表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/7

どうも、伊藤の前の席の田中です。

 中学1年の夏の終わり、俺の後ろの席と斜め後ろの席に座る二人の男。

 今日はこの二人の事を話そうと思う。


 ある日の会話はこうだ。


「なーなー流星、こないだ言ってた回復薬(ポーション)の話だけどさー。」


 後ろの席の伊藤連が、その横の席の伊保橋流星に話しかける。


「材料は薬草と水だけって話だけどさー、水は何でも良いわけ?水道水……は無いか。井戸水とか雪解け水とか、海水とか川の水とか水にも色々あるじゃん?」

「あー、薬草の質もそうだけど、水によっても出来は変わってくるよ。あんまり汚い水使うと、見た目も濁ってるし味も性能も悪い。海水だとかなりしょっぱくなるし。」

「なるほどなー。やっぱり真水が良いのか……。流星は作るの得意だったのか?」

「僕は自分で作る事はあんまり無かったなー。生産が得意な友人がいたから、そこから仕入れてたし。」

「生産か…魔法薬的な?工房とかもいいよなー。」


 まるでゲームの話しみたいだろ?

 でも違うんだぜ?


 やたら顔の良い伊保橋流星と、まあ平凡よりは少し上か?って言う伊藤連。

 入学当初、あのふたりの周りにはそれなりに人が居た。

 ここの中学は周りに有る二つの小学校からの集まりだから、違う小学校から来た奴らは知らなかったんだよな。

 この二人の会話は8割ほど上のような感じだ。

 遠目に見れば、至極真面目に話をしているように見えるが……いや、当人達はいたって真面目に話をしているんだろう。


 以前、クラスのアイドル、美少女な池田さん(別の小学校出身)が


「伊保橋くん、何のお話ししてるのぉー?ゲームぅー?」


 って言ったら。


「ここではない世界の、アヴェンシアって所の話だよ。」

「へー?」

「ゲームじゃないし、嘘物語でもない。ちなみにこれ以上君に話すことはないから、できれば君も僕に話しかけないでね?」


 信じられるか?

 入学してからまだ数日目、朝のHRが始まる直前のこの出来事。

 クラスが静まり返ったのはお分かりだろう。

 クラスの半数ほどいる同じ小学校出身の奴らは同じ気持ちだったと思う。


 ――――あぁ、また始まった。――――


 と……。

 出席番号順に座っている席で、廊下側一列目の前から池田、伊藤、伊保橋。

 池田さんの声は女子特有の高い声に、自分の見た目を分かっているからこそなのか、少し媚びているような喋り方。

 そんなあざと系女子代表と、ひとつ席を飛ばして見た目正統派イケメン代表。

 そりゃね、ロックオンしちゃうでしょうね。

 伊藤と伊保橋の二人で話をしている中に、イケメンだけを見つめて、イケメンだけの苗字つけて話しかけたらさ、もう副音声としては


『わたし、イケメンと話がしたいから、平凡なあなたは席を外してくれるよね?わかるよね?』


 って、聞こえるよね!

 美少女に無視されて面白くないで有ろう伊藤本人は、我関せずって顔してるけど、こういう事になると怖いのは伊保橋なんだよなぁ。

 表情としてはにこやかに笑うイエメンでいつもと変わりは無いんだけど、眼が怖い。

 眼が、まったく笑ってないし、あの眼だけで相手を殺せそうなほど、眼が怖い。

 尚且つ、雰囲気が有無を言わせずって感じで語尾に疑問符がついてるのに役割を果たしていない。


 こうやって、クラスの雰囲気が氷点下に下がったのだが、伊藤の甲斐甲斐しいフォローにより、『なんとなく伊保橋を遠巻きに見るクラスメイト』の図が出来上がった訳だ。

 だってさ、無視した張本人の池田さんに向かって、


「ごめんな、こいつ結構人見知りでさ。俺もそうだけど、テレビとかもあんまり見ないから、楽しい話もできないからさ……そっとしておいてもらえると助かる。」


 氷点下な空気の中、美少女な池田さんに向かって苦笑いして、謝りながらも、角が立たないように話しかけないでねって言う伊藤。

 流石(さすが)としか言いようが無かったね。

 見ろ、周りの反応を!

 イケメンの怖さにドン引いていたクラスメイトが、『あれ?イケメンの友達、結構いいんじゃない?』みたいな雰囲気になってる。


 正直、伊保橋はイケメンだが性格に難ありな事は同じ小学校に通っていた奴らは皆理解している。

 爽やかな正統派イケメンは、プライドが山のように高く、自分が認めた人間にしか心を開かない。

 だからこそ、自分が認めている伊藤の事をコケにされるとメチャクチャ怒る。

 静かに怒るイケメン……怖っ!

 話しかければ普通の話も勿論(もちろん)できるけど、分厚い壁を感じる。

 伊藤と話してる自然体な伊保橋はある意味貴重だから、二人が話している時は遠巻きになっちゃうんだよなぁ。


「あとさ、語尾伸ばして話すの、やめた方が良いと思うよ?せっかく可愛いのに、バカっぽく見える。」


 俺、空気読めるのにちょいちょい爆弾落とす伊藤の事、結構好きだよ。

 この頃の伊藤はまだ詰めが甘い所があって、せっかく上がった好感度が一気に下がったんだよなー。

 言われた池田さんは可愛いって言われて喜びたいのに、バカっぽいの一言で凄い表情になってた。

 その後すぐに担任が教室に入ってきて、微妙な雰囲気でHRが始まったんだよなぁ。


 そんな事をツラツラと思い出しながら給食を食べてたら、牛乳飲んでる最中に伊保橋が俺のツボを突いてきた。

 伊藤を指す『ダメな子、残念な子』発言に笑いそうになるのを我慢したら牛乳が!!

 牛乳が気管に入って思い切り咽る。

 そんな俺を伊保橋はチラリと見て、ニヤリと笑ったように見えた。

 表情はあんまり変わらないけどね、俺だってそれなりに長く見てきたんだから表情くらい読めますよ。

 まったく、良い性格してるよイケメン様は!













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ