 土筆を鑑定する天使は優しい笑美で とありますが誤字と思われます
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