スリープキノコと不審者
一方笑美はアステリアスやキャルロッテと一緒に第三近衛中隊の作業の見学をしていた。
「この様に草原にも危険な虫などがいるため注意が必要です。一番効率が良いのは結界を張る事ですが、これには魔術適性やちょっとした家が買える資金が必要になり現実的ではありません。そこで虫たちが寄り付かなくなる草を燃やしたり、すり潰したものを染み込ませ携帯したりする方法です」
第三近衛中隊の隊員たちが説明し新人たちと笑美は真剣に話を聞き、実際に虫が寄り付かなくなるという薬草を乾燥させたものに火を付ける。
「これをテント近くや見張り番の近くで定期的に燃やす事により虫を避けます。今晩の見張りはしっかり覚えておけよ。吸血する虫は伝染病なども運ぶ恐れがあるから注意が必要だぞ!」
やや緑色の煙が上がり始めるとその臭いに反応する笑美。
「これ嗅いだ事があるよ! あれ……どこだっけ……そうだ! トイレだ! うちのトイレの匂いだ!」
ひとりテンション高く叫ぶ笑美にココアが軽くひじで数度打ちつけ、静かにするように合図を送る。
「あっ! ごめんなさい」
ココアの合図に気付いた笑美はすぐに頭を下げ進行の邪魔をしたことへの謝罪を口にし、虫除けの話が再開される。
「燃やしたほうが効果がありますが、燃やさなくてもすり潰し携帯するだけでもそれなりに虫が寄ってきません。ただ、その臭いを知っている者を追う際には注意が必要で、鼻が敏感な種族を追う際にはその臭いで隠れ発見が出来ないという事もありますから、これにも注意が必要です」
「我々の様な犬耳族は臭いに敏感だし、牛角族や象牙族などは更に臭いに敏感である。組織立った犯罪者はそういった臭いを訓練し嗅ぎ分け逃走する際の手立てとしている。街の外に逃げた際は要注意だな」
ピピラが補足しながら話が進むが笑美の中で引っ掛かるものがあるらしく、小声でココアへと話し掛ける。
「エレファニアって何?」
「南に住む耳が大きく鼻が長い牙を持つ種族っす。サキュバニア帝国では見た事がないっすね。教本などにはその顔が乗っているっすから街に戻ったら見せるっすよ」
「獣人の種類は多くおり個性も豊富だ。その種族にあった生活から紡がれた技術は見張るものがあるが、それが犯罪に活かされる場合もある。相手の種族を特定するというのは捕縛する際に有効な事も多い。忘れず頭に叩き込め!」
ピピラの喝の入った言葉に身を震わせる新人たち。
「じゃあ、あそこで歩いてるキノコも何かの種族なのかな?」
笑美の指差す先には二メートルほどの身長の大きな傘の開ききっていないキノコに手足が生え歩く姿があり、よたよたと歩く姿が見て取れる。
「あれは魔物っすね……って、ゆっくりしている場合じゃないっすよ!」
ココアの発した大声に第三近衛中隊から視線が飛びながらも、立ち上がり腰にしていたショートソードを引き抜くココア。
「破!」
掛け声と共にマルティンの投げた槍が歩くキノコに突き刺さりゆっくりと崩れ落ちた。
「マルちゃん凄い!」
笑美の褒め言葉を背中に受けながらもマルティンは辺りへと視線を向け、他のキノコがいないか探るが確認はできず倒したキノコへと近づくマルティン。
「このスリープキノコは攻撃能力がない代わりに眠りを誘う香りをまき散らす。深夜に村に近づかれ何日も村人が眠り続け老衰により壊滅したという話もある危険な魔物だ。この辺りにはあまり生息していないのだが……」
ピピラの補足説明に魔物であると理解した笑美は多少恐怖心を顔に出すも、マルティンが遠投した槍の技量に目をキラキラとさせる。
「シャムールよ、解体してこい。夕食の一品にするぞ」
「はいにゃ!」
シャムールが倒れたスリープキノコへと走りナイフを立てて解体して行き、中から親指の爪ほどの魔石を取り出し回収し、料理しやすいように手ごろなサイズへと切り分けて行く。
「シャムルンも料理するのかな?」
「シャムールはナイフ一本で森の中の暮らしを三週間も強要されたと聞いた事があるっす。狩りと解体はお手の物っすね」
「へぇ~凄いんだね~」
スリープキノコは目や耳といったものがなく、まして血なども体内に流れていないためか笑美の気分が悪くなる様な事はなく、その解体作業を見守る笑美とココア。
「スリープキノコはどうやって歩いてるのかな? 前が見えないよね?」
「よく解らないっす。魔素の薄い方へ歩き胞子を飛ばすらしいっすが、体に何かしら触れたりすると眠くなる香りを放つっす。一撃で仕留めればああやって簡単に解体ができるっすよ。味は普通のキノコっす」
「凄く美味しいのかと思ったけど、普通なんだ」
「普通っすね。土筆殿が料理したら特別に美味しくなるかもしれないっすね」
「バター炒めとか美味しそう! スープにしたりフライにしたり……そうだ! 肉を挟んで揚げたら美味しいかも! もしくはスリープキノコご飯!」
その言葉に第三近衛中隊の講義が中断し、ピピラも口に手を当て悩みながらもシャムールへと声を掛ける。
「シャムールよ、土筆さまに総て渡してこい。もし可能なら料理してもらい何か作って貰えないか聞いて見てくれないか?」
普段のピピラなら有り得ない発言をしたのにも理由があり、傍で話を聞いていたアステリアスが笑美の言葉に何度も頷き、それを求めていると感じ取ったのだ。
「うむ、それなら我も行くのじゃ。スリープキノコをどう料理するか楽しみなのじゃ」
「それでしたら私とキャルロッテで辺りを散策し、他にいないか見て参ります」
「うっし! あーしも楽しみだし! いっぱい探すし!」
左手で拳を作るキャルロッテと、レナは魔化して服装が変わりキューブ状の魔力の塊を具現化させる。
「おおお、レナっちのウェディングドレス!」
「魔化っす!」
大雪の日に披露したレナの魔化した姿に叫び喜ぶ笑美にツッコミを入れるココアと、そのリアクションに頬を染めるレナ。
「キャルロッテさま、スリープキノコが現れた辺りから森へ入りますよ」
「解ったし! 任せろし!」
二人の姿が森に消える頃には解体も終わり、革製の袋に詰めたスリープキノコを持つのをシャムールとそれを手伝うアステリアスは、白い小さなテントへと足を進めた。
「にゃんだか輝いている人がいるのにゃ」
「う、うむ、あれは女神ベルカさまなのじゃが……なぜに家を覗いておるのじゃ?」
白い屋敷に近づいたアステリアスとシャムールの目には、角うさぎたちを足元に集めながらも窓の隙間から屋敷の中を確認する女神ベルカの姿があり、話し掛けていいのか迷うアステリアス。
「くっ! 中が良く見えませんね……おや? アステリアスと猫耳族の子ですね……」
窓に映った二人の姿に気が付き振り返った女神ベルカの頬には窓枠の跡がくっきりとつき、覗いていた証拠には十分なのだが、それに触れていいか解らないアステリアス。
「覗きにゃ?」
シャムールの素直な性格にアステリアスは、良く言ったと云いたい所をグッと堪える。
「いえ、視察です。スンスン、どうやらカレーの香りがしてきましたね」
「にゃ、良い香りなのにゃ!」
「たしかにカレーの香りなのじゃ!」
女神ベルカがいうようにカレーの香りが煙突から流れ鼻をスンスンとさせるシャムールと、足元でミーミー叫ぶ角うさぎたち。
「どうやらエムエムはカレーを教わる事に成功したようですね。では中へ参りましょうか」
女神ベルカの言葉に従い二人は屋敷の中へと足を進めるのだった。
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