『シックス』トラスパーシングテスタロッサ7
「まず言っておくが、テスタロッサ家は思った以上にこの世界での存在感は大きい。なにせ魔王討伐を成し遂げた一族じゃからのう」
これまた唐突な情報だ。
「討伐って、前の魔王は今の魔王に倒されたんじゃないのですか?」
「そうじゃ。前魔王、ニーブル・コキュートス・ヘルヘイムは今の魔王が当時のテスタロッサ家の当主、ハロルド・ビーネ・テスタロッサ……ハルサと結託し討伐を果たした。ハルサはその時に戦死してしまったが、戦争の終結と人間と魔族の交流はその二人の共闘にから始まったとされテスタロッサ家は人間と魔族を繋ぐ大きなパイプ役となっている」
だからテレサの父親、ボルサは義務だ義務だと何回も言っていたのか。
「では、テレサが連れていかれた理由は何ですか?」
「それは分かってる。結婚するとか何とか言ってたからきっと決められた結婚相手がいるんだ。それが嫌であいつは家出したんだろ」
「正解なんじゃが、今回はかなり特殊な物でのう。世界初。テスタロッサ家による公式発表での魔族と人間との婚約がテレサの役割なんじゃ」
「……魔族と結婚?」
それはつまり、別種族との結婚。
可能なのかどうかは分からないし、倫理的にどうなのかなんてこの世界の常識を問いたいところだけど。
「つまりテレサは未踏の領域の人身御供ってわけか?」
「相手は神じゃない。同じ立ち位置の魔族じゃ。もっともテレサは連中に着いて行ってしまった。あいつも大人じゃ。決めたことに横槍を入れるのもイカンじゃろ」
「そうはいかねぇんだ」
テレサはハゲタカに何かを吹き込まれて着いて行った。
ならそこにテレサの意思は無いし、むしろ連れていかれただ。
そして何より、その大人が親に帰って来いと言われて俺たちを置いて行ったってのが一番納得がいかないんだ。
「今から準備するぞ。店にあるポーションをかき集めるんだ」
「待て。式は二日後でここから馬車で行っても三日はかかるんじゃぞ」
「オーバーしてるじゃないか。もっと早く起こせ……いや、それについてはいい考えがある。アニーチカ。とにかくポーションをかき集めろ」
「かき集めたって全部なんて持っていけんじゃろ……ちょっと待っておれ」
ヤミーアッカが持ってきたのは三つのバッグはテレサが持っているジャングルバッグを小さくしたようなものだった。
俺はバッグの一つに手を突っ込むと別のバッグの口から俺の手が飛び出した。
「ワシら三人のために新たに作られたジャングルバッグじゃ。祭りが終わった後に渡すつもりだったらしい。これがあればいろいろと頑張れるだろうと言っておったわ」
「テレサの……形見みたいなものですね」
「死んだみたいに言うなや! よし、こん中にありったけのポーションを詰めろ!」
一時解散し店中にあるポーション、体力回復や補助のできるポーションを中心にバッグの中に放り込んでいく。
「これもこれもこれも……あと」
ポーションを詰める最中、俺はとある部屋に置いてあるポーションを手に取る。
そこは俺が最初、営業停止に追い込んだ店舗でヴァルハライズの扉からデメンジッパーによって繋がっている別の建物にある裏の店。
裏のポーションは危険なものもあるって言ってほとんど教えてもらっていない。
身長を伸ばすなんて魅力的なものから呪いを授けるなんてものもあるらしい。
兎に角高価な物から希少な物、危険なものが置いてあるこの店舗から教えてもらったやつで一つ、ストレートにわかりやすくて使えるポーションを手に取った。
「やめておけレン。それは人を削る」
「だからこそ手に取ってんだよ。テスタロッサはやべーんだろ? 覚悟無しに突っかかるつもりなんてない」
それをジャングルバッグに詰め込み、軒並みポーションを入れ終え、街の正門前に立つ。




