『ナインス』アブソリュオンニブルヘイム4
「お初にお目にかかるジャンヌ。残念だが俺様を殺しても世界は壊せないぞ」
「その名で呼ぶな! お国のために戦ったのに最後は焼き殺されたんじゃ! その名は昔を思い出す。今のワシはヤミーアッカじゃ! レン。いいからやってしまえ!」
「やってしまえって……というより今こいつ、この世界は破壊できないって言ったじゃん!」
「うむ、それについても調べは付いておる。確かにこいつ一人を殺してもこの異世界は破壊されない。普段こいつは魔王の核を二つに分けてもう一人とシェアをしておるんじゃ。もし自分が死んでももう片方が生きていればこの世界は破壊されない。用意周到なやつじゃ。じゃが今はこいつしか持っていない。もう片方が不安定になりすぎ一時的にこいつだけが所持しておる」
魔王の核って複数で所持する者なのか。
ってかその言い分だと魔王は二人いるってことになるけど……もしかして。
「そう、テレサだ。俺様ほどじゃないがあいつも少しだけバグが混じってる。この世界の住人じゃない、バグとしての存在だ」
「じゃあ、テレサもチートを持ってるのか?」
「いーや。ほんのノイズ程度だから無い。だがそのおかげでデメンジッパーを使えるし、この世界にはありえないドラゴンや機械天使を呼び出せ、核のシェアもできる。つまり貴様は今俺様を殺さなければ、テレサを殺さなきゃ異世界王討伐を達成できないことになるんだ」
俺はこいつのある言葉を思い出した。
テレサは二つの意味で魔王の片割れである。
一つはハゲタカがゲン・ゲンを使うから魔王のような強さを持つハゲタカの姉だからだと思ったけど、その言葉はそのまんまの意味だった。
俺の異世界王討伐は最初から大切な人を殺さなきゃならなかったんだ。
「だから俺様は今のうちに殺れと言ってるんだ。そうしないとテレサを殺さなきゃならなくなるんだぞ。ほれ、やれ」
「ッ! な、何なんだよ! 引っ張んな! お前は魔王なんだろ! この世界を破壊させないために前の魔王を殺して魔王になったんだろ!? なのに何で俺に殺させようとしてるんだよ!」
「言っただろう。貴様には俺様を殺す権利がある……それに俺様は貴様が気に入った。少しの間でもテレサに楽しい時間を提供してくれた。それだけで十分だ。それともこの機を逃し、テレサを殺さなきゃいけないって意識に苛まれながら過ごすか?」
ずるり、と耳の中に這って入るように囁いてくる。
「何を躊躇しておる! 転生に関しては上が何か言って来たらワシが何とかしてやるから遠慮なくやってしまえ!」
俺は……自分のコンプレックスを捨て去りたくて異世界に来た。
でも魔王を倒したらテレサ達異世界人達はみんな死ぬ。
そんなのどうせ転生するんだから関係ないじゃないか。
自分の願望ためだけにこの世界を殺すのか。
どうせバグの世界だから無くなってもいいじゃないか。
テレサを取り戻すために戦ったじゃないか。
俺の脳内にいくつもの考えが巡り巡る。
「う、うぅ……!」
「「やってしまえ!」」
「うォああああああああああああああああああああああああ!」




