贈り物
「うむ。御苦労なのじゃ」
アステリアス一同を向かい入れた小鬼族達は平伏したまま声を聞く。
「よいから、顔を上げてほしいのじゃが……」
首を痛めそうな勢いで顔を上げ、キラキラした瞳で第三王女殿下を見つめる小鬼族の若者たち。
「芝も丁寧に管理されておるようじゃの」
「はい、この者が責任を持って管理しています」
村長の訛りが消え驚く若い衆。第三王女殿下の前であり、すぐにざわつきが収まり、芝の管理人である若い子鬼族が涙ながらに緊張しながらも芝の育成状況を語り出した辺りで村長が肘打ちをし、若い女集が用意した食材を献上するのだった。
「ですから人族の格好にして下さい」
アステリアスが小鬼族に挨拶しているのと同時刻、馬車内ではレナの叫びが木霊し笑美の姿が次々に変わっていく。
何処かで見た変身ヒーローやらゆるキャラやらを経て、黒みがかった茶色の髪に茶色の瞳に落ち着いた土筆は窓からこれから一泊するテントが出来る様子を窺っていた。
作業するのは近衛の者たちが行っている。
鎧姿だった者たちだが、今では真っ白な軍服に着替え大小様々なテントを設営していく。一番大きな物は平屋ほどの大きさがあり、長い二本の支柱を中心に格子状に組まれた壁が設営され上から白い布で覆われて行き、円形状の大型テントが組み上がる。
大型テントから少し距離を置き小型テントが複数組み上げられ、水場近くには竈があり、大きな鍋へ水を入れたり野菜を刻んだりと食事の準備も並行して行われている。
「レナさん、井戸近くが気になるのですが見てきても……」
梶野宮家の家事担当として異世界の料理がどの様な食材を使い、どの様な調味料を、どの様な手順で作られるのか興味を持つのは自然なことだろう。
「笑美さまが普通の格好へ変わったらいいですよっ!」
ややキレ気味に話すレナに対し、笑美の顔は三面六腕の阿修羅姿であり、面総べてが困惑した顔になっているのだ。
「ほら、兄ちゃんに合わせてこの茶色のブラウン系ので。その方が目立たないし」
「でもでも兄ちゃん! 今しかできない格好ならそっちの方がインパクト残せる!」
「残さないでくださいっ!」
レナの悲痛な叫びを聞いた土筆は笑美の画面を素早くデフォルトに戻し、同じ色合いに変えた。
「うん、似合ってる。似合ってるぞ~」
「とても地味で可愛らしくて、地味で素晴らしいです。笑美さま」
満足げに頷く二人に対し笑美は納得がいかないらしく画面をスクロールさせる。
「うぅぅ、褒められてる気がしない。やっぱりこっちの野性味ある……おっ、何やらメッセージが届いた!」
画面の上部にあるメールアイコンに1の文字が浮かび上がった。
「えっと何々……うん、これは迷惑メールだ。うんうん削除削除って、おい兄ちゃん!指を掴まないで、削除できない!」
「夏休みの宿題を送りますとタイトルに入っていたろ。保護だ、保護!」
「兄ちゃんよく考えて! せっかくの異世界なのに夏休みの宿題っておかしいよ! 外だって寒いのに夏休みの宿題って! せめて冬休みの宿題にしてよ!」
土筆に指を摘ままれながら持論を説く笑美。
夏休みの宿題よりも冬休みの宿題の方が圧倒的に少ないこともあるのだろう。
必死の抵抗をする笑美に土筆は力を込めながらも、ゆっくりとした口調で説得を始める。
「一年間の猶予があるんだからさ、少しずつ進めよう。兄ちゃんも教えるし輝や美土里ちゃんだって同じ宿題やるんだろ。それに日本に帰ってからだと余裕がなくなるぞ」
「でもでも……」
ごねる笑美に対し土筆は指の力を抜いて目を見つめ最後の説得へ。
「宿題を提出しなかったら……」
「しなかったら……」
「母さんがなんて言うだろうな……」
その言葉に笑美はフォルダを閉じ、指輪の機能を停止させたのだった。
説得が終わり土筆も自分の指輪を確認すると、数件の新メッセージと大量の新アイテムがアイテムボックス内に届けられていた。
メッセージフォルダを開くとそこには輝と美土里から壮大な歓迎を受けたことのことが書かれており、帝国の女帝からも感謝の言葉が添えられていた。
他にも二件のメッセージがあり、ひとつは大天使長から夏休みの宿題を笑美に送ったこと。そのコピーを土筆のアイテムボックスへ送ったこと。何か困りごとがないかとの心配のメッセージが込められていた。
最後のメッセージにはトクベリカから送られており、梶野宮家の冷蔵庫の中身や家にあった食材全てがアイテムボックスに移されたとのメッセージがある。
驚いたことに同じ指輪を貰ったので私のアイテムボックスへ食事を送ってほしいとの要望と、送ってくれないと餓死するかもしれないという脅迫が添えられていた。
アイテムボックスを確認すると見慣れた野菜から調味料の類に凍った肉等が絵付きで閲覧でき、スナック菓子やらの物まで送られてきていた。中には記憶にないような缶詰や乾物や笑美の隠していたお菓子に、父の部屋に置いてあるいかにも高そうなお酒まで確認できる。
恐らく梶野宮家にある総べての食品や飲料が送られてきたのだろう。
トクベリカの残した餓死するかもという一文に真実味が出るのだった。
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