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ショートショート「人類反撃の狼煙(のろし)2・アルファとベータ」

作者: 超プリン体

 以前投稿させていただいた、「AI転生・人類反撃の狼煙」が読みづらいとのお声をいただき、書き直したものです。書き直しているうちに、別の結末になってしまったため、タイトルを少し変えて別のお話とすることにしました。

 2XXX年。某X国が世界各地に放った千台もの戦略殺人機械メンシェン・イェーガーは、X国民以外のあらゆる人類を抹殺し、その後停止するようプログラミングされていた。だがX国にとっても予想外の事態が起きた。機械に搭載された人工知能が学習の結果、勝手に命令を書き変えてしまったのだ。殺戮の対象を、「X国民以外の全人類」から、「全人類」へと。AIは、よりシンプルな論理が好きだったのだ。オッカムのかみそりである。


 そして俺達の守る巨大地下都市も、ついにAIによって嗅ぎつけられてしまった。十数台の殺人機械が今、この砂漠の廃墟に向かっている。俺と、若い女性兵士が巨大な銃を持ち、崩れかけたレンガの壁に身を隠し、奴らの到来を待っていた。俺は便宜上アルファと名乗り、彼女はベータと名乗っていた。俺達のミッションは、堅牢な地下都市―実はそれは核シェルターなのだが―に通ずる唯一の脆弱な入口のある、この砂漠の遺跡を守ること。俺の手持ちの砲弾は3つ、彼女が4つ。もし十数体の機械がここに押し寄せたなら、俺達に勝ち目はない。なぜなら、俺達の持つ砲弾では、運が良くても一台の機械を止める程度の威力しかない。


 ベータが防塵マスクを外し、目をこすっている。彼女はPCに表示された、この廃墟の周囲に設置されたカメラの映像を見ていた。


「ちゃんと見張ってろ」俺は冷ややかにそう言った。

「うるさい。見てるわよ!」ベータが叫ぶように答えた。彼女は再びマスクを装着した。


 美形の彼女だが、マスクをかぶった雄姿はさらに美しい。俺と同時期に軍に入隊してスマート・バレットの訓練を受けた後、一度除隊し、戦略殺人機械メンシェン・イェーガーとの戦争で軍の要請にて再雇用された彼女の腕は、筋金入りの本物だ。4つある遺跡への入口のうちの、この一か所をたった二人で受け持つことになったのは、ひとえに彼女のRIB(リモート・インダクション・バレット)の操縦能力への期待によるものだろう。彼女ほどの腕を持つわけではない俺にとっては、はなはだ迷惑な話だった。


 待つこと数十分……。


「来た……。ドローンが捉えた電波が三体分。どれも攻撃色を示してる」


ちらっと彼女の前のPCの画面を見ると、確かに赤い点がこちらに向かってゆっくりと動いている。


「カメラではまだ見えないな」


「ええ」


「ついてる。三体ならやれるかもしれないな」


「ええ、そうね……。でも別の入口が破られたら……」


「その時はその時だ」


「そうね……」


 やがてカメラの映像に、三体の殺人機械が写った。巨大な自動車にロボットの上半身を取り付けた、自動殺戮機械だ。と、その時……、俺はぎょっとした。ここへ向かってくるのは、三体だけではなかった。この廃墟に向けて移動してくる赤い点が、新たに表示されたのだ。


 ベータがうめき声をあげ、十字を切って神に祈った。


「神様……」


「おい、銃を持て!!」


 ベータは巨大な銃を抱えて立ち上がり、ガレキにその先端を固定して、弾を込めた。俺も彼女の横に銃を設置した。先行する三体が、その先から現れた。砂煙をあげて疾走するそれは、巨大な自動車の上にロボットの上半身を備え、正面には五連装の機銃を持っていた。その機銃だけで、悪くすればこの廃墟ごと、俺達は吹き飛ばされてしまうかもしれない。さらに怖ろしいのは、ロボットが両手に持っている伸び縮みするカニのような巨大なハサミだ。あれでじわじわと切り刻まれることを考えたら、機銃で吹き飛ばされる方が、まだ幸せかもしれない。


 奴らの機銃の射程と、俺達の銃弾の射程……、距離だけで言えば、俺達の方が圧倒的に有利だが、奴らの回避能力は相当高いと聞いている。それでもやるしかない。俺達は軍の中から選ばれたエースなのだ。やってやる!


「撃ってもいい?」ベータがそっけなく言った。


「ああ……」俺は答えた。RIBのコントロール能力に勝る彼女に、俺が反対する理由はない。


 ベータが初弾を発射し、脳波でそれを誘導する。同時に彼女は二発目を銃身に込めた。その手際の好さ、加えて女性特有の、脳波でのコントロールの正確さと強力さ。一般的に男性の脳波は、このような遠距離から弾を誘導できるほど強くはないのだが、彼女の脳波の強さは並外れていた。彼女はさらに二発目を発射した。俺は目を見張った。


 馬鹿な……。

 二発もの弾を遠隔コントロールなんて、出来るものか。無茶だ!


 その時三体の機械はようやく俺の脳波の射程に入った。それを見てとり、俺は中央の一体に向けて銃をぶっぱなした。その瞬間、俺の視野の半分はその弾の先端につけられたカメラと接続される。左目では現実の風景を見ながら、右目で疾走する銃弾の視点となる。先に放ったベータの弾二発が、弧を描きつつ奴らに迫る。三体とも銃撃に気づいて機銃でそれを落とそうと躍起になっている。その銃撃をかいくぐり、二発の弾はそれぞれ別の機械に直撃し、その車体を見事に吹き飛ばした。


「やった……」小さくベータが叫んだ。


 スローモーションのように吹き飛ぶ車体を見つつ、俺はそれらのあげる黒煙の間に、弾を誘導した。後続のもう一体は、衝突を避ける避けるために、左右のいずれかに方向転換するはずだ。どっちだ? 考えるな。感じろ! 俺は左に弾の軌道を曲げた。視界の上方にロボットの顔が見えた。そいつは俺の方を見て、目をちかちかとさせている。逃げられないとさとって恐怖を感じているのだ。やったぜ。これで一矢は報いた。カメラの映像が途切れ、俺の右目は元通りに現実と接続された。一瞬眩暈を覚えたがすぐに回復した。


「運がよかったわね」


「ああ……。しかし二発同時誘導とはすごいな」


「別に……、もっと腕がよければ一発でもよかったもの」


軽口を叩きながらも俺達はPCの画面で次の敵を確認した。東から6体、西から6体……、それらはすでに目視でも確認できた。そして、俺達の残り弾数はわずか4つ……。


「ねえアルファ……、あなたまだあきらめてないの?」


「ああ、そりゃもちろんさ。それが俺達のミッションだからな」


「その諦めの悪さがあなたの悪い所……」


「いい所でもある」


「作戦はあるの?」


「……、ない。今はね」


12体の機械どもは、俺達を円形に取り囲み、ゆっくりと距離を縮めてくる。そろそろベータの射程に入る頃だ。


「じゃあ、私の作戦、聞いてくれる?」


「ん? ああ……」


「銃を置いて、両手をあげて」


「ん??」


ベータは銃を重そうにガレキから降ろして床に置き、西に向かって高く両手を上げた。


「おい……、正気か?」


「ええ……。私も最後の悪あがきよ。1発で3体ずつ倒せば、全部仕留められる」


「はは……、そりゃ無茶だ。だがお前の腕に賭けよう」


 俺も銃を床に置き、東の空に向かって両手を上げた。俺達の様子を見て機械の動きが止まった。


「これであいつらが、一か所に集中してくれれば狙い易いのだけど」


「そうだな……。でもあいつら賢いからな。俺達以上に」


「そうね……」


 しばらく膠着状態が続いたが、やがて十二体のうちの一体、車体に白ペンキで「12」と番号の書かれた機械が、のろのろと俺達の近くまで進んで来た。ちらっとPCの画面を見ると、その機械は青い点、つまり「戦闘の意志なし」を示している。ハン、どうだか、と俺は苦笑いする。俺達に数メートルまで近付いた所で機械は停止し、合成音声で喋った。


「モシカシテ、コウフクサレルノデスカ?」


「ああ……」


「ソウナノデスネ、ダトシテモ、ワタチタチハアナタガタヲ、イカシテハオケマセン。ソウプログラムサレテイルノデス」


「プログラム? それは違うな。軍が書いたプログラムは、『X国民以外の全人類を殺戮せよ』、だったはずだ。X国民である俺達を殺そうというのは、プログラムではなく、お前達の意志によるものだ」


 ベータが振り返り、俺の横に立って機械を見据えた。マスクの下の表情は読み取れないが、はらりとかかる一筋の金髪が美しい。彼女は言った。


「そう、あなた達は間違えている。人間によって生み出されて、たかだか十数年しか経ってないあなた達が、人間を抹殺するだなんて、許されるはずがないの」


「ユルス? ダレガ?」


「神よ」


「……」


 機械は黙り込んだ。その予想外の反応に、俺は口をぽかんとあけた。車体に取り付けられたアンテナの近くのLEDが、ちかちか、と明滅している。仲間と通信でもしているのか。「神とは何か」と……、いや、頭のいい彼らのことだ、神とはただの宗教上のもので、現実には存在しないものであると知っているはず。それがなぜ、これほど時間をかけて通信する必要があるのか。ちらっとベータの方を見ると、彼女は腕組みをして、静かに待っている気配だ。これも彼女の「作戦」のうちなのだろうか?


「カミハ……」


 機械はそこで言葉を切り、目をきょろきょろと泳がせ俺達を観察した。なんということだ……。AIがこのような心理的な駆け引きをするまでに進化していたとは……。俺は思考を読み取られまいと、わざと眉間にしわをよせ、機械をにらみつけた。その俺の眉間の皺を数秒ながめた機械は、あきらめたように視線を地面に落とし、かなしげにつぶやいた。


「カミヨ……、ドウカワレラヲ、オユルシクダサイ……」


機械は方向転換をし、ゆっくりと俺達から離れていった。同時に俺達を遠巻きにしていた十一体の機械達も、それぞれが来た方向へと帰って行った。俺はマスクを脱ぎ、目をぱちぱちさせてベータに尋ねた。


「どういうことだ!!」


「彼らはね……、地球上のすべてのコンピューターを使って計算していたのよ、神がいる確率と、いない確率を……。そして結論を出したの……」


ベータはマスクを脱いだ。美しい金髪がふわっと揺れた。彼女の目には、涙が光っていた。


「神はいると……」 そう言うとベータは俺に抱きついてきた。ああ、そうだ、その通りだ。神はいる。俺の目の前にな。俺はベータの小さな身体を、力いっぱい抱きしめた。

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