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梶野宮家の転移家計簿  作者:
第八章 五月は割と暑い日が多い
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みんなでカレーを食べましょう



日も傾きオレンジが空に色を落とすころ、竈には鉄串に刺したグリーンフォースの肉が煙を上げ香ばしい匂いが立ち込める。

キャンプ地の周りには数カ所の松明が置かれ、テントを中心に光の魔術が発動し光球も数カ所に浮き、足元も見渡せるほどの明かりが確保されていた。


「キャンプはやっぱりカレーだね!」


白米に絡めスリープキノコ入りのカレーを頬張る笑美は、ひと口食べるごとに満足げな笑みを浮かべながら口を動かす。


「スリープキノコの食感が面白いっすね。味も良いっすけど、この食感が癖になるっす」


「苦労して討伐したし、それを土筆が料理して……美味いし!」


「私も手伝いましたが……美味しいですね。お肉が柔らかいのに存在感があります」


「うむ、このスリープキノコのカツもカレーに合うのじゃ」


「カツは肉や魚も美味しかったですが、キノコを使っても美味しいのですね」


「肉厚のスリープキノコのカツはサックリジューシーで、カレーを絡めると思考の味です」


「にゃ~は魚のカレーに魚のカツがいいのにゃ~これも美味しいにゃ~でも魚が良いのにゃ~」


「カレー……キノコ……美味……」


それぞれに感想を言い合いながらカレーとスリープキノコのカツを食べる乙女たち。その香りに鼻をヒクヒクとさせる第三近衛中隊の近衛兵は食べ慣れたグリーンフォースの串肉に噛り付く。


「グリーンフォースの串肉も美味しいが、あの匂いが気になってしまうな」


「土筆さまの差し入れてくれたバター炒めも美味しいですが……」


「あの香りが、匂いが、隊長!」


「干し肉以外を食べれるのは嬉しいのですが、ああもカレーの匂いが立ち込めていると……」


「うう、私も土筆さまの部隊に配属されていれば勝ち組の夕食だったのに……」


「お前ら……これは飽く迄も遠征訓練であって笑美殿のいうキャンプとは違うのだ! 私だってあの匂いに胸を焦がすが我慢しているのだ! 土筆殿は優しくこちらが頼めばカレーを用意してくれるだろうが、二十人前も追加で作らせては迷惑になる! それが解らんお前たちでもあるまい……そうでなくともレトリバー領を救っていただき夜食まで用意してくれたのだぞ……あのスープも美味かったな……」


数週間前のレトリバー領で起きたレッドブルによる大進行スタンピートを思い出し、グリーンフォースの串肉を口に含む隊長のピピラ。


「あれは煮込みうどんという料理ですね」


突然の言葉にグリーンフォースの串肉を喉に詰まりそうになるのを何とか飲み込んだピピラの目には大鍋を持った土筆の姿があり、短く刈り取った草の上に手にしていた大鍋を置き深めな木皿にお玉を指輪の機能から取り出す。


「遅くなりましたがスリープキノコを使ったカレーです。ライスは用意できませんでしたがパンを付けて食べても美味しいので、ご賞味下さい」


大鍋の蓋を開けるとカレーの匂いが立ち込め、第三近衛中隊の近衛兵たちから歓声が上がる。


「やった! 噂に聞くカレーが食べられる!」


「なんど離れの屋敷に忍び込もうとした事か!」


「この香りは心に響くぅ~」


「魚のカレーもあるにゃ? あるのにゃ?」


歓声を上げた中でも新人たちは特に喜び、離れの屋敷から流れてくるカレーの香りに目を閉じその味を何度も想像した事を思い出す。


「魚のカレーはないですが、レッドブルを使ったキノコカレーです」


シャムールのリクエストする魚のカレーではない事を伝えながらカレーを配り、指輪の保存機能からまだ温かいロールパンを乗せた大皿を置くと我先に手が出現し、パンの山を崩しにかかる近衛兵たち。


「土筆殿、感謝する」


ピピラの言葉に続き第三近衛中隊たちからお礼の言葉が重なり、会釈で返した土筆は邪魔にならない様にその場を離れる。


「味が複雑すぎて、意味が解らない!」

「辛いけど匙が止まらない!」

「辛さの奥に甘味がある……美味しい……」

「レッドブルの肉をまた食べられるなんて……」

「美味しいのにゃ……コリコリするキノコと肉が……芋も入っているのにゃ!?」

「土筆さまの愛人になればカレー食べ放題?」

「ちょっ!? あんまり不敬の事いわないでよ!」

「殿下を敵に回すとか有り得ないから!」


愛人という単語が耳に入ったアステリアスは眉間にしわを寄せ近衛へと視線を飛ばすと、一斉に顔を背ける第三近衛中隊。


「土筆さまの人気が出ると困る女性は多いですからねぇ」


「そうっす! 最近の土筆殿は多くの女性から色目を使われてるっす!」


「なにそれ、あーしの耳には入ってないし! 教えろし!」


「ほぅ……それは気になるのじゃ……」


 レナの発言にココアが乗りキャルロッテが情報を求め、アステリアスが眉間のしわが更に深くなる。


「さっきもエムムを泣かせてたよね~」


「それは違うだろう」


 白い小さなテントに入ろうとした所で笑美の言葉にツッコミを入れる土筆。


「ですが、エムエムさまはとても嬉しそうにしておられました」


「嬉しそうにしていたのはアステリアスさまにゃのにゃ~膝枕され頭をにゃでられていたのにゃ~」


「うむ、あれは良かったのじゃ! 安心するというか……土筆を近くに感じる事ができたのじゃ……できたのじゃが……」


 アステリアスの顔は真っ赤に染まりカレーを食べていた匙を置き、赤くなった顔を隠す様に両手で覆う。


「い、いま思うと……とんでもない事をしておったのじゃ……恥ずかしさが……ぶり返すのじゃ……」


「確かにあの姿は婚約前にするものではありません!」


「あーしはしてみたし! お願いしたいし!」


「自分は無理っす! 絶対無理っす! 鼻血がでるっすよ!」


 聖女が怒り、キャルロッテが求め、ココアは拒絶し、その話を耳にした第三近衛中隊の女性たちはキャーキャーと黄色い悲鳴を上げる。


「見ているこっちが恥ずかしくなりましたね……」


「ん……あれは……甘え過ぎ……」


「最近は兄ちゃんの膝枕してもらってないな~耳掃除もしてもらってない気がする~」


「それはエルエルさまの浄化魔法の効果で、耳垢が消失しているのでしょう」


 レレも頬を染め、ペティートは以外にも大人の意見で否定し、笑美は耳掃除の話へと話題を変え、レナが浄化魔法の効果だと推測する。


 そして、件の土筆はというと白く小さなテントに入り、エルエルとエムエムの待つ屋敷へと向かっていた。


 テントの中の空もオレンジから黒へと変わり、星空が浮かび上がる夜空には三つの月が足元を明るく照らし、歩くのにも支障がない中を進む。


 草原を進んだ先にある角うさぎ小屋からはミーミーと高い鳴き声が聞こえ、子供たちがはしゃいでいるのかそれとも遊び足りないのか、元気な鳴き声に小さく笑う土筆は屋敷のドアへと頭を潜らせた。


「お帰りなさいませ」


 慌ててきたのかエムエムの手には木製の匙を持ったままであり、口元にはカレーが付着していた。


「皆さんにカレーを振る舞ってきました」


「これほど美味しいカレーなら、皆さまもお喜びになられたでしょう」


「はい、取り合うように食べていただきました」


「ささ、土筆さまも中で一緒にいただきましょう」


 エムエムに急かされる様に屋敷の中を進み、エムエムと女神ベルカがカレーを食べるテーブルへと付く土筆。


「キノコのカレーは美味しいのです! 添えてあるキノコのフライも美味しいのです!」


「キノコの深みも感じますし、サクサクとしたスリープキノコのカツもカレー似合いますね。ボアカツも美味しかったですが、こちらの方がスリープキノコの味がよく解ります。一見シンプルに作られたカレーがバターで炒められたスリープキノコを入れる事によりキノコの旨味が溢れ、キノコのカツで更なるキノコが合わさり奥深い味わいへ……カレーとは奥が深く底が見えません……これは無限の可能性を感じます……」


 エルエルと女神ベルカからの感想を聞きながらも、土筆はライスを盛りカレーをかけ自分の分を用意する。


「私はスリープキノコの食感がシャコリシャコリとしていて好きです。カレーの味や香りも堪りませんが、口の中で蕩けるレッドブルの肉にシットリとしながらもカレーの味が染みた芋に、オレンジ色の人参と呼ばれる甘い野菜や、蕩けた玉ねぎ……総てが違う味なのにカレーという味でまとめられ……女神ベルカさまの琴線に触れたのも理解できました」


「そうでしょう! エムエムは見所がありますね」


 にこやかな表情で最後の一口を咀嚼し飲み込んだ女神ベルカは、エムエムへ頬笑みを向ける。


「エルエルもそう思うのです! 琴線なのです! 触れたのです!」


 エルエルも褒められたいのか取って付けたかの様な言葉を被せる。


「エルエルも偉いですよ。これからも土筆の傍に仕えなさい」


 優しい笑みを浮かべ諭すように話す女神ベルカ。そのやり取りを微笑ましく見守る土筆はカレーを食べる手を止める。


「おかわりは如何ですか?」


「いただきましょう」


「エルエルもおかわりなのです!」


「私もお願いします」


 カレーのおかわりを盛る土筆は気持ちの良い食べっぷりを見せる女神と天使に、またカレーを作ろうと決意するのだった。




 お読み頂きありがとうございます。

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