4.異世界転移の原因って多種多様だよね。
街に近付くにつれ、言いようも無い不安に押し潰されそうになる。
そもそも街の中に入れるのか?
不審者扱いで捕まったりしないよね?大丈夫だよね?
取りあえず、カッターはしまっておこう。
あー、不安過ぎて心臓が痛い。
不安、不安と言った所で、歩む足は止めていないのだから街に近付いて行く訳で。
既に肉眼でも街の中へと続く門の前に、槍を持った門番がいるのを確認できる。
あちらからも俺が見えている様で、こちらを警戒してか門番が一人から二人に増えた。
「そこの者!止まれ!!」
結構距離があるにも関わらず、門番の男が吠える。
俺はと言うと、反射的に両手を上げてしまった。
もうね、俺、何も悪い事してませんよ!な状態だよね。
敵意も無いです!俺、無害だよ!って必至のアピール。
「ん?おまえ、もしや……。」
手を上げて、素直に立ち止まる俺をじぃーっと、身を乗り出して見つめる門番。
肩ほどまで伸びた、くすんだ金髪を後ろに束ね、顔の彫は深く、若干の無精髭の所為か年齢が読めない男。
20代にも見えるし、30代後半と言われても違和感はない。
ついついこちらも見つめてしまうが、内心ではドキドキのビクビクである。
ちょっとー、槍をこっちに向けないで!
え、え?俺はどうすればいいんだ?何が正解?誰か教えて―!
「おまえ、そのままゆっくりこちらへ来い!」
はーい!仰る通りに!
手を上げたまま、ゆっくりと門番の方へと進む。
「そこで止まれ!」
門番まであと数メートルって所で止められる。
うおー、二人してめっちゃ見て来るよー!
もう一人の門番、流星ほどじゃないけどイケメンー!!
赤茶色の髪に、切れ長の瞳。
金髪の方は凄い表情で俺を見て来るけど、こっちの赤茶色のイケメンは超クール!に表情変えずに見てくる。
てか、槍!槍が近い!何もしないから槍下げてくれよー!
内心汗ダラダラな俺を知ってか知らずか、二人の門番は俺の事を頭から足元まで何往復にも見た後、ようやっと槍を下した。
「なんだ、旅人か?悪い悪い、どこから来たんだ?」
槍を下した金髪の門番は、やたらと友好的に話しかけてくる。
少しホッとして、上げていた手をゆるゆると下す。
絶対今ので寿命が縮まっている気がする。
さて、なんて返せばいいのかな?
「ん?どこだ?アメリカか?フランスか?
あ、髪が黒いな……アジアか…、韓国?日本か?」
…………?
なんだって?は?
うおぉいっ!!!なんだ?どういう事だ!?
ここ実は地球だった感じ!?
え?え?異世界転移じゃないの!?
「おい、旅人が吃驚してるじゃないか。
まずは中に案内したらどうだ?」
「おお、そうだな。じゃあオレが案内すっから、交代まで頼むなー。
旅人の兄ちゃん、こっちだ。」
「は、はい……。」
なんだかよく分からないけど、手招きしてる金髪の門番について行くしかないよな……。
*********
案内してくれた所は、門を潜って直ぐ横に有る管理小屋のような所だった。
手前にテーブルと椅子が二脚。
横に簡易的な台所と食器棚、そして奥にベッドが一台。
しょぼいワンルームみたいな作りになってるな。
「そっちの椅子に座ってくれ。
いくつか質問するから答えてくれな?」
「はい、わかりました。」
気持ちとしては、高校入試の時にやった面接みたいな……。
若干の緊張を覚えつつも、先ほどの門番の言葉がループする。
ここって地球?アヴェンシア?どっちなの?
聞きたいけど、タイミングが掴めない。
この門番見てると、すげー慣れてるって言うか……ホント、どういう事?
「オレはササエル。兄ちゃんの名前は?」
「伊藤連です。連が名前です。」
「レン、ね。年齢は?」
俺に質問しながら、ササエルと言った門番は手元の紙に文字を書いていく。
室内の明かりの元で見たササエルは、ちょっと暗い金髪に碧眼で、目元にはうっすらと笑い皺が見える。
……30代後半か?
「もうすぐ16になります。」
「おうおう、若いねー。んで、出身は?」
「日本です。」
「おー、やっぱり日本か!日本人は勤勉で偉いよなぁ。」
「あ、あの、ここって……?」
偉いよなぁって言いながら頷くササエルに、まずはこれだけでも教えて欲しい。
地球なのか?アヴェンシアなのか?はたまた他の世界?
「あぁ、悪い。まだ言ってなかったな。
ここは日本じゃないし、もちろん地球でもない。
ようこそ異世界アヴェンシアへ!オレ達は旅人を歓迎するぜ!」
アヴェンシア来た―――――!!
だよな、だよな!?それ以外無いよな!
よかったー。
あれだけのフラグを立てたんだ、フラグ回収は大事!
「さーて、質問続けるぞー。
えーと、アヴェンシアに来たのはいつだ?」
「えっと、1時間位前です。
気が付いたら、この町の前の、小高い丘の向こうに居ました。」
「おー、街のすぐ近くで良かったなぁ。
ここに来た原因は分かるか?」
「原因……ですか?」
え?異世界転移に原因とかあんの?
「アヴェンシアに来る前、トラックに轢かれたか?猫やら子供とか助けたか?マンホールに落ちたり、よく分かんないドアとか開けたか?」
え?は?なんだって?
「えっと…、トラックに轢かれてないですし、何かを助けたりも、マンホールやらドアでもないです。」
「じゃあ神様経由か?」
「神様……でも、無いです。誰とも会ってないし……俺、気が付いたら草原にいたんです。」
俺の話を聞いて、ササエルは『あちゃー』とでも言うように手を額にあて天を仰いだ。
やめてくれよその反応!
嫌な予感しかしないんだが!
「今言わなくても、多分すぐに耳に入るだろうからオレが言うかぁ……。」
「な、なんですか?言ってください!」
やめて!もったいぶらずに早く言って!
「そのなぁ、アヴェンシアに来る切欠がある場合、同じような事に遭った時、元の世界に戻れる事が多い。死んでこっちに来た場合はどうにもならないけどな。で、神様経由の場合は、神様から条件が表示されるから戻りやすい。ただなぁ、原因なく、前触れ無く転移ってなると……。」
「……なると?」
「正直なところ、分からない。今話している、一瞬後に元の世界に戻っていることもあれば、死ぬまで…いや、死んでも戻れない可能性もある。」
ササエルの言葉に、今度は俺が天を仰ぐ。
なんかもう、俺のキャパシティがオーバーなんですが。
門番ササエルの、この慣れきった問答も気になる所だけど、俺アヴェンシアに来てから、一度も帰る事の心配してなかった。
寧ろ、これからどうしようって、これからの事を気にしてた。
俺ってこんなに欲望に正直だったのかって、自分に呆れた。
もう無理です。
良く聞くあの言葉を、俺も言う時が来た。
もうやめて、俺のライフはゼロよ!!