『ファースト』ポーションケミカラー5
「殺された……え? 殺された!? じゃあ魔王は滅びたってこと?」
「いんや。二十年前にクーデターが起きてね。当時の魔王はそのまま失脚そして処刑。クーデターを起こした張本人による新しい魔王の誕生ってわけ」
死神の説明とは違うけど、新しい魔王がこの世界の新しい核として君臨しているってことか。
「いや、魔王がいる以上倒せばいいんだ。俺は魔王を倒す」
「君みたいな子は近づけもしないと思うけどね。それに魔王を倒すって考え自体が二十年遅いし」
「遅いって、んなわけないだろう。だって、魔王討伐だぜ?」
「今は魔族と人間は和平協定を結んでるから、魔王を討伐しようとしてる異世界人はテロリストとして扱われてるのよ」
「テロリストって、何言ってんだよ。魔王って悪の権化だろ? 人に仇なす悪魔の王だろ?」
「悪魔じゃなくて魔族の王よ。悪い人間を悪人って言うように悪い魔族を悪魔って呼ぶの。確かに昔は人間と魔族は戦争してたし、異世界人の持つ特殊な力が役に立つってことで国は異世界人を迎合してた」
だから俺たちのいた世界の存在が知れ渡っているのか。
「だけど新しい魔王の最初の仕事は人間との和平の提案だった。それこそ提案に応じなければ全戦力を投入して人間を滅ぼすって宣言したり、反親人派の魔族を次々と粛正するほど和平に固執してたのよ」
大した人間びいきだけど、やっていることが完全に独裁者じゃないか。
「なんだかんだで和平協定は成立。人間と魔族が手を取り合う時代の到来。ぎくしゃくしながらもわだかまりは解けていって今となっては観光業もあれば資源交換から異文化交流も盛んになってる。まさに新時代の幕開けってわけ」
「ンなるほどぉ。で、魔王を倒しに来た人たちはどうなったの?」
「現存した異世界人は和平を迎合した人以外はほとんど処刑されて他は逃げた。新たに来る異世界人には国が懸賞を設けた。だから異世界人狩りなんてものが一時期流行ってたのよ。ま、簡単に言えばね」
簡単に言えば……なんだというんだ。
ゴクリ、と生唾が喉を通る音が響く。
「魔王討伐をするもんならこの世界の全てから石を投げられるってことよ」
「ふ、ふざけんなー!」
極悪すぎる設定だ。
魔王と人間がお手手つないでスキップしてるってことは実質皆が敵じゃないか。
「く、くぅう……」
「苦悩してるねぇ。命短し悩めよ乙女。んんーぅ。いい言葉ねぇ」
さらさらと頭を撫でられる。
「いや、それでも俺は魔王を倒しに来たんだ。例え全てが敵になろうと……なろうと」
「どうしたの? じっと見てきて」
「ん、んんんんんん~……! 捕まえるなら勝手にしろ! 俺だって黙って捕まるつもりはおぶう」
「だーかーら。君みたいな小さい子を憲兵に突き出すつもりなんてないから。で、どうやって魔王を討伐するつもりなの。文無しくん?」
「離せよ! 魔王退治は二の次だ。まず俺が一番にすべきこと。それは男に戻ることだ。このプニプニした二の腕にだらしない胸の脂肪。ムッキムキの逆三角形の体が恋しいよぉ」
「えぇ? 筋肉が欲しいの? プニプニの方が可愛いじゃーん」
かわいいじゃんの問題以前に筋肉をつけていたのは伊達や酔狂じゃなくて林檎との肉体的な差別化をしたかったから鍛えていたんだ。
「とにかく、俺は男に戻る。それが最優先事項だ」
「そう。がんばんなさい」
「おう、ありがとう。テレサはいい人だな。俺はそういう人好きだぞ。世話になったしそろそろお暇するわ」
脇を通って部屋を出ようとしたら、テレサが俺の肩を掴んでくる。
「なにさテレサ? 他に何か用でもあるの?」
「ここからはちょっと込み入った話をしたいんだけど。君はスタン・トを使って侵入したんだよね。まさか君みたいな子供がそんな骨董品の魔術を使うなんて思ってなかったけど、その際二つの棚を倒れしてくれたよね」
「あ、あれはその……ごめんなさい。追われてたもんで」
「言い訳はいいよ。答えがこれだから」
テレサから紙を手渡される。
数字が書かれてるみたいだ……一、十、百……、




