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第20話 第2編 科学と夢 06:疑惑

ここから、本格的な「転」になると思います。

だんだんと小難しい内容が増えてきて、読む人を選ぶかもしれません。

ここまで付き合ってくれている読者の方々には、感謝いたします。


第19話 文字数:7472文字

 土曜日の午前を射撃訓練に使い、昼食前に井出口を探す。

 雪子は、ここ1週間、井出口の多忙さにより直接報告を上げられていない。あらためてこのタイミングで、今後の方針など話しておきたいと思った。

 課の第一係――庶務担当――の部屋に行く。課長席に、井出口が座っていた。

「お疲れ様です。井出口さん」

「白河か。土曜日なのに、熱心だな。ご苦労様」

「ありがとうございます。すみません、今お時間ありますか?」

「ああ、大丈夫だ。一緒に昼飯でも食べるか。俺のおごりだ」

 そう言って井出口は出前の電話をかけ、雪子に確認も取らないまま、特上のカツ丼定食を2つ注文してしまった。

「あの、特上でなくても大丈夫ですので……」

「いいよいいよ、遠慮するな」

 井出口は立ち上がり、近くの机から椅子を引っ張ってきて、雪子を座らせた。こういう気が利く部分があるからこそ、井出口は部下からも慕われるのだと雪子は思った。

 出前が届くまで、普段の日常に関する報告をする。といっても、報告と言えるほどの内容はない。

「――そうか。いいクラスに入ったな。学校生活には、なじめているのか?」

「はい。問題ありません」

 少なくとも、今の雪子は問題を感じていない。ただ、学校に通うようになった分、警察活動に使える時間が減った。訓練もそれ以外の課業も、より効率よく行う必要が出てきたことが、しいて言う課題だろうか。

「白河は、これからも学校に通いたいか?」

「任務に必要なうちは、通い続けます」

「……そうじゃなくて、俺が訊いてるのは、おまえ自身の気持ちだよ。純粋に三本橋高校に通い続けて、今のクラスメイトたちと一緒に卒業したいと思っているのか?」

 自分の気持ち――雪子自身の考えは、可能な限り卒業したいと思っている。高卒の資格はないよりある方が断然いい。将来の進路にも影響する。クラスメイトどうこうの話はよくわからないが、自分の意思は明確だ。

「はい。そう思っています」

「なら、俺も安心だ。俺にできる範囲で、何とかサポートしていくからな」

「すみません」

 お礼より先に別の言葉が出て、雪子は反射的に頭を下げた。

 井出口には、何から何まで世話になりっぱなしだ。雪子自身の身柄の扱いの改善から始まり、国や警察上層部に様々な名目で雪子の生活全般の費用を支出させている。さらにはメンタルケアや仕事以外での悩みの相談にも乗ってもらっている。本当に、感謝してもし切れない。

「白河がここに来るようになってから、もう半年が経つのか。あれは、衝撃的な出会いだったな」

「はい……」

 井出口は、昨日のことのように、当時の驚きをはっきりと覚えているという。

 そのとき、雪子の携帯電話が鳴った。登録されていない番号だが、番号は捜査資料に載っていたものだ。

「誰からの電話だ?」

「黒山くんです。彼は今日、特別支援学校に通う女子と、西多摩方面に出かけています」

「西多摩の特別支援学校か。その学校の名前、もしかして倉山学院っていう学校か?」

「ええ、そうですが――」

「……まあ、いいや。電話に出てみてくれないか?」

「はい」

 なぜ井出口が、倉山学院を知っているのか――そんな疑問を頭に浮かべながら、雪子は応答ボタンと押した。

「もしもし?」

『白河さんか。『開闢』の黒山竜兵だ。今、1つ訊きたいことがあるんだけど、邪魔にならないか?』

「はい。大丈夫です。あなたの訊きたいこととは、何でしょう?」

 竜兵から雪子自身に電話がかかってくるのはこれが初めてだ。内容は、おそらく改造人間に関連する事柄だろうが、詳細までは全く想像がつかない。

『端的に言うと、俺がボランティアで行った『倉山学院』を対象に、警察が捜査活動してるのかどうかを訊きたいんだ。ついさっきまで、警察車両が施設の玄関に止まってたぞ』

 雪子が返答に窮していると、受話器から漏れた会話を聞いていた井出口が、電話を替わった。今度は雪子が、会話に耳を傾ける。

「警視庁生体兵器テロ対策課の井出口だ。結論から言うと、答えはYESになるが、重要度は高くないと今は見ている」

『おお、あなたか。YESってことは、何の疑いがあるんだ?』

 初耳の情報に、雪子も竜兵と全く同じことを思った。

「まだ具体的な犯罪容疑があるわけじゃない。単なる情報収集の一環として学院側に接触しようとしているだけだ。大した意味はない」

『大した意味はないって言うけど、情報収集の対象になってるってことは、現時点で、それっぽい怪しい気配があるってことでしょ? 改造人間を匂わせる気配がね』

「それは、肯定も否定もできないな」

 苦笑しながら、井出口は返答した。「肯定も否定もしない」と言いつつ、事実上答えを言っているようなものだ。

 一連の井出口のセリフから、雪子は警察が倉山学院を情報収集の対象としていることを初めて知った。

(特別支援学校が、いったい何をしたっていうのでしょう……)

 生体兵器テロ対策課にも、改造人間との関係を疑われる産業界や学会の人物を監視する部署がある。雪子はそちらの部署とはほとんど縁がない。

『俺は今、その学院の生徒と遊んでる最中なんだけど……これからどうすればいい?』

 竜兵は、少し動揺しているようだ。言葉選びが不安定に感じる。

「そのまま自然に、青春を楽しんでくれ。倉山学院は、現段階で容疑のよの字にもかかっちゃいないんだ。ただ、警察情報を施設側に伝えるようなことはしてほしくない。99パーセント無罪の倉山学院側を、不快にさせたくないからね」

『わかった。俺も、あなたと同じ意見だ』

 それからいくつかのやり取りをした上で、井出口は電話を切ろうとした。しかし切る直前に雪子が止め、電話を再び変わってもらう。

「白河、どうした?」

「私も、彼に訊きたいことがあります」

 左手で電話を握り、雪子は頭に浮かんだ内容を、なるべく明快な言葉で述べた。

「黒山くん。あなたに1つ質問です。もし万が一、倉山学院が改造技術を斡旋するような組織だったら、あなたはどうするのですか?」

 傍で井出口が、顔を引きつらせて驚いている。井出口は、なるべく竜兵たちを刺激しないようにと考えているが、雪子は訊かなければならないと思った。もしこの場で、改造人間を拡散させる勢力に肩入れするようなことを匂わせたら、きつく警告すべきだ。

『……今の俺には、答えられねえよ。どうすりゃいいんだろうな?』

 曖昧な返答。彼自身、本当に迷っているのか、本心が別にあるのかまでは読み取れない。

「私も、悩む部分はあります。もしそうなったら、存分に悩んで結論を出してください」

『何だよ、もっとキツい言い方されるかと思ったぜ。――とにかく、いきなり電話して悪かったな。ありがとう』

 竜兵はそこまで言って、電話を切った。

 雪子を見た井出口は、雪子に感心しているようだ。

「最後の言葉、白河なりに考えて言ったのかな?」

井出口に対し、雪子は肯定した。

 本当は、もっとはっきりとクギを刺したかった。「テロリストの仲間となりたくなかったら、答えは明確なはずです」くらいのことを言いそうになったのだが、ぐっと堪えた。

 雪子自身の意見をぶつけるだけでは何の解決にもならないと、井出口や中原にさんざん言われている。だから今は、逆に竜兵に精一杯共感してみせた。敢えて彼自身に考えさせて踏みとどまらせるのが目的だ。その上で彼が道を踏み外したら、実力で叩き伏せる。

「正しいことを『正しい』っていうだけが説得じゃない。向こうも感情を持つ生き物だもんな。――また成長したな、白河」

 また成長したというか、やっと0が1になったと言うべきか……。

「それよりも井出口さん。倉山学院について、状況を教えてください」

「そうだな。――電話じゃ99パーセント無罪だなんて言ったけど、俺も公安部も、倉山学院はクロに近いグレーなんじゃないかと思っている」

 衝撃的な発言に、雪子は自分の耳を疑った。

 先週、都内で1件の強盗傷害事件が起こった。犯人は、被害者たる会社員の20代男性を背後から殴りつけ、財布の入ったカバンを持ってその場から走って逃走した。

 刑事部の捜査の結果、容疑者が浮かび上がってきたが、犯人はどうも倉山学院の生徒らしいとのことだ。しかしその生徒は、下半身と左手が麻痺して全く動かない、重度の障害を持った生徒だったのだ。走って逃走できるはずがない。そこで捜査は難航した。

 これと同じように捜査が行き詰まった事件が、神奈川でも起こっていた。高級住宅街で起こった連続窃盗事件。この容疑者は、なんと先天的に全盲の女性で、倉山学院のOGだという。

 そして最近、1人の倉山学院の職員が、改造技術に関与していそうな要注意リストに載っている人物と、複数回接触していることを突き止めた。

 それぞれの事実と倉山学院が不自然につながることを、警視庁公安部は見逃さなかった。現在は公安部と生体兵器テロ対策課が合同で、倉山学院への情報収集を進めている。

「もっと情報が集まれば、事件と関連付けた家宅捜索もできる。倉山学院は、高校だけで100人近い生徒がいる。うちの戦力だけで足りるかな……」

 雪子の知らないうちに、井出口は倉山学院への家宅捜索と、そこで起こるであろう改造人間との摩擦を既に想定していたのだ。

先ほど雪子が竜兵に質問したことは、「もしも」の話ではなく、もっと現実味のある話だったのだ。

「そういえば、白河。学校ではちゃんと『黒山くん』って呼んでるんだな。変にぎこちない感じになってないか心配だったが、少し安心したよ」

「余計な摩擦を生まないように気を付けています」

「もっと色々と、彼から情報を取ってこられるくらい仲良くなってもいいんだぞ」

「それは……」

 雪子の言葉を遮るかのように、若手の巡査が出前の定食2つを運んできた。井出口は、警務課の部下に事前にお金を渡しておいたのだ。雪子は巡査に礼を述べてから、井出口と一緒に豪華ランチを楽しんだ。

 食べながら、雪子は井出口に尋ねた。

「井出口さん、質問です。黒山竜兵と警察関係者の私が仲良くなることは、警察として決して喜ばしいことではないと思うのですが」

「情報源にしておくとか、何かあったときに利用できるような関係をつくっておくとか、仕事として仲良くなることは、マイナスじゃない。そこら辺の話は、マル暴にいた賢治(けんじ)が詳しいよ」

 賢治――中原賢治巡査部長は、生体兵器テロ対策課に来る前には、暴力団担当の刑事をやっていたと雪子も聞いている。暴力団捜査には情報とコネが不可欠で、その2つを得るためにヤクザとぎりぎりの関係を築いていた話を、中原は雑談の中で雪子に聞かせたことがある。それと同じ話で、竜兵や春海をうまくコントロールするためには、雪子も彼らと浅くない関係を作っておくことが必要だろう。理想的には、「戦って勝つ」のではなく、「戦わずして勝つ」状況を作りたい。

 ただ、どうすれば仕事として仲良くなれるか。人付き合いがうまいとは絶対に言えない雪子にとって、難しい課題だ。

「頑張れよ、白河。あの2人に1番年齢が近くて馴染みやすいのは、白河なんだからな」

 やるしかない。17歳の自分がやるしかいのだ。



 午後いっぱいも、竜兵は秋奈と過ごした。2人で散歩したり、時折道に設置されているベンチで休憩しておしゃべりしたりと、それくらいしかすることがなかったが、竜兵は秋奈と2人で過ごした時間がとても幸せで、代え難いものだと感じた。

『来週も、また来ていいか?』

『うん。来週もまた遊びたいな。でも次は、私が都内まで行くよ』

『迎えに行こうか?』

『それだと、嬉しいな!』

 午後5時ごろに竜兵は、秋奈と倉山学院の門の前で別れた。

 それから今、竜兵は来週に遊ぼうかと思っている地区に来ていた。具体的には立川駅周辺を歩き回っているのだが、ここだと歩道は狭くて人で混雑しており、道も商業施設も窮屈な感じがする。車椅子の秋奈が不便そうだ。どんな場所に行けば、彼女が喜んでくれるだろうか。

(惚れてるよな、俺……)

 昼間、電話で雪子に、もし倉山学院が「クロ」だったら自分はどうするのかと問われた。そのときは、余計な対立を生みたくないので曖昧な答えしかできなかったが、心の中では九割方、方向が決まっている。

 秋奈たちが失った身体機能を回復させることを、竜兵自身は歓迎したい。彼女たちの幸福を、竜兵自身も祝ってやりたい。だからもし、警察が邪魔をするのなら、竜兵は秋奈たちのために戦うつもりでいる。

(やることは決まってるんだ。俺は、春海に『XG-0』を点滴したあの日、誓ったはずだ)

 あの日、科学技術の恩恵を広めたがらない警察の閉鎖的かつ高圧的な態度に、竜兵は憤りを感じた。

それなのに、電話越しの雪子は、意外にも高圧的な態度を引っ込めて、何か意味ありげなことを言っていた。自分で結論を出せと警察側から言われると、何か罠があるのではと疑ってしまう。それも含めて、向こうの作戦なのかもしれないが、とにかく竜兵は妙な居心地の悪さを感じていた。

 ふと竜兵は、自分が駅からやや離れた住宅街のど真ん中を歩いていることに今気づいた。考え事をしていたせいで、駅から直線的に離れる方向に歩くだけだった。本来は駅周辺の商業施設を回って色々な店を見るなのに、これではデートの下見になっていない。

 舌打ちして、来た道を引き返そうとしたそのとき、竜兵は頭上に何かの気配を感じ取った。

 気配のした方を見上げると、人間のような『何か』が空を飛んできて、竜兵の数メートル先のアスファルトの上に両足で降り立った。

 あまりにも急で現実味のない出来事に、竜兵は一瞬、視線と思考が追いつかなかった。竜兵の目の前に降り立ったのは、普通の人間ではない。

 身長は170センチ台前半で、やや細身のすらっとした体格。膝がわずかに隠れる程度の黒い短パンと、同じく黒い半袖Tシャツを着用している。性別は男性だろうが、手足や顔を含めた全身の肌が、ほとんど黒に近い紺色で包まれている。卵形の顔によく似合う黒いミディアムヘア。黒いサングラスと黒いファッションマスクで表情を隠している。彼をひと言で例えるならば、忍者だろう。

 何のために、空から竜兵の前に降りてきたのかわからないが、友好を深めに来たとは思えない。

「黒山……竜兵……だな」

 黒マスクの下から、よく響く男の声が聞こえた。竜兵は無言のまま頷き、肯定する。

 その瞬間、濃紺の男はあり得ないほどの大股の一歩を踏み出して、竜兵に型通りの正拳突きを繰り出してきた。

いきなりの攻撃。竜兵は反射的に相手の拳を両手で受け止めた。しかし、相手の突きには常人とはかけ離れた力が込められており、両手だけでは衝撃を受け止め切れない。そのまま後ろにのけ反り、地面に背中から着地する。

 地面に仰向けに崩れた竜兵を見て、男は次なる攻撃を加えるため、竜兵に覆いかかろうとする。しかし竜兵はそれよりも早く地面の上を横方向に転がり、捕縛を回避しながら姿勢を立て直し、地面から立ち上がって男に向き直った。

 今のスピードとパワーは、間違いなく改造人間のもの――すぐに竜兵は、今起きている事態を理解した。

 自分も変身しようと思ったが、それよりも早く男の次の攻撃が始まった。男は、竜兵の顔を目がけて握った拳を繰り出す。思ったより単純な攻撃。竜兵は、巧みに後ずさりして男の攻撃範囲から逃れつつ、がら空きの下半身に蹴りを一撃与える余裕があった。

 もちろん、通常状態の竜兵の蹴りでは、相手はびくともしない。しかし竜兵の蹴りを膝に受けた男は、少し竜兵を警戒するようになったらしい。男は、竜兵の顔ではなく手足を掴みかかる――やはり単純な動きで。

(この野郎!)

 相手は、竜兵の左腕を掴んだ。しかしほぼ同時に、竜兵は相手の顔に手を伸ばしてサングラスを掴み、強引に顔から引き剥がした。

顔は、人間の身体の中でも敏感な箇所だ。目や耳にかかっているサングラスを引っ張られれば、反射的に顔を守ろうと手足の動作が止まってしまう。男に出来た一瞬の隙に、竜兵は男と間合いを開けた。

 竜兵が引っ張ったサングラスが壊れ、割れたレンズが地面に散乱する。男はそれらを足で踏みつけると、攻撃を止めた。

 その男の目元に、竜兵は見覚えがあった。

「おまえ、確か倉山学院にいた……改造人間だったのか!」

 パッと名前が出てこないが、確かに覚えている。倉山学院で、秋奈と仲良さそうだったイケメンの少年だ。

「……素人だと思って、油断していた」

 その少年――名前は片村だったと思い出す――は、思わずそんなボヤキを口にした。片村は、華奢で小さい竜兵を見て、簡単に叩きのめせる相手だと思っていたのだろう。竜兵が、格闘技で仕込まれた防御と攻撃を見せたことに、片村は戸惑いを隠さない。

 もちろん竜兵は、単なる格闘技の経験者ではない――自分でそれを強く意識したとき、竜兵の体に変化が起こる。

「あっ……!」

 片村が、やや間抜けな声を上げた。目の前の小さな男子が、真っ黒な墨色の怪人へと変身を遂げたことに、さらなる戸惑いを感じている。

 竜兵は、最初に片村が攻撃したときと全く同じ、一歩踏み出しての正拳突きで攻撃を開始する。

 油断していた片村は、最初の竜兵と同じように両手で攻撃を防ぐのに精いっぱいだった。後ろに仰け反りながら衝撃を吸収して、姿勢を立て直す。

 竜兵は、片村が放った仰け反りながらの蹴りで牽制されて、連続攻撃には出られなかった。そこで間ができ、竜兵と片村は改めて向かい合って立ち、互いの外観をまじまじと観察した。

 そのタイミングで、竜兵の耳には、誰かがこちらに駆け寄って来る足音が入ってきた。

 片村も、ぴくりと体が反応する。同じ足音が聞こえたらしい。すると片村は、一流スポーツ選手を遥かに上回る跳躍力で空中にジャンプしたかと思うと、ふくらはぎを中心とする足から強烈な気流を発生させ、グングンと空を昇っていった。

(あいつ、聴覚障害者だよな。あいつが、改造人間だって……?)

 またもや、とんでもない事実に突き当たってしまった。

(秋奈……そういえば、再生治療の研究者になりたいって言ってたっけか)

ボランティア実習のときに彼女のすぐ傍にいた少年が、改造人間だった。では彼女も改造人間なのだろうか。彼女が医学の研究者になりたいと言っていたのは、すなわち改造技術の研究を進めるためなのだろうか。

そんな秋奈に、竜兵自身は何をしてあげられるのだろうか。単なる弱者では全くなさそうな彼女に、自分は何をすべきなのだろうか――。

 竜兵は、変身を解除し、野次馬が集まってきた後も、しばらく呆然と立ち尽くしていた。

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