『エイス』ミシカルモンスターズ5
次の瞬間にブレイヴは部屋の中に突風を巻き起こしながら宙を舞い、ガラスを突き破ってシュトゾンの空を飛ぶ。
一瞬のうちに景色は変わっていき、この速度で行ったなら数時間のうちにブルーステラウェイに強制送還だ。
「このっ、離せ! 離せよクソドラゴン!」
俺は必死に肘鉄などでブレイヴを殴打するけど全くの無反応。
ドラゴンらしくもないつるつるてんのお肌には俺の攻撃なんか通用しないってか。
「だったら、これならどうだ!」
俺はジャングルバッグから適当なポーションを取り出し、それで思いっきり叩く。
軽快な音を立ててポーションは割れるけど全くびくともしない。
だけど俺の目的はポーションを割ること自体にある。
割れたガラスを咥えられて隙間ができている口の中に突っ込み、乱暴にかき乱す。
ガラスは口内を切り裂き、唾液とは違う暖かい液体が腕にかかる。
流石のブレイヴも口の中の防御は甘かったみたいでたまらず口を大きく開け、俺を放り投げた。
「アハハ! ざまぁみたらし団子! やっと解放……」
後先考えてなかった……ここ、空の上だ。
しかも慣性が働いて勢いよく斜め下前方に飛んでる。
これは非常にマズい……この勢いだと落下の衝撃でマジで死ぬ。
何とかスタン・トを使って落下死から逃れることは……、
「そんな都合のいい設定、あるわけねぇだろぉ!?」
一瞬のうちに落下し、体に鋭い痛みが走る。
がさがさがさと葉っぱの掠れる音が耳を通過し、地面に叩き落ちる。
生きてる……どうやら森林部に落ちたおかげで木の枝がクッションになってくれたんだ。
助かった代償に右腕が動かないし、切り傷だらけで所々に木の枝が刺さっているけど。
「いってぇ……! クソ……早くシュトゾンに戻らねぇと」
軋む身体は動かすたびに激痛が走るけど、動かないわけじゃない。
少しずつ上体を起こす。
だけど、木々をなぎ倒しながらブレイヴが森の中を飛んでは目の前に立ちふさがる。
「ケッ……そんなに俺に噛みつきたいのかよ」
『ポーションを飲みなさい』
今、何かが聞こえたって言うか、脳内に直接テレパシーみたいな声が届いた。
「……ブレイヴ?」
『ジャングルバッグの中に入ってるんでしょ。口の中がキレちゃって本当に痛い』
こいつ、意思疎通ができたのか。
言われてするのは釈然としないけど、傷を治す必要もある。
俺はハイポーション二本とエクストラポーション一本を飲み干す。
「結構ダメージ喰らってたな。あとはリモバルポーションを……よし! これで完調だ。あ、礼は言わないぞブレイヴ。お前のせいで怪我したんだからな」
『仕方ないでしょ。君が口の中を乱暴にするからいけないんでしょ。そうでしょー』
「……ドラゴンってもっと粗暴な生き物だと思ってたよ」
『ひどい偏見ね。天原戦争を知ってるなら私のことも知ってるでしょ』
知っていると言うより、こいつは元来お伽噺の住人だ。
天原戦争はこの世界に伝わる天界の支配者と原生生物との闘いを描いたもの。
その中でもドラゴンは原生生物を束ねる知性溢れる存在として語られ、ユーキブレイヴ・ディシジョン・ドラゴンは戦いの先陣を切り、士気を高めるために鼓舞したとされる『勇猛なる意思を持つ竜』と語られていた。
もっともこの世界にはドラゴンは存在なんてしないんだけど。
普通異世界ならドラゴンがいてもおかしくないのになぁ。




