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梶野宮家の転移家計簿  作者:
第二章 異世界移動編
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ココアと干し肉


 「何度見てもすっごい! もうアニメの主人公だよっ!」


 興奮した笑美の声がテントの中で響き照れながら頭をかく少女が一人。

 鎧族リビングアーマーの少女の名はココア・シガ・アイギス。鎧族の中でも名家であるシガ侯爵家の四女である。


 シガ侯爵家はサキュバニア帝国設立に大きく貢献した一族であり、帝国の盾と呼ばれ代々近衛兵を実力で担ってきたのだ。


 短い銀髪にクリリとした大きな目にやや日焼けした肌で引き締まった体つきであり、日本だったら運動部の少女だろうか。

 そんな少女を笑美が褒めているのには理由があるのだ。


 白い軍服が一瞬にして白銀の鎧へと変わるのだ。もちろんアニメ的な演出などはなく、瞬きの瞬間に変わると言っていいほどの速さで変化する。

 アニメのヒーローを思わせる変身ぶりを間近で見た笑美のテンションが一気に上がるのは仕方のないことだろう。


 「こうやれば部分的に変えることも出来るっす」

 頭と手以外を鎧に変え照れながら話すココア。


 「すげー! 鎧族の人はみんな出来るの? すげー! 次は鎧族みたいな姿に変身する!」


 テンション高くココアの鎧部分をペタペタと触り叫ぶ笑美。その反応に恥ずかしくも嬉しいココア。

 横でうむうむと頷きながら「我も小さい時はそうじゃった」と理解するアステリアス。


 ちなみに土筆とレナは別行動をしており給仕場を見学中である。


 「おおおっおっぱいも固い」

 「鎧すっからね」


 驚愕しながらもバスト型の胸当てを触り……いや触るというよりコンコンとノックするように叩く笑美。


 「なんだか恥ずかしいっす」


 照れるココア。


 「こうやって体を変化させる方法を魔化って言うっす。鎧族では全身を魔化出来るようになると一人前と言われるっす。」

 「ココア隊長は一人前だね!」

 「隊長じゃないっす。ただの平兵士っす」


 鎧姿のココアに抱きつく笑美。

 中学生にして身長の高い笑美が頭一つ分背の低いココアを抱きしめる。傍から見るアステリアスは笑美が近衛に受け入れられたことに安心感を覚え、これから過ごすであろう異世界生活での友人となってもらいたくココアを呼んだのだ。


 そんな思惑などと関係なくココアを抱きしめる笑美に、されるがまま抱きしめられるココア。

 ココアはココアでアイギス家の末っ子として育てられ、愛情を一身に受けてきた。近衛隊への入隊により訓練の日々が続き自覚がなくとも愛情不足であった。

 陰で近衛隊第二隊長でもあるアイギス家二女のヴィータに甘えようとするが、そこは隊長である示しが付かないとやや付き放つ対応を取っており、いま笑美に抱きしめられるという行為自体が嬉しく久しぶりの包み込むような人肌に鎧姿であっても温もりを感じた。


 ただ……


 歯を食いしばり爆発させそうな嫉妬心を押さえこみ、アリステリアの横でその光景を見つめる近衛隊第二隊長であるヴィータ・シガ・アイギスだった。






 「こんなにもしょっぱいとは……」


 口に入れた瞬間広がる強烈な塩味に加え、乾燥し噛みごたえが強固な干し肉。興味本位で口にしてみた土筆は顔を顰め周りの女性たちから笑われた。


 「だから言ったではないですか」

 「携帯食は美味しさより日持ちと軽さ」

 「飲み物をどうぞ」

 「飲みこまずに初めの塩だけ吐き出して下さい」

 「それを三回繰り返したら塩味も薄くなり肉の味もします」


 人肌程度に温かいぬるま湯を入れ口の中の塩味を吐き出そうとするが、野外とはいえ調理場のしかも女性が見つめる中では吐き出しづらく、急いでその場から離れる土筆。


 「レナ殿が言うように育ちの良い人族ですね」


 レナは話しかられながらも手を止めず、適当な相槌で野菜を一口大に切り分ける。


 「干し肉を食べたことのないと聞いて驚いたが、裕福な生活をしてきたのだろうな」

 「あの体型だものねえ……」

 「食べ物に困る生活も干し肉が買えない財力でもないのだろう」

 「でも、あの噂って本当かな?」

 「ああ、あの噂な……」


 鎧族たちの言葉に一瞬手が止まるレナ。


 「噂ですか?」


 「土筆殿はアステリアス様に婿入りするとか……」

 「そうです、そうです」

 「三姫様も、もういい御歳ですし……」

 「許婿いいなずけの話は昔あったけど……」

 「おい、その話は出すな!」

 「そうです、そうです」


 姦しくキャッキャする鎧族の女性たちに対して、レナは土筆が異世界人であることを知っている。

土筆と笑美が異世界人だと知るのは極僅かなしか知らない事実であり、近衛の中でも隊長と副長クラスしか知らない事実なのだ。


 どう誤魔化そうか考えていると土筆が口をもごもごさせながら戻ってきた。


 「レナさん、肉の味がしてきました。最初だけ耐えれば美味しいですね。馬肉なのかな?」


 「正確には馬の魔物です。グリーンフォースと呼ばれ平地ならどこにでもいる臆病な魔物ですね。集団で行動し……」


 レナの説明を聞き午前中馬車から遠くに見えた馬っぽいあれがそうなのだろうか? と考えながら魔物の生態に耳を傾け、干し肉を飲み込む。

 真面目にレナの話を聞いていた土筆に対し、キャッキャしていた鎧族の女性たちは徐々に距離を詰めはじめた。


 「土筆殿、はじめて干し肉を食べたとの事だが、どうでしたかな?」

 「その干し肉はまだ柔らかい方ですよ」

 「そうそう、もっと固いのは石みたいだし」

 「グリーンフォースの干し肉は一般的なものより値が張りますから」

 「へえーならもっと味わえばよかったかな」

 「アステリアス殿下とは、どういった御関係で?」

 「それとも婚約者がいるのですか?」

 「そうそう、実家の話とか聞きたい」

 「爵位持ちの家柄ですか? 大商人とかですか?」


 一気に距離を詰めてきた女性たちに一歩退くが、そうはさせないと回り込み囲い込む鎧族の女性たち。

 普段から集団行動をしているだけあって息が合い自然と土筆を捕獲する鎧族リビングアーマー


 「ほら、貴方たち! 作業が進まない! 持ち場に戻る! 土筆様がお困りです! 土筆様も色々国家機密なのですから! 干し肉あげますからテントに戻って大人しくしてなさい!」


 国家機密という単語を使い盛大にぼろを出すレナである。が、鎧族であり近衛であり軍人でもある彼女たちは知らないほうが良い事もあると素早く距離を取り、各自の料理担当へと戻る。


 「はい、土筆様っ!」


 勢いそのままに一口大の干し肉を土筆の顔へと近づけるレナ。身長差があるせいかやや背伸びするレナに土筆は小学生時代の笑美の姿を思い出し、ほっこりしながらも口で受ける。


 口の中に広がる塩気に顔を歪めるも、レナから「食べたらテントに戻る!」との言葉を貰い、駆け足でテントへと辿り着くのだった。




 お読み頂きありがとうございます。

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