『セカンド』ドリフターチルドレン2
「はぁ!? じゃあ何しに来たんですか? 笑いに来たんですか? いきなり襲われたんですよ! 何ですかこの異世界は!」
「どうしようもない気持ちはわかる。俺だって助けが無きゃ異世界人狩りに遭ってた」
助けたくてもこっちも借金背負った居候の身だし、テレサに紹介もできない。
「僕はどうしたらいいんでしょうか」
「そればっかりは……ん? ヤバい! 逃げるぞ!」
俺はついこいつの手を引いて走り出す。
「なんですか、いきなり!」
「足音だよ! 異世界人狩りの連中の足音は静かな裏路地では良く聞こえる!」
「ちょ、ちょっと待ってください。そんなに走ったら……げほっ。もうダメ」
「へたれ込むな! 体力無いな本当に! デカいのはナリだけか! 早く立て! さもないとあぁ……追いつかれた! でもまだ前が空いてる! 走れ早く!」
「待って、うぷっ。吐きそう」
「このへっぽこぉ! こうなったら俺一人だけでも逃げる! うわぁ前にも! クソォ! ならスタン・トフープで……オラァー! 痛い! 壁抜けできない!」
「何、ボケてんですかオエッ。挟まれてますけどウッ!」
「お前はさっきからオエオエ言ってんじゃない!」
何とかして逃げる手立てを見つけないと。
「待ってください。僕が何とかします。女の子に危険なことはさせません……ウェ!」
言っていることはカッコイイんだけど、言葉を発するたびに吐きそうになっているせいで何とも締まらない。
ふらつきながらも構える。
男たちは実際に骨を何人か折られているせいか意外にも躊躇していた。
「隙を作ります。その隙に逃げてください……ア・フルン!」
バッと手を突き出したけど何も起こらない。
「あれ? ア・フルン。ア・フルン! 何で発動しないんですか!? あの死神、チートとか言っておいて欠陥品を掴ませたんじゃ!?」
チートが発動しないことに困惑してるみたいだけど、俺だけじゃなかったんだな。
男たちも何も起こらないことを悟ったのかじりじりとにじり寄ってくる。
「やべぇくっそ。こうなったら置いてある煉瓦を投げつけてやる」
死なない程度に投げつけて隙を作れば道は開ける……はず。
「待ってくださいウオェ! 僕があっちの剣を持つ男に突っ込みます。その隙に横から逃げてくださいウプッ」
「お前、自己犠牲で俺を助けようってのか?」
「女の子をこんな危険な目に遭わせたせめてもの報いです。大丈夫。僕が守りますから」
腰を落として飛びかかる機会を伺う。
怖いのか震えているけど、俺を守ろうとするその姿勢。
「カッコイイ。カッコイイじゃないか。気に入ったよお前。守ってくれるって言うんなら、俺も助けてやる! オラァー!」
煉瓦を一つ勢いよく投げつける。
剣の男は腕で防いだがそんなものはガードにならない。
「さらにもう一発!」
崩れたところに今一度煉瓦を投げつけ今度こそ男の額に直撃する。
「うわぁ乱暴」
「よし行くぞ! 走れ! 走れー!」
倒れている男の横を走り抜ける。
あとは入り組んだ路地を走り抜けるだけ。
「ま、待ってください……もうダメ」
「だぁー! もうちょっと根性見せろ! 捕まるぞ!」
へたれ込んでいたら逃げられるものも逃げられなくなるのにこいつと来たら。
「僕のことは気にしないでください。アナタだけでも逃げてください。僕が……オエッ! 僕が追っ手を引き付けますから」
「ズッキューン! カッコイイ台詞! 一回でも言ってみたい! だけど、ここで見捨てる選択肢は俺には無い!」
へたれ込む腰を持ち上げ、そのまま肩に担ぐ。
「な、何してるんですか! 下ろしてください!」
「心配すんな! こう見えて俺はベンチプレス百四十を持ち上げる! お前は軽いからこれくらい平気だ!」
樹形図を描くように路地を右へと左へと縦横無尽に駆け回る。
問題があるとすれば、どこが出口かわからないことだ。
「クッソ! 川に落ちた方が早いかな」
「さっきの人が追いかけて来ますよ!」
「大丈夫だ! 俺は百メートル中学記録保持者! 簡単には追いつかれない!」
より力強く、前に進めと足に発破をかけるけど、やっぱりどこを走ってるかわからないから終わりが見えない。




