『サード』インディペンデンスリーパー1
「今日も今日とて仕事~♪ 明日も明後日も強制労働~♪ ふふ~♪」
「その歌やめて下さい。僕まで悲しくなります」
アニーチカが来て一週間、つまりは俺が異世界に来て二週間が過ぎた今日この頃。
俺は外回りの仕事を任されアニーチカと二人で街を練り歩いていた。
「さすがに……この服で歩くのは慣れませんね」
「この街にゃバトラー服で出歩く奴なんかいないからな。目立つもんな」
と言っても街行く人たちは結構個性的な恰好をしている。
ファンタジーチックな異世界だけど、世界観に見合わないデザインのものはこの街には多数ある。
それはこの街が異世界産業で発展した地であるため異世界人から多くの技術の伝来を受けているからだ。
目を配ればまるで繁華街の看板みたいなものがあれば、さっと横を通る自転車も全部俺たちの世界から渡ってきた文化らしい。
おかげで異世界に来た気分が阻害される場面も多くて仕方がない。
「それでも俺のフリフリのエプロンドレス。エプドレ。エプドレよりマシさ」
「かわいい女の子にかわいい恰好なんて普通のことじゃないですか。どこにも悪い点なんてありませんよ」
「かわいい女の子だとォ!? 貴様ぁ! かわいいじゃなくてカッコいいだろぉ!? 何を持ってカッコいいって言葉が先に出てこないのか理解に苦しむね」
「よぉレンちゃん。今日もカッコイイねぇ」
露店のおっちゃんに声を掛けられる。
「ありがとうおっちゃん! 今日は忙しいから無理だけど、また買いに行くから~。な、街の人たちはみんな俺をカッコいいって言ってくれるぜ」
「どっからどう見ても建前じゃないですか。そんなお世辞に満足してるんですか」
「ぶっちゃけかわいい言われるのは許せるんだよ。だって俺……中身は超絶イケメンだけど、外面は超絶かわい子ちゃんだからな」
元から姉の顔且つ、今となっては林檎そのものの体なので紛れもない事実だ。
アニーチカがどん引こうともこれは純然たる事実。
「女って間違われんのもブチギレて声を荒げるけど、林檎の体である以上仕方なし。ただし、姉の林檎と間違われることだけはゼッテーに許さねぇ。言葉には気を付けろよ」
「アナタの姉なんて知りませんよ」
軽口をたたき合いながらの外回り。
異世界に来て二週間が経った今、少しだけ外回りを任されるようになっていた。
店で売られているだけでなく、テレサの作っているポーションは他の店にも提供されている。
精肉店の片隅に、フルーツショップの付け合わせに、武器屋の抱き合わせにと様々な店と提携を結んでいる。
外回りとはそう言った店に出向き、提供しているポーションの売れ筋や今後提供するポーションの新作について相談と言ったものだ。
「今日お前を連れてきたのは営業先の人たちに顔を覚えてもらうためだ。テレサはお前が外回りを担当することは無いって言ってたけど、かと言って知らなくてもいいってわけでもないからな」
「異世界に来て営業って……僕、十二歳なんですけど」
「俺だって十四歳だよ! 異世界の社会のマナーすらほとんど知らねーよ! だけど俺はお前と違ってテレサに借金があるから色々しなきゃいけないんだ」
この歳で社会に出る苦労を味合うなんて嫌になっちゃうけど、とりあえず目的である店舗に到着。
「こんにちはー。ヴァルハライズから来ました最果煉瓦です」
「ん? あら、レンちゃん。いらっしゃい。いつもリリリがお世話になって悪いね」
出迎えてくれたのは栗毛色の長い髪のお姉さんだ。
リリリの働いている薬草店の店長でもある。
「いえ、こちらこそ。アニーチカ。こちらはエンファル・ルールジャック、通称ルルルさん」
「ど、どうも。アニーシャ・アヴェリナです」
「あれー? リリリから聞いてたけど、本当にカッコイイねぇ。よろしくね」
「はい、こちらこそ。お、おっきい……」
手を取り合ってあいさつと行ったところだけど、アニーチカの視線がどうにも下向きと言うか、目線の先は大きな胸を指している。
失礼だろうという意味合いで脇腹を肘でどつく。
「ぐほっ! 何するんですか?」
「鼻の下伸ばしてデレデレしてるんじゃない。今日は提供しているポーションについての話をしたいのですが」
「うん。そのことで前新しく仕入れたポーションなんだけど……」
あまり売れ行きがよくないから別のポーションにしてほしい、だったら新しいポーションがあるのでそちらはどうか、売れているポーションの年齢層はどのようなものか、ポーションの提供品種を増やすか減らすか、お互いに情報を交換し合う。
「んー、じゃあ今度からそれでお願いするね」
「はい。テレサにもそう伝えておきます。本日は貴重なお時間を割いていただいて、ありがとうございました。商品はまた届けますので」
俺は深々と頭を下げ、横をちらりと見るとアニーチカもつられて頭を下げていた。
よーし、一件目終わりー。




