『フィフス』ウインドガードナー15
「さぁレン! 旅に出ようぞ! 心配するな! ワシがおぬしを導いてやろうぞ!」
朝食の場で席にもつかずに目を輝かせて旅に行こうとせがむヤミーの姿。
昨日のテレサの言葉で俺の考えは決まっていた。
「まだ行かないさ。行ったところで勝てないのなんて見えてる。前にも言ったけどまずは男に戻ることが最優先だ。それからいろいろ学んで、魔王に挑めるくらい強くなってから旅に出る。そう決めた」
「何を悠長なことを言っておる! もしかしたら次の瞬間にこの世界がなくなるかもしれんのじゃぞ!」
「それは無い無い。しばらくここでの暮らしを続けるって決めたんだ。それに祭りの初日のテレサとの約束。お前も聞いてただろ」
その言葉に口を尖らせながらヤミーは渋々と食い下がる。
「さぁ。今日も一日頑張りましょ」
「そのことなんだけどさ。テレサは四日間ずっと出張店で店番してたよな。今日は俺たちが店番をするから、祭りを回ってきてもいいぞ」
祭りの初日に三人で話し合ってテレサの自由時間を作ろうって決めたことだ。
「祭りを楽しんできてください」
「……いや、一人で祭りを回って何が楽しいの?」
正論を吐かれた。
「で、でもせっかくの祭りなんだしテレサも、」
「ワシが一人で店番をしよう。ワシは二人とは違って中身は大人じゃ。店番くらいできる」
横を向いてぶすっとしているヤミーがそう言う。
「いや、君一人で店を任せるのはビジュアル的に無理なのよ」
「じゃあ僕も一緒に残ります。テレサはレンと一緒に祭りを楽しんでください」
次から次へと名乗り出てくる。
「テレサと一緒に回りたいって言ってたじゃないか。だったら俺が残る」
「レンは最近テレサと関わりが少ないって愚痴ってたじゃないですか。今回は譲りますからテレサと一緒に行っていいですよ」
アニーチカはそう提案してくる。
「君たち、私の意見を度外視して話を進めてるけど……君たちが私のためを思ってしてくれてるのは分かった。ありがたく祭りを回らせてもらうよ」
テレサは俺の手に肩を置く。
「でも半日だけでいい。店主が店頭にいないと格好がつかないからね。半日だけ、私に付き合ってねレン」
「あ、ああ! 一緒に回ろう!」
祭りの最終日に俺はテレサと祭りを回る。
昨日のアニーチカの本音とテレサの話でこれからどうするか何となく定まった気がする。
祭りの間に色々なことがあったけど、今は最高に晴れやかな気持ちだ。
天原戦争公演祭の最終日が始まる。




