『シックス』トラスパーシングテスタロッサ10
「起きろ。起きんかレン」
ガンガンと揺らされる頭と次第に覚醒しながら開いていくまどろみの景色。
ヤミーに起こされてるのか……朝帰りじゃないか。
「まだ五時じゃないだろ。五時まで寝かせてくれ」
「何を悠長なことを言っておる! 時間は限られておるんじゃ! 体は十分休めたじゃろ! 起きろー!」
無理矢理起こされて早々街中で結婚式に関する情報収集を開始。
俺の役割は聖堂に潜入するための裏口的な道はないかの聞き込み……なんだけど。
「どれだけ聞いても探しても見つかんねぇー! マズい……これは非常にマズいぞぉ」
日が昇り早半日。
テスタロッサと魔界劇団の結婚の話題は街中に広がっていた。
耳を傾けるとビッグニュースだ、歴史が変わると誰もがテレサの事情も知らずに喜びの声を上げている。
どうにも大聖堂に入ることができるのは招待状をもらったやつらだけでそのほとんどが人界、魔界双方の有識者や権力者だ。
警備も風紀取り締まり係が何十人体制で常駐し、街中の巡回もしている。
実際歴史の転換期ともいえる出来事である以上、非常に強固な警備が敷かれるのは当然で潜り込むことは不可能だと思えてくる。
「クソッ。まず入り込めなきゃ始まんねぇ……」
テレサの居場所が把握できてない今、明日の大聖堂が必ずいる場所だ。
何としてでも警備の穴を見つけ出してやる。
「大聖堂に入れる場所を探しているのかい?」
酒場で聞き込みしていたところにお兄さんが声をかけてきた。
聞き耳を立てていたのか、事情を把握して声をかけてきたみたいだ。
「明日、テスタロッサと魔界劇団の結婚式をするんだ。それ以外の日ならいつでも入れるのに、なぜそんなことを聞いて回ってるのかな?」
「理由は……言えないですけどどうしても入らなきゃならないんです。でも招待状もないからこうして聞いて回ってて」
「……もしよかったら教えてあげてもいいけど。来なよ」
お兄さんは手招きをしながら店を出ていく。
来た……追い求めていた大聖堂に入る情報を知っている人物。
この機会を逃すわけにはいかない。
俺は駆け足でお兄さんに着いて行き、たどり着いたのは大聖堂の近くの建物の陰。
「ここが大聖堂への道ですか?」
「ああ、僕だけが知る秘密の入り口があるんだ」
「おぉーそりゃいいですねぇ。まさに俺が望んでる物です!」
「ただ……」
「ただ? 何です、」
軽く肩を押された。
暗がりで誰もいない建物の陰。
人や魔族の行き交う雑多な音は少し聞こえてもそれは一つの塊としか聞こえないほど周り誰もいないこの場所。
お兄さんは俺を壁に追いやった。
「……何のつもりですか?」
「何の報酬も無しなんてありえないだろ? あとは分かるよね?」
「……もしかして道を知ってるっての、嘘なんですか?」
「知っているさ。知っているから、来たんじゃないか」
お兄さんの手が俺の首筋を撫ぜてくる。
くすぐったい……薄皮一枚を撫ぜる様な手つき。
嫌悪感を物質として口から吐き出したくなるほど気持ち悪い。
だけどこれは情報の対価……俺の身体って報酬を求めてくることを簡単に拒んでいいのだろうか。
やっとたどり着いた大聖堂への手がかりをここで振り払って叩きのめして、ふいにしたらもう手がかりが掴めないかもしれない。
我慢さえしたらいいのなら。




