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深海特急オクトパス3000  作者: 夜神 颯冶
 存在証明のパラドックス    
1/9

                               ─死臭─          

 



硬質こうしつな振動に揺られながら僕は眠っていた。



規則的きそくてきに響くガタンゴトンと言う音と振動しんどう



無機質むきしつな振動音のBGMに揺られ僕は目を覚ました。




僕が目覚めて最初に目にしたのは鉄の床。



僕は座席に座ったまま眠っていたようだ。



嗅覚神経をす腐った臭気しゅうき




 ずきりと頭が痛む。




やたら重い空気が胸を圧迫あっぱくしていた。




僕は気分が悪くなり、

前の背もたれに頭を押し当てもたれかかって、

うつむいた。



のどが焼きつく(よう)に、ひりひりと痛む。



前の背もたれの床下から、

血のような赤い液体が僕の足下に流れて来ていた。




僕はその目のめるよう警戒色けいかいしょくの赤に、

どっきりとして首を上げた。




窓から流れる見知らぬ情景じょうけい




 そこは電車の中。




窓の外はあお一色の深海しんかい



深海の中、透明チューブの中を電車は走っていた。



500Mおきくらいに深海の中に設置された、

凱旋門がいせんもんに似た門をくぐり抜けるたびに、

にぶい振動と音が響いていた。




 いつから僕はここにいるのか?



 なぜ電車に乗っているのか?



 どこに向かうのか?




それに答えてくれる者はいなかった。




すべてが深海の闇の中に沈んでいた。




鼻を刺すびた腐敗臭ふはいしゅうにむせて辺りを見渡すと、

電車の中は血の海だった。




 いたる所に飛び散った赤、赤、赤。



 鮮血せんけつめられた世界。



 心の余白よはくに流れ込む死の臭い。




現実の生々(なまなま)しさをさらし見え隠れする、



     死体


     死体


     死体



そこには殺人狂サイコパス原風景げんふうけいが広がっていた。




生々(なまなま)しき死にいろどられたその光景こうけい固唾かたづをのむ。



そのあまりの光景に言葉を失い、

遅れてやってきた、はやなる動悸どうきが、

死の恐怖を実感させた。




    汗ばむひたい



    強張こわばる体。





僕は死のおとずれに敏感な草食動物のように、

物陰ものかげおびえる稚魚ちぎょさながらに、

間近まぢかで見つめる死におびえていた。





    思い出せ!



    思い出せ!



    思い出せ!




近づく死の足音におびえ、僕は必死で記憶を辿たどる。




だがどうしてここにいるのか、

その経緯いきさつはおろか、

自分の名前さえ思い出せない。




ただどうしようもなく恐怖だけがそこにあった。




ちらほら見え隠れする人の死骸。



乾燥した肌がチリチリと痛む。



死の恐怖が残像が、胸をしめつけ、

目眩めまいと吐き気が襲ってきた。





    どうなっている?




  過呼吸かこきゅうぎみに辺りを見渡す。



  血塗ちぬられた車両内。



  無機質むきしついろどられた死のおり




現実感をともなわない状況を俯瞰ふかんするだけで、

思考しこうが追い付かない。



   場を包む死の気配けはい



ただよ臭気しゅうきがいやがおうにも現実を実感させる。




    ここはどこだ?



状況を把握はあくしようと記憶を探るが、

自分の名前さえ思い出せない。



ただ解るのは、リアルに響いてくる振動音と、

よどんでり付く空気に、むせかえる臭気。



五感(その)の全てが、

これがセットや作り物ではなく現実だと、

本物リアルだとげていた。




    死の車両。



そこに自分は存在そんざいしているのだと。



僕が目覚めて最初に感じたのは恐怖。



果てしない恐怖の螺旋らせん



その怨嗟えんさ螺旋特急らせんとっきゅうで僕は目覚めていた。



 


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