『フィフス』ウインドガードナー13
「どうしたんですかレン。こんな時間まで起きてるなんて珍しい」
「……そっちこそ。お子様にはちと厳しい時間なんじゃないか」
静かな夜中のリビング、アニーチカが隣に座る。
「帰って来てからずっと元気がないみたいですけど、そんなにヤバかったんですか?」
「……アニーチカは今でも魔王を倒そうって思ってる?」
「思ってないです」
即答された。
「お前ニューヨーカーになりたいんじゃなかったのか?」
「今が幸せですし。転生して今の記憶を引き継ぐなんて保証もないんですよ。何よりへたに手を出してアメッカスみたいな末路なんて辿りたくないですし」
確かに見てしまった……異世界王討伐のために頑張った結果、皆の敵となって倒された悲惨な末路を。
「そうかもしれないけど……俺はどうしても転生で設定したいことがあるんだ」
「以前秘密とか言ってましたね」
「俺は……重度のシスコンなんだよ。もちろん姉が病的に好きとかじゃねーぞ」
言葉の通り姉にコンプレックスを抱いている。
俺は勉強も運動も出来て、林檎は勉強も運動もイマイチでどこかしらどんくさかったけど、いつもみんなに囲まれて俺より周りに愛されていた。
俺はそれに嫉妬した挙句、両親のとある言葉にとどめを刺された。
「なんて言われたんですか?」
「どうせ同じ顔なら二人とも女の子の方がよかったって言われた。姉と同一視されるのが嫌だったのに親に女の方がよかったって言われたせいで前に言った通り俺は荒れに荒れて、けつ毛ソルジャーなんてイカした名前で不良をやってた」
「イカしてるんでしょうか?」
ヤミーに殺された時はふざけるなと思った反面、異世界を破壊したら即座にこの忌々しい顔とおさらばできると思った。
その結果、姉自身になってしまったのは笑い事ではないけど。
「俺は転生に願うんだ。もう一度、一卵性の男女の双子として生まれて、姉以上に愛される存在になるって。そうすることでこの劣等感を拭い去ることができる……やっと林檎の呪縛から解かれるんだよ! だから俺は魔王を倒したいんだ」
「それは大層な信念をお持ちで。それはつまりテレサや街の人たちを殺す覚悟があるってことですか?」
テレサに散々言われてきて、ずっと目を背けてきたその言葉を真正面から突き付けられる。
異世界を破壊すると言うことはテレサ達や街の皆の消滅を意味する。
俺の願いを叶えるためには皆を殺さなくてはならないんだ。
「そ、それは……」
「異世界を破壊しても転生で記憶がなくなれば罪の記憶もないですよねぇ。でも魔王討伐のために親しかった皆の敵となって石を投げられる覚悟はありますか?」
「……うるさい」
「第一テレサどころかシンゴロウにも負けてる時点で魔王の下に行きつく前に他の誰かにやられてしまいますよ。それこそ今日知り合った風紀取り締まり係のハゲタカに、」
「うるせー!」
正論をズバズバと突き付けられ、思わず声を荒げる。
「お前に俺の気持ちがわかるか! 姉と同じ顔で男。男らしく振る舞ってもそう見てもらえず、みんなから奇異な目で見られる。そのくせ姉より愛されたいなんて承認欲求の塊を持って。自分でも嫌気の差す女の腐ったうじうじしたようなしみったれたコンプレックスを抱き続ける劣等感をお前は分かるのか!」
感情をむき出しに、女々しく言葉にして吐き出す。
「わかってんだよ。魔王を倒すなんて今の俺には無理なことくらい。だけど口にしてないと林檎自身になったこの状況を受け入れることになる……そんなの嫌だァ」
年下に自身の弱さを曝け出すのは何とも無様だろう。
涙さえ出て、真っ赤な顔を隠す様に下を向いて、恥ずかしくて死にたくなる。
「レン……」
「なんだよ。憐れに思えよ。女々しい俺に同情なんていらねぇよ」
「僕はアナタを愛していますよ」
「……は?」




