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6.みんな違ってみんな良い。ただし無法地帯は困ります。

 眼の前に広がるのは、まるで中世ヨーロッパのような石畳の道に、建物は……ん?

 あれ?中世って?ヨーロッパってなんだっけ?

 パッと見、ロマネスク様式の建物が多い様に見えたが、よく見るとルネサンス様式も多いし、奥の方にはまさかの日本家屋も見えるし……え、あれはタージ・マハルか?小さいけど。

 待てまて、石畳が続いて行くかと思ったが、え、一部コンクリだよね?普通に道路じゃん!どゆこと!?


 調書をとり終わり、ササエルから簡単に説明を受けてギルドに向かおうと外へ出た。

 アヴェンシアの街並みに心躍るはずだったのだが……冒頭である。

 最早混ざりすぎて意味不明だし街並みも何もあったもんじゃない。


「……ササエルさん、何ですか?この街並み。」


 呆然と、ササエルに聞くことしか俺には出来なかった。


「あー、やっぱり異様か?

 旅人は地球からやってくるのがほとんどでなぁ。かと言って、同じ国とは限らないから色んな建築様式がここ数年流行(はやって)な。旅人が言う、中世ヨーロッパみたいなのが元々のアヴェンシアの建築様式なんだが、今じゃあこんな感じだ。」

「はぁ……。」

「最近だと、隣の町に来た旅人が日本人で、ぜねこん?だかに務めてたらしくてな……あの辺の道路は、その旅人の知識で作ったらしいぞ?」


 ぜねこん…ゼネコンか。

 ゼネラル・コントラクターだったか?建設業者だよな…道路も作れるのか?

 よく分からんけど、知識チートで収入を得ている訳か……。


「ギルドはそこの角を曲がって直ぐだ。

 ぼーっとしてたら置いてくぞー!」

「今行きます!」


 建物を眺めながら、ポカンと口を開けて立ち止まってしまった。

 なんか、色々と俺が思ってたアヴェンシアと違うんだよな……。





 *********





「さー、着いたぞ!ここがギルドだ!」


 眼の前に(そび)え立つは、3階建てのルネサンス様式の建物。

 建物を眺める俺を待つことなく、ササエルは中へと入っていく。

 ……入口が、円形ドアの自動ドアなんだが、ここはアヴェンシアで間違ってない。

 間違ってないんだよな?

 腑に落ちないこの気持ちをどう処理していいのか、さっぱり分からない。

 色々と突っ込みたい気持ちに(ふた)をして、ササエルに続いて中へと入る。


「おはようございます。本日は狩人(ハンター)、商業、生産、どちらにご用でしょうか?」


 建物に入るなり、綺麗なお姉さんが笑顔で話しかけてきた。


「今日は旅人(たびびと)の登録に来た。」

「かしこまりました。それでは3階奥、30番の窓口までお願いいたします。

 奥の階段からがスムーズですよ。」

「おう、ありがとな。」


 ここは役所か?

 以前、保険証をなくして再発行に行った市役所に似てる。

 大きな市役所で、中に入った瞬間、入口に居た化粧の濃いおばさんに同じような事聞かれた覚えがある。

 共働きの親が行けなくて、自分で行ったんだよなぁ。

 すんごい居心地悪かったのを覚えてる。


「レン、こっちだ。」

「あ、はい。」


 ササエルに導かれ、奥の階段へと向かう。

 流石にエレベーターは無いようで、3階まで階段を昇る。

 3階のフロアに出て、ササエルは迷いなく30番の窓口へ向かう。


「おはようございます。本日のご用件を承ります。」


 受付のお姉さんが、にっこりと笑ってこちらを伺ってくる。

 横に束ねた暗い藍色の髪に、(みどり)がかった灰色の瞳。

 入口のお姉さんといい、受付のお姉さんといい大変レベルが高いです。

 入口のお姉さんは綺麗系の清楚な感じで、受付のお姉さんは胸元の主張が激しい、色っぽい美女だ。

 ブラウスのボタンが弾けそうで……、目のやり場に困る。


「おう、ミュゼか。3階にいるのは珍しいな。」

「ササエル、久しぶりね。昨日から3階に移動になったの。

 今日は、そちらの旅人(たびびと)さんがご用かしら?」


 ササエルに向いていた笑顔が、俺に向けられる。

 胸元だけじゃない、口元の黒子も色っぽくて反応に困る。

 俺の周りにはこういう系統は居なかったから、ドギマギしてしまう。


「まずは調書を提出してください。……はい、不足は無いようですね。

 こちらの席にかけて少々お待ちください。」


 ミュゼと呼ばれていた美女が席を立ち、衝立の奥へと消えて行った。

 後ろ姿を見送り、椅子に腰かけながらキョロキョロと室内を見渡す。

 どこからどう見ても、日本の役所そのものに見える。

 長く連なる机に椅子が並び、机には等間隔で仕切りがある。

 見やすい位置に番号札が表示され、無機質にも見える空間に所々観葉植物が設置されている。

 机の奥には衝立があり、恐らくその奥で事務仕事なんかをしているのだろう。


「ここがギルドなんですよね?……なんか、役所みたいだ。」

「役所?あぁ、そうだな。一説には、むかーしアヴェンシアに現れた日本人が作ったって話もある。まぁ、諸説あるから本当かは知らねーが、黒龍の(シムカ)大陸の自称元祖ギルドには、その日本人の絵が今も飾られているらしい。眉唾物だけどな!」


 二カッと笑いながら話す内容は、随分と興味深い。

 いつだったか流星の話の中に『ギルドに飾られる絵の謎』みたいな話があった。

 深く聞いてみたい話だが、衝立の奥からミュゼが戻ってきてしまった。


「お待たせしました。

 ギルド長の受理が完了しましたので、諸々の手続きに移りますね。」


 ミュゼの言葉に、姿勢を正す。


「まずお渡しするのがグウィティの地図と、支度金の金貨10枚。

 金貨10枚は白金貨1枚と同じ価値なのだけれど、買い物するには不便でしょうから金貨で渡していいかしら?」

「はい。」


 俺の返事に、ミュゼが笑顔で頷く。

 ……まるで『良い子ね。』とでも言われているようで、なんとなく居心地が悪い。


「地図広げるわね?今私たちが居るのは門から近いこのエリア。

 あなたが住む寮は、街の西側に位置してるわ。

 丁度ギルドから寮に向かう、この道にお店が集まってるから、買い物しながら向かうといいわね。」

「わかりました。」


 机の上に地図を広げ、ミュゼが書き込みをしてくれる。

 お互いに地図を覗きこむ為、距離が近くなる。

 ふわりと香る、甘い匂いに体が固まる。

 そんな俺の様子を見て、ミュゼの笑顔が一層深まる。

 ……な、なんか怖い!怖いんですけど!!

 俺の気持ちを知ってか知らずか、ミュゼは地図にギルドや寮、買い物に適した店や、その他主要な建物と抜かりなく書き込んでいく。


「だいたいこんな所だけれど、何か不明な点はあるかしら?」


 ん?と、小首を傾げる美女にたじろぐ。

 絶対これ、反応見て楽しんでる。

 俺、美女に遊ばれてる!


「ええと、取りあえずは、大丈夫デス。」


 返事が固いのは自分でも理解してるから気にしないでくれ!

 別に、コミュ症って訳じゃない。

 ちょっと色っぽい美女に慣れてないだけだ!!










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