【第弐話】白黒魔法使いと人妖の道具屋
枝暮「前回までのあらすじ」
霊夢「枝暮が幻想入りして襲われているところを私が救出。そのお礼として私の駒使いとしてなることに……」
枝暮「嘘言うんじゃねぇよ!普通に居候だわ!」
霊夢「でも一応雑用係でしょ?」
枝暮「ぐっ………それ言われると何も言えない……」
霊夢「という事で、どうなる第弐話?」
霊夢「………ついでに分からなくなると思うから、名前付きで分かりやすくなってる………」
まだ静けさがある朝、雀の鳴く声が森に響く。
弱々しくも輝きを放つ太陽の光は、ある神社___博麗神社の右隣の小屋の窓に差し込み、そこで寝ている男の顔を照らす。
段々鬱陶しそうに眉を潜めていき、目を開けて腰から体を起こす。眠たそうに目を擦り、窓を見て溜め息をついた。
枝暮「はぁ………………」
男____枝暮こと俺は、朝が今一苦手である。
夜型の人間は大体深夜帯に寝ることが多く、俺もその部類だ。
俺は嫌々ながらも動かしたくない体を起こし、洗面所に来て水を流す。そのまま両手で掬い、その冷たい水を寝ぼけた顔にかけて洗う。洗うと言ってもただ水を顔にかけるだけだが。
顔に付着した水滴を服で乱雑に拭い、蛇口を閉めて水を止め、布団を片付け始める。
因みにさっきの話だが、途中から夜型という事ではなく、根っからの夜型なんだ。
いや、普通他の奴なら子供の頃は必ずと言って良いほど夜は眠くなるはずだろ?それって太陽の下で遊び疲れたりするのも理由の一つにあるわけであって、所謂子供の頃は朝型だったが、大人になるにつれ夜型みたいな感じだろ?
でもさ、俺の場合はその逆。太陽のあの睨み付けてくるようなあの暑さと眩しさが本当に苦手だったよ。でも夜は好きだったなぁ。静かだし、無理に照らさないし、心地良い涼しさだし……。
ま、ぶっちゃけ冬の夜は苦手だが。
そんな事を考えながら布団を片付けを終えたので、そのまま寝巻きからいつもの服装に着替える。
白いシャツと灰色のズボンを着て、黒のジャケットを羽織る。頭を掻きながら開けたくもない扉を開け、外へと出る。
外は晴天。まるで平和な状態を体現したかのような晴れである。雲は光が強いのか白く半透明のような状態で、朝が好きな人は絶対喜ぶであろう。
俺はと言うと、やはり朝の眩しさが俺の視界に入り込み、悪く言えば鬱陶しい。
いや、眩しいからこそ朝だろうけど、やっぱどうにかなんないかなぁ………
そんなどうにもならないことを考えつつも、神社へと向かう。そこにはこの神社で巫女をやっている少女が住んでおり、俺はそこで居候として住まわせてもらっているんだ。
その少女の名前は博麗霊夢。この幻想郷の守護を任され、異変などの解決を仕事として生活しているすんごい巫女。俺は何故そんな人の所に居候としているのかは正直わからん。(最初から見てくれ)
神社の右側の縁側から入り、中を進んでって厠に入って小便だ。は朝………から小便をしたい主義なんだよ。分かってくれ。
厠から出て境内を掃除しようかと縁側を見てみると___
赤いリボンをした巫女服の少女が箒で境内を掃いており、俺はもうやっていたのかと内心驚いている。
少女はこちらに気づいたのか、振り向いてその普通の表情を向け、抑揚のない、実に平坦な声で挨拶をした。
霊夢「おはよ。枝暮」
枝暮「…………おはよ~、早いんだな。割と」
俺がそう言うと「一言余計よ」と言って嘆息し、掃除を続ける。
もう気づいているだろうが、彼女がその博麗霊夢だ。さて、俺も何かしないとまずいだろうから、まずは朝食でも作りに行くか。
ま、適当に余ったもので作るのに限るがね。
そんなことを思いながら、土間の方へと足を運んだ。
◆◇◆◇◆◇
はてさて、時は過ぎて十一時頃。
今は人里で散歩がてらのお使いである。まぁ昼食は各自と言うことなので夕飯の為の買い物でもある。あ、一応日常での消耗品も買うがね。
さて、買うだけなんて面白くないし、ここらで一つ、復習がてらこの世界について話しますか。
………え?幻想郷の事は皆とっくに知ってる?いやいやそうではなくて、大体どの異変まで言ってるのかという話だ。
自分はてっきりあの憑依華まで行ってると思っていたが、予想通りどころか、『秘封ナイトメアダイアリー』の所まで行ってたと言うね。
でも解せないんだよなぁ?いくら俺と言う存在のためとは言え、そこまでやるものかねぇ?
…………まぁ、あの人の考えることは俺にはわからん。
それはさておき、必要な物は買ったから帰るとしますかね。
俺は人里から東の門を通り、博麗神社のある山へと向かう。奥に行けば行くほど獣道となり、険しくなっていく。
枝暮「…………こう言う立地条件の悪さが、参拝客の数を減らしてるんじゃないのかねぇ………」
俺は石階段をゆっくりと登りながら、周囲の険しい森の中を見てそう愚痴る。
ま、霊夢もそれに気付いてるとは思うけど、一応話しておくかね。
そんなこんなで長ったらしい石階段を登り終わり、鳥居を潜ろうと前に出る。
すると、その先の境内に変わった衣装をした少女がいた。
左片側だけおさげにして前に垂らしたウェービーな金髪が特徴的で、リボンのついた黒い三角帽(魔法使いの帽子・コーンの様に先がとがった、つばの広い帽子)を着用し、「黒系の服に白いエプロン」という服装、さらには右手に箒を所持し、いかにも魔法使い然とした身なりをしている。
こんな独特でいかにも魔女らしい姿をした少女は霧雨魔理沙という、元人間の魔法使い。俺は声をかけようかと歩み始めるが___
「霊夢ーー!!遊びに来てやったぜー!!」
神社に向け、大きな声を張り上げてそう叫ぶ。
…どうやら遊びに連れていくらしい。どうせならちゃっちゃと何処かに行った方が夕飯作りやすいから良いけど。すると縁側で湯飲みを持ちながらのんびりと日向ぼっこをしている霊夢は、いつも通りお茶を飲んで一息ついている。
そばに箒がある辺り、掃除はしてたんだろう。
………そう期待しておきたい。
魔理沙は霊夢の近くへと寄り、俺は境内の左側を通って荷物を置く。
それに気づいたのか、霊夢は「おかえり」と一言告げてくれる。こう言う何気ない挨拶というのは割と安心できるんだよなぁ。
それで漸く俺に気づいたのか、魔理沙がこちらに振り向く。
枝暮「……どうも」
魔理沙「お?おっす。霊夢、こいつは参拝客か?それとも使用人か?」
霊夢「使用人の方」
枝暮「軽く嘘を吹かないでくれません?……居候ですよ。居候」
魔理沙「居候?こりゃまた珍しいやつだなぁ。こんな辺鄙な場所にねぇ?」
霊夢「その辺鄙な所に来てるあんたも珍しいやつだけどね」
そんな皮肉の言い合いは、何とも幻想郷の日常という感じが出ていてほのぼのできる。
魔理沙「私は霧雨魔理沙。魔法使いだぜ☆」
枝暮「俺は曉枝暮。しがない人間ですよ」
魔理沙「これから香霖の所に行くんだけど、ついでにお前も行くか?」
枝暮「………まぁ、顔合わせという形なら……」
香霖と言うのは、森近霖之助という男の名の呼び名でもある。魔理沙がそう言ってるだけだが。
因みに霖之助は「香霖堂」という古道具屋を営んでおり、その店主でもある。
俺も一度入ってみたいと思っていたので、一泊開けて了承する。
魔理沙「彼奴が新しい茶菓子とお茶を仕入れたみたいでよ、行ってお茶しに行こーぜ!」
霊夢「そう言うことなら私も行くわ」
霊夢も茶菓子と聞いた途端、目を輝かせて立ち上がる。霊夢ェ…………
枝暮「これを言うのもなんだが……それって良いのか?」
迷惑じゃないのか?と俺は心配そうに聞くが、魔理沙はヘラヘラ笑いながら俺の肩をバシバシ叩く。いやあの痛い痛い。それ結構痛いから……
魔理沙「良いんだよ、どうせあんまし人来ねぇんだ。私達が食ってやった方が良いぜ?」
霊夢「そんな些細な遠慮は要らないわよ。そういうのは損しか生まないからね」
そんなものかねぇ。そう考えてる中、俺は魔理沙に首根っこ掴まれて箒に引っ掛けられる。
何が起きたのか分からなかったが、宙に浮いた時点で分かった。
___これ、俺運ばれるなって。
魔理沙「んじゃ、お先に行ってるぜ~」
霊夢「行ってら~」
枝暮「えっちょっ俺どうなrぅうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………!!!」
魔理沙は俺の戸惑いすらも置いていき、博麗神社の辺りには男の断末魔が響いたという。
◆◇◆◇◆◇
人里から西に離れた大きな森がある。その森には魔法使いや妖精と言った不可解な存在がいる森は、魔法の森と呼ばれている。
その端に、一つの古道具屋が建っていた。
生い茂った森に一筋の光が入り込み、その古道具屋の窓の中に差し込む。
眩しいとは言わず、淡い光が中に舞う埃を照らす。
僕___森近霖之助はそれを一種の風景として眺めたりもする。
椅子に座り、お気に入りの古文書を呼んで一日を過ごしている。誰の声もなく、喧騒さがない、ただただ静けさのみが漂うこの空間の中。独りで居るときは本を呼んで過ごすのが僕の習慣でもある。
古道具屋としての機能は成り立っているが、大体ここに来るのはあの二人くらいしかいない。
まぁそれはさておき、僕の集めた道具の整理でもして、新しく仕入れた茶菓子でも食べるとするとしよう。
そう思いながら本を閉じ、椅子から立ち上がろうと動くが____
ドゴォォォォォォォォォォォッ!!
…………外から何やら物音がしたな。しかもかなり大きな音だ。また魔理沙か?魔法の失敗か着陸に失敗したか…………。どちらにせよ静かにしてほしいものだね。
やれやれと僕は嘆息し、重い腰を上げて扉を開ける。
「どうした?何をやらかした?全く、魔法の運用試験なら他でやれとあれほど………」
___言ってるだろう。と言おうとしたが、僕はその光景に呆気にとられてしまった。
僕の視界に写ったのは、いつもの光景とは違う。
地面にめり込んだ真っ黒な少年と、やってしまったと言わんばかりの顔でその少年を見ている魔理沙だったのだから___
◆◇◆◇◆◇
突然だが、猫は高いところから落ちても平気ってことは知ってるかな?
実際、アメリカである飼い猫が九階から落ちても無傷というケースもあったらしく、研究で猫が落ちる平均落下階数は2.65階。その平均生存率は98.8%。猫って凄いだろ?色々理由はあるが、それは個人で調べてくれ。
何故こんな事を言い出したのかというと、今俺は__
「うぶ………ぐぶ…………」
____現在、地面に埋まってますから☆
一体何故こうなったのかと言うと……
魔理沙に運ばれていた途中、突然くしゃみをしたくなったのだが、空中なのでそうするわけにもいかなかったんですよ。だから我慢してたけどさ、香霖堂に着く寸前で気を抜いてうっかり………。
それによって上手い具合に引っ掛かってた俺の服が外れ、今に至るということだ。
あぁ、こういう時猫の力が羨ましいなと思ったわけで………あの語りをしたわけですよ。
魔理沙「………オーイ、生きてるか~?」
魔理沙の声が聞こえる。申し訳程度に小さめの声で気にかけてくれる辺り、割と優しいのかもしれない。
「どうした?何かやらかした?」と、若い男の声が聞こえてくる。恐らく霖之助なのだろう。
何やら足音が大きくなってくる。助けてくれるのかな?
「大丈夫……という訳でもなさそうだな。起きれるか?というか、意識あるのかも分からんな……」
これ以上土の味を味わってても意味もないので、震えながらも全身に食らった衝撃が残った状態で起き上がる。あーくっそイタイ。まぁ、アスファルトじゃないだけ物凄くありがたいのは事実だな。
「結構汚れてるな……一応肩を貸すから、中に入ろう」
服が土で汚れてしまっているが、これくらい払えばどうにかなる程度で済むものだよ。
俺は一応服についた土を払い、霖之助さんの肩を借りて中に入った。
少年移動中………
霖之助「___成る程な。そういう経緯で……」
霖之助さんに、何故埋まっていたのかのと、自己紹介を兼ねて話した俺は今、椅子に座って休憩している。
あれから魔理沙には肩を叩かれながら励まされた。………あの時くしゃみさえなけりゃあなぁ……
まぁいつまでも悔やんでても意味ないし、仕方無いか。
霖之助「僕は森近霖之助。ここで商売をしている人間と妖怪の混血種さ」
枝暮「成る程………でも、どれも売れるようなものだったりして?」
霖之助「ま、一応趣味を兼ねた店だからね」
霖之助さんは眼鏡の位置調整しながら得意気に話す。………この人、否定しない辺り本当に趣味人なんだなぁと思うこの頃。それで商売成り立つのかねぇ…………
魔理沙「それはそうと香霖。お前新しい茶菓子と茶があるんだろ?それでもてなしてくれよ~」
霖之助「どこでそんな情報を手に入れたのやら………まぁ良い。今出すから、待っていてくれ」
そう言って霖之助さんは立ち上がり、奥へと向かっていった。
その間暇なので、棚にある小道具やら工具を見てみる。流石に種類も豊富で、置いてある物のジャンルが幅広い。
魔理沙「ガラクタばかり集めてるから、埃とかもたまるんだぜ?」
そう魔理沙はゲラゲラ笑って茶化すが、こう言った趣味もあって良いだろう。俺も小さい頃は緑色のガラスを集めてたけど、そこまでじゃなかったし。こんなに集めてる人は始めてだ。
枝暮「そんなものかねぇ。まぁ、こういった何かを集めたりしたくなる癖……」
霖之助「お?君は分かる人だね。何やら気が合いそうで嬉しいよ。」
それを聞いていたのか、霖之助さんは嬉しそうに言いながらお茶と茶菓子が入った箱を持ってきて、テーブルに置く。
その後丁度霊夢が来て四人となり、小さいお茶会となった。茶菓子のクッキー、かなり美味しかったなぁ………。まぁ暇が出来たら、香霖堂に道具でも買いに行こうかな。
魔理沙「いやぁ、やっぱ香霖が仕入れる茶菓子は上手いぜ~!」
枝暮「俺、緑茶嫌いだけど、霖之助さんの淹れた茶なら飲めれたというね」
魔理沙「霊夢の入れる茶よりかは劣るけどな」
霖之助「君達、そういう談笑は次回予告をしてからやりなさい……。次回、【能力開花?座学も兼ねて】」
枝暮「俺の能力って一体………」