『ゼロ』ディファレントディメンジョン2
少しの間、放心しながら今自分の置かれた状況を何とか理解しようとする。
自分の中の信じられない心を何とか言い聞かせてこたつでくつろぐ死神と面を向う。
「今すぐ生き返らせろ。それが無理なら殴らせろ」
「どうぞ」
頬を出してきたので思いっきり殴ってやったけど、見えない壁が張られているようでいくら殴っても全く堪えていなかった。
「残念でしたねぇ。私はそんな攻撃、天術で簡単に防げます」
「このアバズレがぁ。なんで俺なの? 異世界に行くのは死んだ人なんだろ? 俺生きてるんだけど」
「異世界に行ける権利を持つ人はそれなりにいるんですけど、その中でも優秀な人が来るかどうかは運なので、こちらとしては優秀な魂を持つ人に来てもらうことに必死なんです」
「……つまり、魂の重い人を探して殺すことで優秀な人材を異世界に送り出すってこと?」
「多くの人はせいぜい一、二グラム多いのが関の山なんですけどその点アナタは通常より十グラムも重いんです。大いなる活躍を期待できますね!」
「頭がいい人でも仕事で成功するってわけじゃないんだぞ」
「でも書類上で優秀な人はそれだけでほしい人材です」
だからってこんな異世界徴兵は理不尽過ぎるだろう。
魂が重いから優秀って理屈は分かんないけど、優れているって言われるのは正直悪い気はしないし、だからこそ俺をスカウトしに来たと思うと多少なりとも嬉しい気はする。
まあ殺されるとは思わなかったし、今すぐにでも叩き潰したいけど。
「ちなみに、その王に挑戦するって何?」
「お、やる気が出ましたか? その前に貴方は二つの選択肢があります」
一つは俗に言う天国に行くことらしい。
死んだ人間は全て天国と呼ばれる場所に行き、そこで次なる人間に転生をするためのエネルギーを溜める仕事をするとのことで労働期間は最低でも百年だとか。
そしてもう一つが、
「異世界王討伐。日々増え続ける異世界の核を成すのはその世界に君臨する王。アナタにその討伐を願いたいのです」
「まさか異世界転生ならぬ異世界徴兵をさせられる羽目になるとは」
天国に行って百年労働は勘弁したいし、どっちを選んでもブラック企業に勤める気分だ。
衣食住完備なら百年労働の方がマシかもしれない。
「何言ってるんですか。異世界王討伐を達成してくれた人にはきちんと報酬は出ますし、サポートもあります」
「サポート? 何? ナビでもしてくれんの?」
「無一文で異世界に放り出されるのも酷ですから、異世界に応じた『チート』を付与しているんです」
チートを付与と言う言葉に俺の心は沸きあがった。
「そんなもんいらん! チートなんてドーピングだろ? 己が肉体のみを信じることこそ、覇道であり王道。いらん付加価値などナンセンスだ!」
「どうでもイイ見栄っ張りですねぇ。ちなみにチートがないと異世界には行けませんよ」
異世界への切符替わりにチートとかいらないお世話。
「ちなみに報酬ってのは?」
「転生と言うのは次の生がどうなるかは全く分からない。だけど王を討伐していただいた方のみ、百年の労働の免除及び『転生の設定』を行うことができます」
「転生の設定?」
「異世界の難易度によって異なりますが、スポーツ万能の子として生を受けたいや、豪運の持ち主になりたいなどある程度決めることができるんですよ。あるんじゃないですか? どんなふうに転生したいかって」
転生の設定ってつまり異世界をクリアしたらイケメンになる事も金持ちになる事もできるってことか。
だとしたら俺も……。
「どうしますか? 天国に行きますか? それとも、王に挑戦しますか?」
「不幸もここまで極まるか……百年労働はごめんだ。やってやるよ。異世界王討伐」
俺の言葉に呼応するように部屋中が跳と炎などの様々な一文字が表示されているディスプレイで埋め尽くされる。
「オッケーです! それでは異世界王討伐の説明をします。内容は至ってシンプル。いくつもある異世界の一つを選んで王を倒す。ただそれだけです。倒す方法は世界によって違うので頑張ってください」
頑張ってくださいってそんなアバウトな。
「最低限の注意としては異世界を破壊しに来たと口にしないこと。笑われるか敵に回られるかの二択ですから」
「最低限じゃなくて最大限の注意をしろよ」
とりあえず片っ端から目を通すけど、選ぶならどこにしようか。
この森王とかターザンに成れってことかよ。
「えっと、じゃあこの跳王ってやつを、」
「ちなみに私のおすすめはこれです!」
死神が勢いよく提示してきたディスプレイに表示されている文字は……魔の一文字。
魔王を討伐しろってことか。
テレビゲームそのもので何の面白味もない。




