第21話 第2編 科学と夢 07:やるべきこと
「転」のメインその1です。この話と次話は、前置き無しでどうぞ!
第21話 文字数:7815文字
竜兵は、急いで自宅に戻った。
誰かに見られる前に急いで変身を解除し、集まってきた人たちには暴漢に襲われたとだけ伝えて、できるだけ早くその場から離れた。
確か今日のこの時間は、春海が家にいるはずだ。
自分の部屋に勢いよく入ると、春海とチーターたちが一斉に竜兵の方を向いた。
「おかえり、龍くん。どうしたの?」
少し焦っている竜兵の雰囲気を、春海は感じ取ったようだ。
「2つ、倉山学院と改造人間に関わる報告がある」
1つ目は、昼間に雪子や井出口と電話で話したこと。2つ目は、帰り道に倉山学院の生徒が明らかに改造人間といえる姿で竜兵に襲い掛かり、その後に空を飛んで逃亡したこと。
「そういう話なら、私からも龍くんに報告があるわ」
春海は、新聞の切り抜きやインターネットで見つけた文章をまとめて印刷した紙の資料を、ポンとベッドの上に置いた。
手に取って読んでみると、それはある2件の凶悪事件に関するニュースだった。
1件目は、山梨で起きた強盗殺人事件。事件当初は全国ニュースにもなった事件で、資産家の老夫婦が自宅で殺害され、600万円近い現金が強奪された事件。
2件目は、株式市場の相場操作が云々……という竜兵にはよくわからない経済犯罪だ。
「この2つの事件、どっちも倉山学院のOBが、事件の近くに存在するの。距離的、時間的にね」
今は個人情報がインターネットにいくらでも転がっている時代である。そこでかなりの情報が得られ、足りない一部の情報のみを、警察関係者や倉山学院関係者のコンピュータから抜き出したという。
「そして今日、竜くんが雪子ちゃんから聞いた情報と、直接目で見た情報がある。色々な証拠をまとめた上での私なりの結論……1点目は、倉山学院が、改造人間の開発と生産の場になっている可能性が高いこと。もう1点は、倉山学院の生徒や出身者が、現に犯罪者となっている可能性があること。最悪、学院の組織的関与が疑われるということ」
春海のその推論に、竜兵は反対できなかった。だが、事実を事実のまま受け入れられるかというと……。
「組織的な関与ってのは、倉山学院が、生徒に強盗や経済犯罪をやらせてるって言いたいのか?」
「そのための改造人間をつくる施設だとしたら、それも想定できるわよね」
春海の言う通り、それは最悪だ。そう言われると、竜兵は秋奈のことが気になって頭から離れなくなる。学院や他の生徒がどうなのかは、はっきり言ってしまえばどうでもいい。今の竜兵の中では他人事である。しかし、もし秋奈が犯罪だったら――そこまで考えられるが、そこで思考が停止してしまう。
(落ち着け……いや、事実から逃げてどうするんだ。俺は自分で思考を止めてるんだ……)
事実から目を背けて逃げる男に、警察との戦いなんて務まらない――そう自分に強く言い聞かせて、竜兵は事実を1つ1つ、言葉にして見ることにした。
「現時点で、この前のボランティアで会った連中が犯罪者でない証拠は、何1つない。1人は、実際に改造人間で、帰宅途中の俺を襲った。理由はわからねえけど、俺以外のやつを標的に襲った前科が無いとは言い切れねえ」
「竜くんが気になるのは、今日一緒に遊んだ女の子?」
春海の問いに、竜兵は静かに頷いた。
「今日俺を襲った男子は、その女子と普段から仲が良さそうなやつだった。だから、彼女が改造人間じゃないかって、余計に心配になるんだよな」
現状、秋奈には両脚が物理的に存在しない。もし改造されているとしたら、どんな能力を持っているのだろう。
「心配? もし、その女子が改造人間だったら、竜くんはどうしたいの?」
「自分でもよくわからねえけど……」
彼女が改造人間だからといって、否定的な見方だけをするつもりはない。かといって、もろ手を挙げて歓迎するつもりにも、なぜかなれない。
秋奈が改造技術により、純粋に幸せを掴んでくれるのなら、竜兵は心の底から歓迎したいと思う。しかし、倉山学院周辺に犯罪の匂いがする今の状況だと、彼女はいっそ完全に無関係でいて欲しい――すなわち倉山学院の中で改造人間と距離を置く人物であってほしいという気持ちもある。
「じゃあ竜くん。もし彼女が、窃盗や殺人などの一般刑法犯だったら、どうするの?」
「そのときは……」
そこから先に言葉が出ない。
もし秋奈も犯罪者だったら、竜兵はどうすべきか。恥ずかしいが、即答できない。
「改造人間で、かつ一般刑法に絡む罪状があれば、警察は間違いなく逮捕を目指すわ。そのとき竜くんは、彼女を手助けする? それとも警察の処置を粛々と見守る?」
そんなもん決まってるだろ――そう即答したかったのだが、今の竜兵にはできない。
犯罪者に手を貸すようなことをしたら、それこそ竜兵たちはテロリストと何も変わらなくなってしまう。竜兵はきっちりと線を引くべきだと、理屈ではわかっている。
だが秋奈が警察に捕まり、強制的に改造前の状態に原状回復させられるとしたら、竜兵は黙ったまま見ていられるだろうか。彼女が改造人間だったとしたら、彼女は失った両脚に代わる機能を、改造によって得た可能性が高い。新たな身体機能を手に入れたときの彼女は、どれほどワクワクし、嬉しい気持ちになっただろうか。逆にその機能を失うと決まったとき、彼女はどれほど落胆し、絶望するのだろうか。
秋奈は言っていた。障害者も健常者並の能力をどうにかして獲得しようとする社会の方が、正しいと思うと。そんな信念を持つ秋奈にとって、改造技術とそれによって得た機能は、彼女自身の全てを支えるものといっても過言ではないだろう。それらを奪われた彼女は、どうなってしまうのだろうか……。
「春海。彼女と話をしたい。倉山学院の生徒が、改造人間として変身する場面を見たこと。他にも、関係者の関与が疑われる犯罪があること。全部話して、その上で彼女の口から真実を聞きたいんだ」
秋奈が知っている事実がどれほどのものなのか――彼女がどれくらい深いレベルで改造人間と関わっているのか、それを知りたかった。
「私も、竜くんのその意見に賛成よ。――ただし、1つだけ条件があるけどね」
「条件?」
「もし、その彼女が本当に改造人間で、かつ一般刑法犯だったら、竜くんは彼女とは徹底的に対立して、必要なら警察の逮捕にも協力すること。これが条件よ」
春海が、今までにない強い口調で主張した。もっとも、春海の主張とは竜兵が頭の中で考えている「やるべきこと」を言葉にしただけのだが、竜兵にはそれがとても困難なことのように感じられた。
「竜くん。私たちの敵は、誰なの?」
「敵っていうか、戦いの相手は警察と自由同盟だと思ってる」
「そう。もし、改造技術を使って他人を傷つける者がいたら、彼らは自由同盟とどこが違うの? 彼らも、私たちの敵じゃないの?」
春海は、特別怒っている素振りは見せない。声も落ち着いている。ただし、落ち着いた声の中には、竜兵の悩む心を震わせる強い力が含まれている。
「私は、中途半端な気持ちでこのまま戦いを続けるのなら、絶対に戦いには勝てないと思うの。これから私たちは、たくさんの相手と色々な戦いを重ねるわ。その戦いの結果――つまり勝ち負けを判断するのは、自分たちではなく相手よ。相手が自身の負けを認めれば、私たちの勝ち。でも、その場で流されるだけの行き当たりばったりの判断しかできない高校生2人を、誰が『勝った』って認めてくれるかしら? 何の筋も通らない――何の筋も通せない子供には負けられないって、警察も自由同盟も思うんじゃない?」
「そりゃそうだけど……」
厳然たる事実。竜兵は何の反論もできない。悔しい。反論ができないことが悔しいのではなく、それほどまでに安っぽくて筋の通らない考えを捨てることができない自分が悔しい。
「竜くんが彼女との接触で行うことは、調査活動。調査活動の目的は、次のアプローチの判断材料を得ること。逆に、次のアプローチに何の影響も与えないことが明白な調査活動は、するべきじゃないわ。竜くんは、事実を調べた上で、何がしたいの? ――竜くん自身の安心のためだけが目的なら、改造人間の件を打ち明けるべきではないわ。もし竜くんが今日、倉山学院の生徒に襲われたことを話して、相手の女の子がそれに関与していたら、2人の人間関係には修復不可能な溝ができるわ。それなら、お互いに何も知らないふりをして、今までと同じデートで済ます方が、よほど合理的よ」
竜兵は、自分がこれからやろうとしていた行動への意識が、あまりにも浅はかだったことを実感する。目的意識も覚悟も中途半端なまま取る行動とは、危険で失敗の可能性が高い愚策でしかないのか。
「悪かった、春海。俺が何も考えられてなかったよ。今日一晩、考えさせてくれ。それで踏ん切りがついたら、彼女に接触する。踏ん切りがつかなかったら、俺は倉山学院の件からは手を引く」
「わかったわ。その判断は、竜くんに任せる」
竜兵は、タンスから着替えを引っ張り出して、風呂場に向かった。
(秋奈が改造人間で、かつ一般刑法の犯罪者だったら……俺は少なくとも、警察が秋奈を逮捕するのを見過ごさなくちゃいけないんだよな)
それは当然だ。犯罪者を庇ったら、春海の言う通り、自由同盟と何ら違いがなくなってしまう。そこまで竜兵は庇うつもりはない。
だがその前の段階、秋奈の事実を確かめるため踏み込んだ話をするのか、それとも知らないまま今までの関係を維持するのか、竜兵は迷って判断がつかない。彼女の抱える真実に迫りたいとの欲求もあれば、彼女が罪人である可能性や警察に身柄を拘束される可能性から目を背けたいという思いもある。仮に事実がどうであれ自分は一切関わりたくない――関わらない方が楽だから――そう主張する声が、頭の中に聞こえる。
つらい。何も事実がはっきりせず、そして自分の取るべき行動も明確になっていない。竜兵は、それこそ濃霧の中でもがき苦しむような心境だ。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、入れ違いに春海が部屋を出て行った。残ったチーターたちとじゃれていると、竜兵は携帯電話に秋奈からメッセージが入っているのを見つけた。
『今日は、わざわざこんな遠くまで来てくれてありがとう。竜兵とたくさんおしゃべりできて、すごく楽しかった! 次は、私が都内に行くね。竜兵にだけ交通費を負担させるのも悪いから』
そのメッセージを見たとき、竜兵の中で何かが吹っ切れた感じがした。
(……そうだ。俺は、会って話をしなきゃいけねえよな。今日までに色々わかった可能性を無視しながらデートしたて、嬉しくもなんともねえよな)
後ろめたさを感じながら、上辺だけの付き合いをするのは簡単だ。でもそんな感情を抱えたまま、秋奈と一緒にいたくはない。本気で憧れた相手だからこそ、相手の事実を受け止めたい。
竜兵は、部屋に戻ってきた春海に自分の意志を伝え、彼女との接触の仕方を共有した。それから竜兵は、メッセージで21時ごろの時刻を指定し、その時間に電話したいとメッセージを送った。1分もしないうちに、秋奈からOKの返事が来た。これでひとまずはOKだ。
それから夕食を食べた後、竜兵は家を出て自転車に乗り、自宅からやや離れたコンビニまで公衆電話を探しに行った。
携帯電話は、警察に盗聴されている可能性が高い。そういう場合は有線の電話を使う。ただ警察も馬鹿ではないので、竜兵たちの行動を予想し近所の公衆電話に盗聴器をかけている可能性も十分考えられる。だから竜兵は、自宅から半径5キロ以上離れたコンビニへと向かった。もちろん、尾行の存在に気を配り、自転車を漕ぎつつ頻繁に後ろを振り向くことも忘れない。
目的のコンビニに到着し、一〇円玉を大量にポケットに入れて電話ボックスに入る。再度後ろを振り返る。尾行らしき存在はない。
一〇円玉を何枚か投入し、秋奈の携帯電話ではなく、倉山学院の代表番号にかける。
21時過ぎの遅い時間にも関わらず、ワンコールで若い女性が応対した。竜兵は、自分の名前を名乗った上で、高校2年の森園秋奈を呼び出してもらうように伝えた。
本日、彼女に大事な連絡をしなければならないのだが、こちらの携帯電話が壊れてしまい、彼女のプライベートの連絡先も喪失してしまったので、やむを得なくこの番号にかけた。自分の名前を彼女に伝えてもらえば、彼女もすぐわかると思う――そう伝えると、応対した女性は素直に電話を回してくれると言ってくれた。
竜兵が、一〇円玉を足しながら待っていると、数分で秋奈が電話に出てきた。
『こんばんは。竜兵? わざわざ公衆電話からかけてくれたの?』
秋奈の明るい声が、受話器から聞こえる。この声を聴くと、なぜか安心してしまう自分がいる。
「ええと、順を追って話すと、まず俺の携帯電話は壊れちゃいない。さっきは女性スタッフに嘘をついたけど、公衆電話からかけた本当の理由は、盗聴を防ぐためだ。俺の携帯電話は、どうも盗聴されてるっぽい」
『えっ、盗聴……? どういうこと?』
「まあ、それも含めて、秋奈と大事な話がしたいんだ。急で悪いが、明日もまた、どこかで俺と会えないか?」
秋奈はよほど重大なことと悟ったのか、できるだけ早く会いたいと言ってきた。そこで竜兵は、朝8時の時間を提示する。場所は、今日と同じく竜兵が倉山学院まで伺おうとしたが、秋奈が今度は自分が都内まで行くと言ったので、竜兵は東京23区に近い中央線沿いの駅を待ち合わせに選んだ。
手短な電話を済ませ、竜兵はコンビニで適当な雑誌とジュースを買って、再び自宅に戻る。
その作業だけ澄ませ、春海の報告した上で、竜兵はすぐにベッドに横になった。
翌日日曜日の朝、竜兵は朝早く家を出発した。不思議がる春海の両親には適当な言い訳をして、落ち着かない足取りで駅に向かった。
春海には、落ち合う場所や目安時刻、大まかなシナリオとスケジュールを共有してある。万が一何かあったときは、春海も遠隔で対応するとのことだ。
目的の郊外の駅に、7時45分に到着した。改札を出ると、すぐに秋奈を見つけた。
「おはよう、秋奈。本当に悪かったな。急にこんな朝早く呼び出しちまって」
「おはよう、竜兵。ううん。全然大丈夫。早く会いたいって言ったのは、私だしね」
周囲には、秋奈以外の倉山学院関係者はいないようだ。
竜兵は秋奈の車椅子を押し、駅のすぐ近くの自然豊かな公園へと入った。日曜日ということで相当な人混みを予想していたが、まだ時刻が8時半前ということもあり、公園内の人はそう多くない。
その中の緑あふれる広場の一角にベンチがあり、2人はそこに座った。
「早速だが、本題に入ってもいいか?」
竜兵は、今自分がつくれる最も真面目な声で話を始めた。秋奈も、引き締まった表情で頷いた。
「俺がこれから話すことは、もともと秋奈には話すつもりがなかったことだ。つもりがなかったっていうか、話すって選択肢が頭に浮かぶこともなかった。何の関係もないことだからな」
竜兵は、順を追って説明しながら、自分の感情がおかしくぶれたりしていないか常に気にする。今は大丈夫だ。
「だけど、昨日のある出来事で、状況が変わった。昨日俺は、秋奈と別れた後、倉山学院の男子――高校2年の生徒に、歩いてる途中に襲われた」
「えっ……!」
秋奈が、全くの想定外というふうに驚いた。
これは演技ではない――。竜兵は確信した。秋奈には、昨日の竜兵との出来事が伝わっていないようだ。
「襲われたって……、怪我とかしなかった? 大丈夫なの?」
みるみる深刻そうな顔つきになっていく秋奈。秋奈は、「襲われた」ということがどれほど危険な事態なのかを、知っているのだろう。
「俺は怪我1つしてないから大丈夫だ。1対1だったし、暴漢を撃退できた」
「うそ……」
秋奈の、信じられないと言いたそうな顔は、彼女が例の事実を知っていることを示している。
「その暴漢ってのが、ひどく変わったやつだったから、今日、秋奈と話をしたいと思ったんだ。秋奈は、改造人間って存在を、知ってるか?」
竜兵の問いに、秋奈は一瞬だが硬直した。
事実やそれに関する単語を1つずつ小出しにして、彼女が知っているのか、いないのかを探っていく。これはその第一段階だ。
「……知ってるのか」
秋奈は、無言で頷いた。彼女の視線が一瞬泳いだが、すぐに竜兵の目を見つめてきた。
「竜兵は、どうして改造人間を知っているの?」
「何週間か前に、都内のデパートが改造人間に襲撃された事件があった。そのとき俺は偶然にも、改造人間が実在することを知った」
竜兵の説明に、秋奈も頷いた。彼女も、その事件で改造人間が関わっていたことを知っているようだ。
「昨日俺を襲ったのは、ボランティア実習のときにもいた、片村ってやつだった」
「片村くんが! どうして!」
「理由はわからねえ。片村は、いきなり空から降りてきて、俺の名前を呼んで確認した瞬間、殴りかかってきた」
秋奈は、片村の行動を、本当に今の今まで知らなかったらしい。完全に慌てる秋奈の姿が、竜兵には少し痛々しく見えた。
「片村は、俺を殺すつもりで襲ったんだろう。最初の攻撃も、その後の攻撃も、普通の人間がくらえば内臓破裂を起こすレベルの威力だった。だけど片村には、1つ誤算があった。片村は俺を完全な一般人、素人だと思い込んで襲い掛かったが、残念ながら俺は違う」
「違うって……?」
秋奈も、竜兵が何者なのかを知りたいらしい。改造人間に襲われても怪我1つしなかった竜兵の正体を。
「俺は、生体兵器なんだ。改造された人間じゃない。人間とは全く別の生き物として命を授かった、生体兵器だ」
秋奈は、生まれてから最も大きな衝撃を受けましたというように、少し身を仰け反らせて驚いた。やさしげな彼女の表情に、何か触れてはいけないものに触れたような、相当な気まずさが映っている。
「生体兵器って、動物を素体にした改造生物よね? 私も、イヌやトラみたいな肉食動物をベースにしたバイオ兵器を見たことがあるけれど、バイオロイドが本当に存在するなんて知らなかった……」
「俺も、この前まで知らなかったよ」
竜兵は苦笑してみせながら、話を続けた。
「俺が『変身』して見せたら、片村はビビって空を飛んで逃げて行った。それで俺は事なき事を得たわけだが、同時に疑問が沸いた。倉山学院っていう全寮制の学校の生徒が、改造人間だったんだからな。倉山学院は、週末は原則自由に外出できるけど、親の都合とか介助員の都合とかで、頻繁には外出できないんだろ? だから生徒が改造手術を受ける機会は限られてる。しかも今回俺を襲った改造人間は、秋奈と親しい間柄の生徒だ。だから秋奈に訊けば、何か事実を知ってるんじゃないかって思って、今日、秋奈に来てもらった」
そこまで竜兵が言うと、秋奈も気持ちの整理がついたのか、少し落ち着いた表情に戻った。
「そうなんだ。竜兵は、改造人間について色々と詳しいんだね」
「自分が生体兵器だと知ったとき、それに関わる技術情報を色々と調べたからな。――単刀直入に教えて欲しい。改造人間と、倉山学院や秋奈と、どんな関係があるんだ?」
竜兵の問いに、秋奈はいったん下を向いてから、すぐにまた顔を上げて話し始めた。
「わかったわ。全部、教えてあげる。――簡単に言うと、倉山学院は、障害者を超人にするための施設なの」
超人――。秋奈の口からいきなり出た「超人」という単語に、竜兵は心が締め付けられる思いがした。