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梶野宮家の転移家計簿  作者:
第八章 五月は割と暑い日が多い
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女神ベルカの来訪と届いたスリープキノコ



「えっ!? ああぁ、土筆さまっ!? お願いします」


 カレーの鍋をゆっくりとかき混ぜていた手が止まり、土筆へと木べらを押し付ける様に手渡すエムエム。


「エムエムさん?」


 手渡されるまま受け取った土筆。

 エムエムは急ぎその場を離れ玄関へと走り去り、その後を目で追いながらも土筆はカレーの鍋へ視線を戻し、かき混ぜながら最悪の事態を思案する。


 エムエムさんが急いで走ったのはもしかして……玄関の方から聞こえる声も……カレーの匂いに釣られて来ちゃったのかな……


「はい、来ちゃいました」


 玄関に通じる開け放たれたドアから顔を出したのは女神ベルカであり、薄らと粒子をまき散らしながらリビングへ歩き現れ、吹き抜けになっているキッチンへと声が届き、土筆の頭には驚いているだろうレレやペルーシャに聖女の姿が頭に浮かぶ。


「はっわわわわわ」


 女神ベルカの姿を目にした聖女はソファーから転げ落ち直ぐさま膝をつき頭を下げ、レレはその場で固まり目を点にする。ペティートも驚いているのかその場で固まり、ペルーシャは軽く会釈し大きな口を開け欠伸をする。


「急な来訪で申し訳ありません。女神ベルカと申します」


 そう簡単に自己紹介し会釈をする女神ベルカと、その後ろであわあわしながら後を追うエムエム。


「主さまなのです!」


 エルエルは飛び上がり女神ベルカへと近づきその手に座り、顔を見上げ笑顔を向ける。


「エルエルも良く土筆に尽くしていますね。私は嬉しいです」


「ふわぁ褒められたのです! 主さまに褒められたのです! 嬉しいのです!」


 褒められたエルエルは嬉しさのあまり飛び上がり、部屋中を飛び回り喜びを表現する。


「そして貴女も良くやりました。土筆からカレーの作り方を教わり一緒に調理したのですよね」


 後ろへと振り返りあわあわしているエムエムへ言葉を掛ける女神ベルカに対して、硬直するエムエム。


「いえ、私は、あの、あの」


「落ち着きなさい」


 両手でエムエムの頬を包み込む女神ベルカ。


「貴女は良くやっています。この世界の神である私がいうのです。誰にも文句は言わせません! そろそろカレーも完成するでしょうから、私と一緒に食べましょう」


 そう口にする女神ベルカの手にはエムエムから流れる涙が伝う。


「はい……ご一緒させて頂きます……」


 その光景を目にしたレレや聖女たちも薄ら涙しており、もらい泣きならぬ、もらい感動を受けていた。

 エムエムがこの白いテントの屋敷を一人寂しく管理してきた事は前に聞いていた事もあり、その任に就けた女神ベルカから直接褒められたのだ。目頭が熱くなるのも無理のない事だろう。


「うむ、我らは邪魔になりそうじゃの。シャムールよ、スリープキノコを……聞いておるのか?」


 ダイニングの入り口で女神ベルカの姿を目にしたシャムールは、手に持っていたスリープキノコを入れた革袋を床に落とし硬直していた。


「神にゃ……女神ベルカさまがいるのにゃ……」


 硬直するシャムールにアステリアスは、滅多に会えない女神ベルカさまを前に固まるのは仕方のない事なのじゃが……手にした革袋の重みにウンザリしていた事もあり、床へと降ろし力持ちのレレへと言葉を投げかける。


「レレよ、すまぬが手伝うのじゃ。これを調理場へ運ぶのじゃ」


「は、はい!」


 涙を拭うレレに女神ベルカはエムエムの頬から手を放す。


「それなら私が持ちましょう」


 そういって手を払うとアステリアスが持っていた革袋とシャムールの持っていた革袋が浮き上がり、女神ベルカの前へと空間を滑る様に移動しそのまま浮き続ける。


「土筆に届けるのですね」


「そ、そうなのじゃが……我も行きます」


 笑顔を向けてくる女神ベルカにアステリアスも畏まりながら後に続きキッチンへと足を進める。


「エムエムも褒められて偉いのです!」


 涙を流し続けるエムエムの頭の上に着地したエルエルは、小さい手で優しく頭を撫で泣き止むまでその手を動かし続けた。






「ええっと、女神さまお久しぶりです」


 カレーの鍋を竈から外した土筆はキッチンへやって来た女神ベルカの気配に気が付き、振り返り頭を下げる。


「はい、お久しぶりですね。素晴らしい香りです」


 土筆の事よりも完成したカレーが気になるのか深呼吸しながらカレーの香りを確かめる。


「随分とシンプルな具材のカレーなのですね」


「キャンプのカレーはできるだけシンプルにした方が集まる人の好き嫌いに納得できますし、他にも肉を焼いたりしますからあまりしつこい味のカレーにすると胃もたれの原因になったり、思い出が台無しになるじゃないですか」


「なるほど……キャンプに合わせたカレーなのですね……カレーとは奥深いです……」


 何度も頷き土筆の話を聞く女神ベルカは感心しながらも、アステリアスから奪った革袋を土筆の近くへと誘導する。


「あのこれは?」


「うむ、先ほど狩ったスリープキノコなのじゃ。これも料理して欲しいのじゃが頼めるかのう?」


 女神ベルカの後ろから顔を出すアステリアスに革袋を開封するとキノコ独特の香りが溢れる。


「まいたけに似た香りですが……切り分けてあるのかな?」


 料理しやすいように三十センチ角のキューブ状にカットされたスリープキノコのひとつを取り出し、鼻に近づけ香りを確かめる土筆。


「我の知っている調理法はスープに入れるぐらいなのじゃ。土筆に頼めば何か面白い料理になるかと思っての」


「まいたけの芯に似ている弾力があるので、天ぷらに炒め物にスープや……カレーに入れも面白いかもしれませんね」


 カレーの鍋を見つめていた女神ベルカはその視線を土筆へと戻す。


「面白いとはどういう意味でしょうか?」


 女神ベルカの瞳はやや輝き、その真意を問う為に土筆の瞳を凝視する。


「えっと、面白いというのは味を確かめてからじゃないと解りませんが、キノコ自体は出汁がよく出るので味に深みが出て、食感も楽しめるかと……」


「入れましょう! これは決定です! もし足りないのであればもう数体ここに出現させま……おや、アステリアスと行動を共にしている鬼人族オーガの娘と竜人族ドラゴニュートの娘が三体ほど確保しましたね……こちらへ転送致しましょう」


 手を振り払うと魔化したままのレナと、スリープキノコの腹に拳を突き立てたキャルロッテの姿が窓の外に現れ、急に転移した事により驚きの表情で辺りを見渡し白い屋敷に気が付き頭を傾げる二人。


「我が説明し、解体してくるのじゃ!」


 アステリアスは急ぎキッチンから外に出られるドアを開け二人の元へと走る。


「これで食材は揃いましたね」


 嬉しそうな表情で話す女神ベルカに軽い頭痛を覚える土筆だったが、やってしまった事は戻らないという発想に至り、カレーに入れるためひと口大に切りバターを溶かしたフライパンで炒めて行く。


 キッチンの窓からアステリアスが身振り手振りで説明する様子が見え、アステリアスを含めた三人がスリープキノコを解体する様を見ながら、色が付くまで炒めたキノコをカレーに入れひと煮立ちさせる土筆。


「味見してみますか?」


 カレーが完成するまで興味深く見つめていた女神ベルカに土筆が味見を提案すると嬉しそうな笑顔で「もちろんです」と答え、小さな木製の皿へカレーを注ぎ入れスリープキノコが解りやすいように中央へと寄せ、木のスプーンと共に手渡す。



「ありがとうございます。これがキャンプのカレーにスリープキノコを入れた、深みのあるカレーなのですね」


 受け取ったカレーを口に入れ目を閉じた女神ベルカを数秒ほど見つめた土筆だったが、そのまま感想もなく固まる女神ベルカの姿に、長くなるのかもと感じ、解体作業をするアステリアスたちへと視線を向ける。


 そこには角うさぎたちが集まり解体されたキューブ状のスリープキノコを咥える角うさぎが目に入り、それを追うアステリアスが魔化し放電する姿に急いで現場へと駆けつけるのだった。




 お読み頂きありがとうございます。

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