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シャッフルハード  作者: 成神全吾
娯楽祭編
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『フィフス』ウインドガードナー14

 空気をぶち壊すとまではいかないけど、急に何を言い出すんだこいつは。


「年下の分際でませたこと言ってんじゃねーよ」

「本当です。アナタに助けられ、手を引かれた時から多大な恩を感じています。力があって、誰かのために本気で怒ることができるレンをとてもカッコいいと思います」


 恥ずかしいセリフをべらべらとしゃべって、こいつの意図は何なんだ。


「シンゴロウに傷つけられた時、アナタは黙ってられないと強大な相手でも臆さず向かっていきました。本当に嬉しかったです」

「そりゃ……! 弱い相手にイキったらカッコ悪いだろ」

「それがカッコいいんです。僕は林檎なんて人は知りません。アナタが男だろうと女だろうと、姉と同じ顔だろうと僕は最果煉瓦と言う人間しか知らないんです。僕は目の前にいるアナタが好きなんです」


 身を乗り出して俺の手を握ってくる。

 下から覗き込んでくるその無垢なチャーム……本当にこいつは俺の年下なのか。


「だ、騙されない。ガキの分際でそんなスケコマシなセリフを吐けるはずがない! 愛してるなら証拠見せろよ証拠!」

「証拠ですか……」


 アニーチカは俺を抱き寄せて顔を近づけてきた。


「ちょーい! 何しようとしてんだテメェ!」

「愛してる証拠って言えばこれが一番かと」

「だからってちゅーしようってアホだろ! 俺初めてだし、女だぞ!」

「僕も初めてだから大丈夫です。それにいつも男だーって言ってるじゃないです、かっ!」


 俺は引っ張られ、そして両手首を掴まれたままソファに押し倒される。


「力つよっ! お前、ア・フルン使ってんのか!? こんなんでチートを使うな!」

「使ってませんよ。ならアナタもスタン・トを使って逃げてもいいんですよ。使う気がないから、受け入れているからこうやって僕に抑え込まれてるんじゃないですか」

「ま、待って! こ、こういうのは好きな人同士じゃないとダメなんだぞ! 自分を大切にしろよ!」

「だからこそ、したいんですよ。アナタは嫌なんですか?」

「嫌とかじゃなくて……」


 何とかならないのかと周りを見たら部屋の隅に開いたジッパーがあった。

 あいつ、覗いてやがる。


「テレサー! 出歯亀働かせてるなら助けろ! 助けてー!」

「アニーチカ。暴走ストップ」


 ジッパーから手を伸ばしてアニーチカを止めてくれる。


「本当は見ていたいけど、レンも泣いてるし一回やめなさい」


 泣いてないし。


「離してください。愛している証拠を見せつけてやるんです。僕の熱いキスで」

「わぁーちょー見たい。でも無理矢理は愛を感じないからダメ。それにそんなことしなくても本音をぶつければいいじゃない」


 テレサの言葉にアニーチカは力を抜いて俺から離れる。


「旅に出るなら僕も一緒に行きます。だけど、その途中で誰かにやられたりしたり、万が一でも魔王を倒してしまえばその時点で僕たちは離れ離れになってしまいます。僕はまだテレサとヤミーと……アナタと一緒にいたいんです」


 また身を乗り出して、本音をぶつけてくる。

 今思えば俺はこいつを助けてこの店に連れてきてからの二週間、ずっと一緒だった。

 異世界に来てからはテレサよりアニーチカと一緒にいた時間の方が多いくらいだ。

 同じ転生してこの世界に来た身として、同じくらいの年齢で、俺自身こいつを親友だって宣言もした。

 特別感を抱かれてもおかしくないし、俺自身抱いていないと言ったらウソになる。


「俺は……魔王を倒しに来たんだ! そんな、一緒にいたいってのを聞き入れて現状に満足なんかできるわけないだろ!」

「でも魔王を倒せる強さがないじゃないですか」

「それは……強くなってだな!」

「強くなったら旅に出たらいいんじゃないの?」


 テレサが割って入ってくる。


「あのアメッカスだって三十年かけても魔王を倒せなかったんだからゆっくり時間をかけても大丈夫だよ。それに男に戻りたいんでしょ?」

「それは……確かに最優先すべきは男に戻ることだけど」

「まだここに来て三週間なのよ。どこに何があるかどころか常識だって全然わかってないじゃない。この街でゆっくり学べばいい。強くなりたいなら協力する。旅に出たいなら私は笑顔で送り出してあげる。でも旅に出るのはこの世界を敵に回してもいいくらい強くなってからでいいんじゃない?」


 アニーチカとは違い、興奮した俺を優しく諭してくる。


「君たち二人には未来がある。使命感を持ってるのもいい。でも辛くなったらいつでも私を頼ればいい。全部受け止めてあげる。私は君たちの……お姉さんなんだから」


 テレサは俺たち二人の手を優しく握る。

 テレサの慈愛溢れる優しい言葉に女の状態が嫌だとか、魔王を倒すって考えに縛られていた俺は……俺は。


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