イレーネイルの対応と小さなテントを設置する土筆たち
「なるほど、それで帰って来たのですね。メイド長! 直ちに冒険者ギルド長をお呼びして下さい」
「畏まりました」
メイド長を見送ったイレーネイルは遠征訓練から戻って来たココアの報告を受け、すぐに動くべく行動に出る。
「エルムレスはアプリコットにすぐに動かせる報奨金を用意させて下さい。それと第二と第四中隊の遠征準備に回収用の馬車の点検をさせて下さい」
「畏まりました」
領主らしい行動をするイレーネイルはペンを取り海洋都市マーメイドへと商業ギルドに緊急の文を送る為の内容を考え、筆を走らせる。
「自分は笑美の元に戻ります!」
「そうですねぇ。そうして下さい……それとテントの設置も許可致しますが、角うさぎが外に出ない様そこだけは注意するようにして下さい。私も時間ができたら中に入り確認をしますのでぇ、エムエムさんでしたか? その方にも注意するように伝えて下さい」
顔を上げず文を書きながら話すイレーネイルにココアは敬礼を取り部屋を出る。それを確認したイレーネイルはペンを止めて息を吐き、今の私は領主らしい領主ですぅ。と自身が領主らしい姿をして指示を出した事に満足し、ペンを走らせる。
「スリープキノコは危険な魔物ですが、それなりの高さのある塀があればぁ街に侵入できませんしぃ、油断しなければ問題なく倒せる魔物。遠距離からの攻撃に弱くぅ弓の得意な狩人やぁ冒険者にぃ衛兵にもぉ協力してもらいましょうかぁ……」
ひとりごとを呟きながら今後起こりうる被害を想定し、イレーネイルは対策を立てるのであった。
「意外と簡単に組み立てられるんだね!」
「強い風や雪対策も考えないとだな……テントに対して考えるのも変な感じだけど、必要だよな……」
「今年の雪は凄かったですからね」
「ん……あれは……凄かった……」
レガンス領の離れの屋敷ではイレーネイルに報告をしたココアが戻り、土筆が主導しキッチンから外に出られるドアの近くに白いテントを建て終えた。
「氷の大精霊さまが原因でしたが、ペグで留めているので屋根を作った方がいいのかな? そうなると壁も……」
「ふふふ、テントの為に小屋を作るのですね」
「あっちとの入り口ですから必要ですね。カモフラージュに薪置き場に見える様にするのも良いかもしれません」
「大工仕事ならパティートが得意ですよ。屋敷の屋根を直したり、薪置き場の小屋の雨漏りも治して頂きました」
「ん……パティの少ない……特技……」
「エルエルが視認できなくする結界を張れるのですよ? 張るのです?」
笑美の頭の上に乗っていたエルエルは土筆の目の前へと飛びながら移動し、身振り手ぶりで説明する。
「結界で壁と屋根を付け色を付けるのです! 簡単な色から木の皮やレンガなどに見せ掛ける事ができるのです! 結界魔法は便利なのです!」
結界魔法の有用性は耐熱容器などで実証されており、そのスペシャリストであるエルエルなら結界に色を付けたり模様を施したりするのはお手の物である。
「それならお願いしようかな。外は薪の絵を施して、入口は少し広めにお願いな」
「任せるのです! 結界なのです!」
白い小さなテントはエルエルの結界魔法に覆われ、周りには薪を積み上げた様な絵が施される。が、画力に問題があるのか小学校低学年が書いた様な薪の絵に、周りから小さな笑いが起きる。
「年輪が渦巻きっす……」
「個性的ですね……」
「趣があって良いと思います」
「エルエルありがとな。周りに薪を積んでカモフラージュさせようか」
土筆のフォローに察したエルエルは頭の上に降り立ちシュンと座り込む。
「エルルにも弱点があったんだね! でも心配しないでよ! 弱点は仲間が補うんだぜ! ね、兄ちゃん!」
その言葉を聞いた土筆は笑美に瞳を向ける。
「笑美は弱点多いからな」
「うっ!?」
ショックを受けた様に胸を押さえる笑美に追撃の言葉が向かう。
「朝弱いっす」
「落ち着きがにゃいのにゃ~」
「よく怒られる……」
「調子に乗って怒られますね」
「夜にお菓子を食べて怒られてました……」
乙女たちからの追撃の言葉ごとに胸を押さえる笑美。
「怒られてる話ばっかりじゃん! 誰か褒めてよ! 私だって良い所あるよ! すぐには思いつかないけど、きっとあるよ! ほらカモン!」
胸を押さえていた両手を広げ長所を言えと迫る笑美。
「明るいっす」
「元気だにゃ~」
「ひとりで……賑やか……」
「背が高い?」
「みんなさんを笑顔にしてくれます」
最後に発言したレレの言葉にパッと笑顔へ変わり、飛び付き抱き締める笑美。
「レーちゃん大好き~レーちゃんが私を一番わかってるよ~」
そんなやり取りを頭の上で見ていたエルエルからも笑い声が上がり、こういう所だよなと思う土筆。
「よし! 気合を入れて料理を作るかな。みんなが帰ってきたら大盛りで向かえないとな」
「はいはい! ピザ食べたい! シンプルなのと、照り焼きチキンが乗ったのと、餅を入れたのと、マヨコーン!」
「溶けたチーズが美味しいっすよね!」
「私は芋を乗せたピザが食べたいです!」
「魚のピザにゃ! 魚を乗せるのにゃ~」
「ローストフォースを乗せても美味しいかもしれませんね」
「それだ!」
先ほど食べたローストフォースの味を思い出したレレがピザに合うと思い発言すると、笑美から賛同を得られ他の乙女たちからもそれが食べたいと声が上がる。
「にゃ~魚も乗せたいにゃ~」
ただ一人、ペルーシャだけは魚を推すのだった。
「スリープキノコとは……」
執務室に呼ばれた狐耳のギルドマスターの女性はイレーネイルからの話に深刻な表情を浮かべた。
「アステリアス殿下と第三近衛中隊が残り情報を集めていると思われますが、どこまで広範囲に広がったかは、まだわかっていません」
「索敵が得意な森人族も参加してくれると先ほど報告が届いています」
エルムレスとアプリコットが報告しイレーネイルは静かに頷く。
「冒険者ギルドもすぐに対応させて頂くわ。弓の名手は冒険者ギルドにもいますし、遠距離からの攻撃で倒す事を想定し、後は森に慣れた者ですね……」
「こちらとしてはぁ、報奨金の出し惜しみは致しませんからぁ、できるだけ速やかに討伐が終わる様お願い致しますぅ」
「参加者には銀貨二枚に、魔物の範囲を想定して討伐報酬は一匹につき銀貨五枚といった所でしょうか。スリープキノコは感想させれば保存食にもなりますから、それらを売った利益の20%は冒険者ギルドに……暇な冒険者にその仕事を任せる事もお願いしたい」
「それは……我々に理があり過ぎる気がするのですが……」
「人員不足なのですぅ。塩ダレ事業やぁ水あめ事業にぃ増設する施設の建築などぉ……人手が足りないのですぅ。売上によって財政は潤っていますがぁ人が圧倒的に足りないのですぅ」
「人が買えるなら百名ほど買いたいぐらいですね……失礼、失言でした」
アプリコットの発言は奴隷制度のあった過去に由来するものであり、冗談混じりに言ったアプリコットへと厳しい視線が領主と冒険者ギルド長から飛びすぐに謝罪したのだ。
「まったくだ! 信用できない者が働いても作業効率は落ち、下手したら技術の漏えいや横流しなどが行われ……信頼できるものにしか任せられないのが現状なのだ!」
「塩ダレは冒険者の間にも広まっておりますわ。あのタレを掛けるとどんな料理も美味しくなって、水あめも画期的ですわね! 砂糖よりも安価でありながら甘く癖が全くないのです。紅茶に入れて嗜むのが流行っていますわ!」
「流行り過ぎるのも問題なのですぅ」
「流通に対して生産が間に合わないのだよ……はぁ……」
「流行るのも大変なのですねぇ」
「まったくだ……」
そこへノックの音が響き、メイド長がドアを開けると笑美とココアの姿があり、その後ろには見慣れぬ人型をしたゴーレムがおり、自体が急加速するのであった。
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