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1.伊保橋って苗字の人は少ないらしいです。

初投稿。

 幼稚園からの友人で、伊保橋流星(いぼはしりゅうせい)と言う男がいる。

 彼は苗字からして珍しいくせに、名をザ・イケメン代表!みたいな流星ときている。

 名は体を表すとは良く言ったもので、顔面偏差値は悪く言った所で上の下。

 所謂(いわゆる)イケメンである。


 最後に会ったのが高校に進学して(しばら)く経った、6月の暑い日だった。

 中学の時よりも少し身長が伸び、俺よりも少し目線は上だったから……恐らく170半ばほどで、細い割にしっかりとついた筋肉は、小学生の頃からやっている剣道の賜物(たまもの)だろう。

 日本人にしては薄めの色素のようで、栗色のサラサラな髪と黒よりも茶に近い明るい光彩の瞳。

 少し垂れ気味の(まなじり)所為(せい)か、いつも穏やかに笑っている印象を受ける。

 そしてこの男は見た目に終わらず、剣道以外の運動はもちろんの事、勉学に置いても非常に優秀だった。

 周りの連中が地元の公立高校に進む中、彼は通学に1時間ほどかかる進学校へと進んだ。


 ここまで言うとさ、すんごいモテそうな印象を受けるよね?

 実際ね、先輩とか後輩とか、後は他校生とかには非常にモテた。

 ただね、同じ学年にはまったくモテなかったんだよね。

 何故かって?それはね、


 彼は大変な変人だったからだ。


 始まりはいつだったのかは分からない。

 俺が幼稚園に入園したのは4歳を迎えて暫く経った頃。

 その頃には既に変人流星は出来上がっていたのだ。


 俺は中途入園だった為、既に出来上がったクラスへの入園だった。

 遊びの時間だったか、クラスの中はそれぞれ絵本を読んだり、折り紙を折ったり、積み木で遊んだりと自由に過ごす子供の中、彼――流星はいた。

 どこも4、5人のグループが出来ている中、流星だけは独りポツンと大きなスケッチブックに絵を描いていた。

 入園初日の俺は、積み木グループに最初は入っていたが何となく馴染(なじ)めず、独りでいる流星に眼をつけた。


「なにかいてるの?」


 俺が話しかけると、流星は初めて俺を認識したようで少し首を傾げ、じぃっと見つめてきた。

 見つめてくる流星にどうしていいか分からず、俺もついじぃっと見つめ返したのを覚えてる。

 移動もせず見つめてくる俺が、返事を待っていると思ったのか、スケッチブックを見せてくれた。


「これなーに?」


 スケッチブックには、俺が初めて見るもので溢れていた。

 子供がクレヨンで描いた絵は、スケッチブックいっぱいに書かれた記号。

 同じサイズで、よく見るとそれぞれ違う記号が端から端までビッチリと書かれていた。


「これなーに?」


 返事が返って来ず、スケッチブックを見てもさっぱりだった俺はもう一度ハテナをとなえた。

 未だに俺を見つめていた流星は、何度か口を開けては閉じて難しい顔をして下を向いた。


「これ、なーに?」


 それでもめげなかった俺って中々だよな。

 先に白旗を上げたのは流星だった。


「ぼくがこれからいうことは、うそじゃありません。しんじつです。」


 子供らしかぬ、しっかりとした言葉だった。


「ぼくには、ここではない、ちがうせかいのきおくがあります。

 これは、そのせかいでつかっていた、もじです。

 ひとのきおくは、ひびわすれていくものなので、こうやってきろくをしています。」


 話し終え、ふんっと鼻を鳴らし肩を落とした流星を俺は暫しポカンと見つめていた。


「あー、またリューセイくんへんなこといってるー!」

「リューセイくん、へーん!」

「うそつきリューセイ!!」


 子供は残酷で、自分と違うもの、理解ができないもの簡単に排除しようとする。

 流星は少し居心地悪そうに、それでもしっかりと前を見ていた。

 そして俺はと言うと……


「すっげー!!なにそれすっげー!!」


 流星いわく、その時の俺は眼をキラッキラさせてスケッチブックを見ていたそうだ。


「これ、もじ?もじなの!?

 すげー!ぜんぜんよめない!かっこいい!!」


 うん。凄い馬鹿っぽくて恥ずかしい事この上ないが、当時の俺の食指(しょくし)が動いた。

 因みにその興味は今現在も続いている。


「これ、これなんてよむの!?」


 スケッチブックの中の一つの記号を指差した俺を流星はへにゃりと笑いながら答えてくれた。


「これは、にほんごでいう“て”です。」

「これは?これは?」

「これが“ん”で、これは“せ”です。」

「すっげー!!」


 と、この様に


『幼稚園通ってみたら同じクラスに異世界からの転生者が居ました。』


 こんな、ラノベのタイトルみたいな出会い。


 当時の俺は知らない事に興味津々で、知識豊富(異世界に限る)な流星に付き(まと)うようになるまで時間は掛からなかった。


 口を開けば王国がどうとか、モンスターがどうとか言う流星は、クラスから完全に浮いていた訳で。

 見た目が良く寄ってきた女の子も数分で離れていく不思議。

 もうね、常に俺が横に居る状態でしたよ。

 幼稚園から始まり、高校が離れるまで。


 もちろん歳を重ねるごとに声を大にして言う事は無くなったけど、同学年だと流星の妄言は周知の事実で、なんとなく遠巻きにされていた。

 まあ、そんな事から同学年の女子からは


 ―顔は良いけど、ちょっと…ねぇ?―

 ―性格も良いけど、うーん…ねぇ?―

 ―アレさえ無ければ、完璧なのに…ねぇ?―


 と、実際にはお互いに様子を見つつ牽制(けんせい)している状態だった訳だが。

 暗黙の了解によって成り立っていた流星の平穏、とも言えるかもしれない。

 なんとなく遠巻きにされていた流星の横には常に俺がいて、異世界の話を10年以上聞き続けた。

 一番最初の出会いである文字から始まり、王国の事、モンスターの事、ギルドの知識、騎士や竜、それから食事内容や歴史なんかも教わった。


 俺、たぶん流星の前世の世界に関する試験とかあったら満点とれると思うって言える位、何度も何度も何度も話を強請(ねだ)った。

 終いには流星の前世の家族や恋人の話まで。


 そして、なぜ俺が今こんな話をしているのかと言うと。

 まあ、ほとんどの方がお分かりであろう事を今から言うね。



 俺こと、伊保橋流星(いぼはしりゅうせい)の親友である伊藤(れん)



 この度、流星の前世世界である―アヴェンシア―にトリップしたようです。






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