表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海特急オクトパス3000  作者: 夜神 颯冶
 存在証明のパラドックス    
2/9

                                ─2─          

 


僕は恐る恐る座席を立つと、

進行方向に向かい歩きだした。



本能が先頭車両を、

操舵室そうだしつ目指めざしていた。



座席のあちらこちらにこびりついた血のみ。



生々(なまなま)しき血痕けっこん



その浅黒あさぐろい染みの中で動かなくなった金髪の女性。



ぬめった血のみ込む肌触はだざわり。



脳にこびりつく死臭。



むせかえる腐敗臭ふはいしゅうに必死でせきをこらえながら、

死の合間あいまを抜けて行く。



見えない恐怖におびえながら、

ただひたすら先頭車両を目指す。




  ─無差別殺(テロ)人─




過去に起こった、無差別殺人を思い出す。



それは狂った宗教団体が起こした無差別殺人。




  ─地下鉄サリン事件─



日本で起こった痛ましき事件。



電車の中で狂った宗教団体が、

サリンと言う毒ガスをまき、

死傷者を多数出した陰惨いんさんな死の記憶。



他にも電車の中で、

刃物で多数の人を殺害した事件などもあった気がする。



いずれも島国しまぐに日本で起こった事件だ。



 日本!?



そこでなぜ自分が、

日本のそんな古い事件を知っているのか引っ掛かった。



僕は日本人なのか?



それは僕の過去を紐解ひもとわずかな手がかりだった。



いまだ僕は自分の名前さえ思い出せないでいる。



それはこれが一時的な記憶の錯乱さくらんなどではなく、

自分は記憶喪失きおくそうしつである事実をつげていた。



目覚めれば突然ほうり込まれた死霊電車。



  夢。


 そう思えれば・・・



空調が止まっているのか、

むせかえる腐敗臭で現実に引き戻される。



その悪臭にき込みながら、

僕はまるで夢遊病者のように、

いくつもの死体の横たわる座席を通りすぎて行く。



その時ふらつく足下で、

ゴムボールのような弾力のある何かを

踏んづけた感触がした。



ぐちゃりとした嫌な感触。



粘液質ねんえきしつな液体がにじみ出し足裏に張り付く。



ゴキブリのように足裏にへばりついたそれを、

床にこすりとる。



つぶれた何かが、

吹き出した体液で床に黄土色おうどいろの線を引いていた。



それはつぶれた粘土色ねんどしょくにごった目。



僕は麻痺していた恐怖がその感触と共に、

徐々《じょじょ》に現実感をともなって広がっていくのを感じた。



ゴキブリの様につぶれ体液を吹き出し、

無機質にこちらを見つめる眼球。



あふれ出した粘液ねんえきと共に、

その中でハリガネ虫に似た白い寄生虫(なにか)が、

無数にうごめいていた。



込み上げる吐き気と目眩めまい



それに必死で耐えていると唐突とうとつに、

足首を捕む、ひんやりとした感覚があった。



僕は転びそうになって近場の背もたれにしがみつくと、

恐る恐る足を見る。



そこには座席の下から小さな手が、

僕の足首をしっかりとつかんでいた。



 白く小さな手。



恐怖のあまり背もたれをつかんだまま腰を抜かし、

その場に座り込む。



座席の下からは、生気の無いにごった目が2つ、

こちらをじっと見つめていた。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ