『フィフス』ウインドガードナー5
「はぁいそこのお兄さん。これどうぞ。そこのお人ー。ぜひ祭り中にヴァルハライズに寄ってください。祭り期間中だけ売っているポーションもありますよ。これ、割引券を使えばさらにお得です」
愛嬌全振りで順調も順調に割引券と宣伝をし続ける。
ちょっと笑顔で接すれば男は喜んで受け取ってくれるからちょろいもんだ。
「ヴァルハライズをよろしく、よろしくおねがいします……お? リリリー! 祭りを回ってんの!?」
「レンちゃんオッスー。ルルルにお使い頼まれててその帰り。随分とがんばってるみたいね」
「おうよ。あ、ルルルさんにウチの割引券渡しといて。話はもうつけてあるからさ」
「りょーかい。アニーチカとヤミーちゃんにもよろしく言っといてねー」
祭りの最中、俺はああやっていろんな人の助けを借りながら割引券を配布している。
この街に来て、出会った関わりを最大限に活用している。
「どーぞー。どぞー」
「やぁそこのお嬢さん。俺にも一つもらえないかな」
「はい、どうぞ。お兄さんは観光できたんですか?」
「いんや、出し物側として参加してるんだ。割引拳か……あと何枚かもらえない?」
「すみません。お一人様一枚で渡しているので」
「えー。俺友達と来てるんだ。友達の分……って言ってもここにはいないし、ちょっと一緒に来てくれないかな。向こうで出し物の準備してると思うから」
俺は二つ返事でお兄さんと一緒に仕事をしながら友達の所へと向かう。
「この奥に備品とか置いてるんだよ」
「路地裏ですか。こんなところで出し物とかあるんですか?」
「うん。こういう路地には若者が集まる出し物がたくさんあってね。行こう」
奥へ奥へと進んでいくけど、どうにも嫌な予感がする。
「ただいま~」
「お、戻ってきたか」
「いい娘釣れたー?」
吹き溜まりのような場所に何ともガラの悪い男が数人たむろっていた。
「うん。カワイイ娘が来てくれたよ」
「ど、どうも。ヴァルハライズの最果煉瓦です。これ、割引券を、」
「ままま、腰おろして。これでも飲んでゆっくりしようよ」
「あの、仕事がありますので。ちょ、やめて下さい。分かりました。飲みますから。飲んだらすぐに仕事に戻りますんで」
強引にジュースを飲むように勧められ、面倒なので一気に飲み干して急いで仕事に戻ろうと思ったんだけど……体が、熱い。
「あれ? おかしいな。なんだか、変な気分に……」
「どうしたの? だったらここに座りなよ。とっても楽な気持ちになれるよ」
火照りが身体を包み、全てを委ねたくなるような解放感が心に広がっていく。
座りたい……何かに、身体を預けたい。
「さぁ、座って……!」
お兄さんにされるがまま、俺は差し出された座椅子に腰掛けようとする……のを拒否し試供品のポーションをかっ込むように飲み干した。
「どうしたの? さぁ、身体を楽にして」
「ドラァアアアアアア!」
どてっぱらに全力で踏み込んだ一撃を叩きこみ、男はぼろ雑巾のように地面に転がった。
「こん、こかかかききご……! て、テンッ! てんっ……めぇ! 何か盛りやがったな! うぷっ! 俺を……! 騙したのかっ!」
いや、これは異世界に来た初日と全く同じで見知らぬ人を完全に信用して着いて行った俺が馬鹿だったんだ。
ポーションで中和したけど試供品だから効果も薄い。
意識が朦朧とするせいでイマイチ正常な判断もできない。
男たちはどうする、そのまま手籠めにするかと危なっかしいことを相談している。
逃げるべきか……それとも人数は多いけど異世界人狩りの連中と違ってただのチンピラだし真正面からでも叩き潰せるか。
頭がくらくらして今にも倒れてしまいそうだけど、こうなったら応戦してやると高を括った直後にそれは空から降ってきた。




