↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梶野宮家の転移家計簿  作者:
第二章 異世界移動編
21/455

嫉妬



 「明日には、もう行ってしまうだか」


 村長である小鬼族ゴブリンの大柄の男はエプロン姿で鉄串に肉を刺しながら残念そうにアステリアスと向かい合う。


 「うむ、新年までにはレガンス領まで行きたいのじゃ」


 アステリアスもまた鉄串に肉を刺しながら答えた。


 「ほんに今回の大行進スタンピートに……おらたちは感謝してもしたりねえだよ」


 「よいよい、礼は村中から言われたのじゃ。我は守護者じゃ、皆が健やかに暮らせる手伝いが出来るのが嬉しいのじゃ」


 アステリアスは胸を張り答え鉄串を動かす。

 魔物退治とは違い不器用な出来栄えの肉串が積まれていった。





 肉汁から滴り落ちる油が煙を上げ、鼻をくすぐる香りに心を躍らせる笑美。


 解体作業も一応の終わりが見えた夕刻には、大量に確保した新鮮な肉がBBQ形式で並べられた。


 解体作業も肉と魔石の切り出しが終わっただけで、まだ毛皮の洗浄やなめしなどが残っている。

 骨や歯に爪は農具や刃物にアクセサリーに使われ、新年明けには商人も訪れ高値で売られていくだろう。


 「はふはっふっほ、蛇のお肉初めて食べたけど、こんなに美味しんだ」


 唇を照からせた笑美はブラックバイパーと呼ばれる大型の蛇の肉串に臆することなく齧りつく。

 もちろん出された肉串には蛇の頭もなく、切りだされ串に刺された状態であり「この肉串は~」と説明を受けて食べたとしても普通のひと口大の肉であり、BBQ形式であったとしても抵抗がなかったのだろう。


 「こちらのハンマーボアの串もお勧めですよ」


 レナが焼いたばかりの肉串を進める。


 キャンプ地のあちらこちらでは石で竈が組まれ、街中の小鬼族が肉を焼き食べる姿が目に入る。

 中には酒に酔い踊り出す若者も多く、窮地から助かった喜びと新鮮な肉への歓喜、そしてアステリアスへの感謝が込められているのだろう。


 「つ、土筆殿もこちらのハンマーボアの串を……」


 午前中の悶々とした脳内格闘技を忘れるという選択肢で乗り切ったレナが土筆に肉串を進めようとした矢先のことだった。


 「この焼き肉のたれの方が……」


 指輪から出した異世界物質を目撃するレナと目が合う土筆。

 一瞬の沈黙の後、顔に熱を込めながらも目を吊り上げるレナ。


 「アイテムボックスは貴重なスキルだと言ったではないですか!」


 その言葉を真摯に受け止め、焼き肉のたれの蓋を人差し指でぱちりと閉めた。のだが、笑美のほほ笑みが行動を起こす。


 「はいアッちゃんこれつけて食べて。ほらココアッチョも村長もはい、ドバドバドバ」


 大皿に乗る肉串の上に注がれる異世界のたれに三者三様の顔を浮かべる。


 アステリアスは驚きながらも我先にパクつく。

 ココアはたれの色見に引きながらも鼻をひくつかせる。

 村長はニンニクの香りを嗅ぎ取り数秒うっとりとした。


 眉間に指を添えゆっくりと動かし小声で「怒らない怒らない怒らない」と自分に言い聞かすレナ。


 土筆は妹の行動力に唖然としながらも、これなら塩ダレもありなのでは? と出す隙を窺う。



 「これは美味しいのじゃ。野性味のあった肉にかけるだけで、なんというか奥行きのある味になったのじゃ」


 「複雑な味っす。肉串は塩味以外初めて食べたっす」


 「うおおおおおおおおおおおお」


 一日ぶりのニンニクに歓喜する村長。それを聞きつけた奥さんが登場し、体格差を覆す力技ヘッドロックで会場となった席から村長宅へと引きずって去っていく。

 ニンニクに嫉妬する小鬼族ゴブリンであった。



 村長の途中退席を苦笑いで見送る土筆たちは串肉の味を、もとい焼き肉のたれの味を堪能するが手の止まったレナの様子が気になる土筆。

 まだ塩ダレは出せていない。


 土筆なりに軽はずみな行動を反省している。

 出された料理に合うかもしれないが勝手に味を変える無作法。

 指輪からポンポン出す異世界物質を毎回アイテムボックスだとフォローしてくれるレナさんの配慮。

 これは自分なりに何とかしないといけないのではないだろうか?


 塩ダレのためにも……


 大皿から焼き肉のたれのかかった肉串を取り、レナに向かい声をかける。


 「あ~ん」


 土筆の行動に会場が沸いたのは仕方のない事だろう。

 土筆たちの周りには鎧族リビングアーマー小鬼族ゴブリンが少数しか居らず、いても給仕するための若い女性だけなのだ。

 近衛に属する鎧族も総べて女性で組織されている。これはアステリアス第三王女殿下への配慮で在り、歳も一番下がココアであるのだが、上には結婚適齢期を過ぎかけている者も多い。その中には許嫁や婚約を済ませた者もいるが、意中の人と離れた生活が続く遠征中なのであり……


 刺激がクリティカルなのである。



 眉間を揉んでいたレナは目をぱちくりさせたと、首から角まで真っ赤にしながらも震える口で受け止めた。


 黄色い悲鳴がキャンプ地に響き渡る。


 「何あれ、何あれ!」

 「レナさまのいい人だったの!?」

 「あ~んだってよ。あ~ん!」

 「レナさまが乙女の顔に……」


 囃したてる鎧族。


 「兄ちゃん私も!」

 「うむ、我もじゃ!」

 「レナっち……」

 「くぅ~ん」


 笑美とアステリアスも口を空け催促する姿に鎧族が囃したて、肉串を握りゆっくりと近づくココアの姉であるヴィータ中隊長の姿があり、ココアを凝視している。

 ふぇるりんは土筆の足元でふぇるりん用に焼いてもらった骨付き肉をがじがじしているのだが、やはりあ~んの方がいいのだろう。せつない鳴き声を小さく上げた。



 土筆は鉄串二本を器用に使い、それぞれにあ~んさせていくのだが最後に残ったココアへのあ~んも流れ作業で消化し、真っ赤になる人物が増えた事には気にせず塩ダレを取り出す。


 真っ赤だった顔が無表情に戻るレナ。

 握った鉄串が親指から直角以上へと曲げるヴィータ中隊長。



 宴は嫉妬の炎に包まれるのだった。





 今日の料理:BBQ


 肉に塩胡椒して焼く。


 野菜も食べよう。




お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。