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第19話 第2編 科学と夢 05:弱者たるもの

19話です。前に「話を転がす」と述べましたが、この話は起承転結の「承」とわずかに「転」の気配を見せる内容になると思います。

引き続き、よろしくお願いします。


それとこの話から、投稿時刻を変えました。今回から、21時に小説を投稿します。

第19話 文字数:7282文字

 竜兵は、今週の土曜も、先週と同じ東京のはずれの駅に降りた。

 午前8時の十数分前。朝特有の心地よい空気を感じながら、竜兵は倉山学院へと歩いて向かう。再度足を運んでみると、自然豊かで心落ち着く、過ごしやすい地域だとあらためて思う。

 倉山学院の門まで回ると、すでに門の外で、秋奈が若い女性介護職員を連れて待っていた。

「おはよう。待たせたみたいで悪かったな」

「おはよう、竜兵。ううん、私が待ちきれなくて出てきただけだから」

 ちょっぴり照れくさそうにそう言ってくれる秋奈に、竜兵は嬉しくなった。

 秋奈は、淡い緑色をした七分袖のブラウスと、デニムのショートパンツを着用している。長い黒髪を後ろで束ねているのも、先週は紺色の曲げゴムだったが、今日はクリーム色のシュシュだ。

 女性職員に見送られ、2人は倉山学院を出発し、近くの小高い丘へと向かった。竜兵が秋奈の乗った車椅子を押しながら、2人で気持ちの良い散歩を始めた。夏の始まりを感じさせる強めの日差しと暖かいそよ風が、2人を包み込む。

「その服、すごく似合うぜ。明るい緑とか黄色とか、秋奈には優しそうな色がぴったりだな」

「本当! ありがとう! そう言ってくれると、すごく嬉しい! 竜兵の、紅色のシャツも似合うよ」

「ありがとう」

 竜兵は、派手な紅色の半袖ポロシャツと、黒い綿のチノパンに白いスニーカーというシンプルな格好をしてきた。

「竜兵の瞳の色って、シャツと同じ色なんだね。体質なの?」

 秋奈は、竜兵の着ているTシャツと同じ色をした瞳について尋ねてきた。

「そう。生まれつき、この瞳の部分にだけメラニンとかの色素が欠けて、血管の色が透けて見えるんだ。ウサギの目が赤いのと同じ理由だ」

 この瞳の色が、生体兵器固有のものかどうかはわからない。例えば雪子は、通常時は普通の日本人と同じダークブラウンの瞳をしているが、変身すると竜兵と同じ紅い色へと変化する。

「秋奈が外出するときは、介助職員といつも一緒なのか?」

「ううん。私は基本的に、外出も1人で自由にしちゃうかな。1人で電車に乗って買い物に行くこともあるし」

「なるほど。最初に俺たちと会ったのも、1人で出かけてたときだったのか」

 車椅子にも関わらず積極的に外出を楽しむ秋奈のバイタリティに、竜兵は素直に感心した。

 丘の上り坂を、竜兵は秋奈の乗った車椅子を押しながら登る。秋奈は申し訳ないと何度も口にしたが、竜兵は気にするなとだけ言って淡々とハンドルを押して歩いた。

 その丘は、周囲の土地から30メートルほど高く、ちょっとした山に見える。地面の多くを木々が覆い、その中をアスファルトで舗装された道路が通るが、一部の斜面では住宅が建てられている。

 そして丘の頂上には、ちょっとした公園があった。ブランコとベンチと水飲み場だけがあるシンプルな公園だが、そこから視界に入る眺めが、とても心を落ち着かせた。

 一番眺めのいい場所で、秋奈の車椅子を固定し安全のためのブレーキをかける。

「結構いい眺めでしょ?」

「ああ。都心じゃ、こういう景色は見られないな」

 視界に入るのは、住宅街と畑。夏が近づき、町は濃い緑色で溢れている。町全体が見渡せるほどの高さだが、東京タワーのような非常に高い場所から見る景色と違い、1つ1つの住宅や畑が鮮明に見え、町の生き生きとした様が目に映る。対象物との絶妙な距離間に、何とも言えない素晴らしさがあった。

「ここはね、私1人だと来られないの。車椅子で坂道を上るのは危ないって、学校の職員さんが許可してくれないから。それに、私1人で車椅子を動かして今の坂を上るのは、さすがにキツいしね。だから今日、竜兵とここに来られて本当にうれしいの」

「そうなのか……」

 秋奈にもできないことがある――。今の東京は、秋奈のような車いす生活者でも、1人で電車に乗って都心に買い物に行くことができたり、街中や建物内の移動も簡単にできるようになっている。しかしそれでも、まだまだ不自由な部分があるのだ。

「同級生に車椅子を押してもらって、来ることはないのか?」

「本当にたまに、あるだけ。倉山学院の生徒は、先週見た通り障害者ばかりだから、私以上に不自由な人も多いわ。頼れるとしたら、せいぜい聾唖の片山くんくらいかしら。こういうと怒られるかもしれないけれど、さすがに全盲の人や知的障害者に車椅子を押してもらうわけにもいかないし」

 先週、竜兵たちに手話を教えてくれた、聴覚障害者のイケメン男子生徒の名前が出た。彼なら比較的体力もありそうだし、介助を頼めるかもしれない。

「前にも言ったかもしれないけど、倉山学院で障害者たちがみんな助け合って美しく暮らしていると竜兵くんが思い込んでいるのなら、それは間違いよ。ほとんどの生徒は、健常者たる職員さんに助けられっぱなし。先週に竜兵くんたちと交流したのは、2年生の中でも『まとも』な順に選ばれた生徒だから」

 秋奈の言葉に、わずかに棘を感じる。彼女は、自分の同級生たちを全肯定する気は全くないようだ。

「倉山学院にも、暗い面があるって言いたいのか? 障害者同士特有の暗い面が」

「そう。聞きたい?」

 竜兵は、曖昧に言葉を濁して会話を止めた。何だか、まだ心の準備ができていない。

 お茶を濁すつもりで、竜兵は話題を変えた。

「不謹慎かもしれないけど、どうして秋奈は、普通の高校じゃなくて、倉山学院に入ったんだ? バリアフリー設備が整った高校なら、今どき私立でも公立でも、そこそこの数がある。それに秋奈は、小学3年から中学卒業まで、普通の公立高校で五体満足の健常者と一緒に生活してたんだろ? 秋奈くらいコミュ力があれば、簡単に周囲に溶け込めるだろうし、学力だって相当なもんだって、あの理事長は話してたぞ。暗い面もある全寮制の倉山学院に、入学した理由を教えてくれないか?」

「そんなに私、コミュ力の塊みたいに見えるかなあ」

 秋奈は少し照れくさそうに笑ってから、理論整然と竜兵に説明し始めた。

「ひと言でいうと、障害者として自立して生きるための術を学ぶため。一般の生徒と触れあることはとても大切だけれど、それだけでは生きていけないわ。倉山学院では生徒に、徹底的に自立の精神と実務を叩きこむの。私なら、車椅子で10kmも延々と走らされたり、車椅子から転げ落とされて、自力で車椅子を立ててそこに這い上がる訓練も積んだわ。だから私は、1人で都心まで外出したりできるの。普通の高校なら、こんな授業はないでしょ?」

 想像以上にハードなカリキュラムがあると知って、竜兵は驚きを隠せなかった。

「もし私がみんなと同じ公立学校に通っていたら、全然違う私になっていたと思う。『障害なんてただの個性。障害者も健常者も同じで、障害を気にする必要なんてない』なんて考え方のまま育っていたら、自分の弱さも、他人に頼りっきりになっている事実も、自覚すらできない完全な弱者のままだったわ」

 弱者のままだった――竜兵の勝手な想像だが、秋奈は公立学校に通っていた中学時代までを振り返りながら今の発言をしているのだろう。

 前にも秋奈は言っていた。健常者と障害者の『平等』など仮想に過ぎないと。

秋奈は『障害者は健常者に劣っている』と『自覚』したからこそ、本気で平等になろうと自立のための努力を重ねたのだ。

「倉山学院にも、普通の学校と同じようにいじめがあるし、障害者同士で特有のカーストもあったりするわ。でも暗い面を考慮しても、私は倉山学院に入学してよかったって思ってる」

「さすがだな」

 竜兵はハンドルから手を放し、後ろからそっと、秋奈の両肩に手を置いた。どちらかというと華奢で、か細い鎖骨が印象的な秋奈の肩。秋奈は少し驚いたように、一瞬だけ肩を動かした。

「だから俺は秋奈のことを、障害とか関係なしで、本気で尊敬できるんだろうな。もし秋奈がただの弱者だったら、同情して助けはするけど、尊敬はしなかったと思う」

「そんな。照れるよお……」

 秋奈は、自身の肩の竜兵の手に、そっと指で触れた。竜兵は、細くて柔らかい彼女の指の感触を手の甲で感じた。

 秋奈の希望で、2人は脇のベンチに座ることにした。竜兵は秋奈をベンチへ移乗させようとしたが、竜兵が車椅子をベンチにぴったりくっつけると、秋奈は膝すらない短い脚で立ち、両手でベンチや竜兵の体を掴んでバランスを取りながら、直接ベンチへと移った。

「ねえ、竜兵。竜兵は、将来の夢ってあるの?」

「俺は……」

 パッと答えが思いつかない。竜兵は、例えば医者になるといったような明確な目標を持たないまま、今まで過ごしてきた。最近では、将来よりも目の前の目標――雪子に勝てるようになることが最大の『夢』だろうか。

「まだ明確にこれって夢があるわけじゃないけど、困ってる人を助けられる仕事をしたいと思ってる。裏方で目立たなくてもいいから、誰かを助けてるって実感できる仕事がいい」

 警察官のような、直接的な仕事でもいい。あるいは、難病の治療法を開発する発明家になるとか、政治家になって発明の成果がきちんと社会に広まる仕組みをつくるとか、そういう仕事なら今の自分は喜んで手伝うと思う。

「秋奈は、再生治療の研究者だっけ?」

「うん。医学部に入って博士号を取って、研究者になりたい。私みたいに生まれつき体の一部分が欠けている人にも、健常者と同じ生活をさせてあげたいって思うの」

 胸が痛む。実際に脚の無い秋奈にこう言われると、竜兵は本当に自分には何もできないのかと、つらくなってしまう。

 改造技術の応用で彼女に両脚を復活させることができるとしたら、この行為も悪なのだろうか。警察は、改造手術を受けた秋奈の身柄を拘束し、強制的に原状回復をさせるのだろうか。

もし警察が、それほどまでに冷酷で残酷だったら、自分は――。

 ふと、ポケットの中の携帯電話が鳴った。春海からの電話だ。

「悪い、秋奈。ちょっと電話してくる」

 秋奈にはベンチで待っていてもらい、竜兵は舗装路を外れて適当な木々の中に紛れ込んだ。

「もしもし、春海か」

『竜くん、今、電話大丈夫? お邪魔だったかしら?』

「いや、大丈夫だ。何かあったのか?」

『急を要するわけではないけれど、一応、報告をと思って電話したの』

 春海は、以前にこちらが集めた自由同盟の関係者の情報を、警視庁の井出口警視にメールで直接送りつけた。その反応が返ってきたのだという。

 井出口からの反応は、一般的な情報提供と同じように処理をするという一文だけの、ごく当たり前のものだった。ただし、春海が自身を見張っている捜査員に直接声をかけて集めた情報を含めて考えると、今後警察側で動きがありそうだというのが春海の予測だ。

「下っ端の捜査員の情報なんて、アテになるのか? 公安警察ってのは、下っ端は完全な情報収集のための駒で、ちゃんとした情報は上層部しか握ってないって話だろ」

『たとえパズルのピース1つでも、情報は情報よ。実は私と竜くんの見張りの体制が、縮小したの。班の人数も減ったし、リーダーの階級も警部補から巡査部長に落ちたわ。私たちの見張りとは別の目的に、人員を割こうとしているのは明らかよ』

「なるほど。それで警察が、自由同盟を弱体化してくれりゃいいんだよな」

 協力者の個別の調査や一斉検挙など、マンパワーの必要な作業は警察にやってもらう。竜兵や春海は、他にやるべきことに時間を使う。警察をうまく使おうというのが春海の考え方だし、竜兵も賛成だ。

「ところで春海、全然話が変わるけど、1つ質問がある。今、春海が解明した技術で、例えば脚1本をまるまる改造パーツとしてつくり上げることって、できたりするか?」

『両脚を欠損した好きな女の子に、脚をプレゼントしたいの?』

 図星を突かれて、竜兵は返答に窮してしまった。春海は少し間を開けてから、問いに答えた。

『答えを言うと、技術的にはたぶんできそうだけれど、リスクがとても高いのが現状よ。まず、私は自分の『XG-0』の技術解明を進めて、結構基礎技術まで解明したつもりよ。どのような情報を『MB細胞』にインプットすれば脚が造られるのか、おおよそ検討がつくわ』

 しれっと、そんなすごいことを言う春海。竜兵の想定以上に現実味のある答えが返ってきた。

『でも、リスクが色々あるわ。まず、技術的なリスク。端的に言うと、改造処置に失敗して彼女が死ぬ可能性も十分あり得るわ。処置で死ぬ確率は……何とも言えないけれど、そうね。今の私が処置をすれば、5割くらいってところかしら』

「5割か……」

『私ができる範囲と現実的な時間の中で、徹底的に安全策を重ねた上で、5割。本当に安全性を評価するのなら、『XG-0』のように莫大な資金と年単位の時間を重ねて、実験を繰り返さないといけないわ』

 そう言えば、清海も実験に失敗して下半身不随になったと聞いている。莫大な資金と年単位の時間を重ねて作った改造パーツでさえ、不具合を起こすことがある。改造処置は、決して安全なものではないと認識させられる。

『さらに、法的政治的なリスク。私たちが彼女を改造人間にすれば、警察は間違いなく私たちを、自由同盟と同じテロ集団として対応するでしょうね』

「そこは問題ない。そうなったら戦うって、俺たちは決めたはずだ」

『そうね。そのリスクに関しては、私もどうこう言うつもりはないわ。残りの問題は、資金的なもの。改造パーツ1つを作り上げるには、結構な設備を使わないといけないの。数百万円単位のお金がいるわよ』

「結局は、金が問題か……」

『そういうこと』

 改造技術に限ったことではなく、普通の医療技術でも当てはまる。

ある難病の画期的な治療法が開発されたとする。けれどもそれは高額な設備を必要とし、治療には莫大なお金がかかる。結果、科学技術の恩恵を受けられるのは、金持ちだけとなる。

日本のように国民皆保険や高額医療費制度をつくればいいという主張もあるが、結局技術に金がかかるのは同じで、解決策にならない。患者が直接金を払うのがアメリカだとしたら、税金を通じて財政赤字を垂れ流しながら払うのが日本だ。

 改造技術も、根本的には同じということか。

 電話を切り、竜兵は再び秋奈のところに戻った。秋奈の隣に座りながら、竜兵は慎重に訊いてみることにした。

「なあ、秋奈。もし本当に、両脚を生やせる治療法があったとしたら、いくらまでお金を出したいと思える?」

 秋奈は、きょとんとした顔で竜兵の瞳を覗き込んだ。突然こんなことを言われたら、誰だって戸惑うだろう。

「そうね……今、具体的な金額を答えるのは難しいけど、一生分のローンを背負ってもいいって思えるかな。どうしたの、竜兵。そういう夢みたいな技術を知ってるの?」

「いや、そういうわけじゃねえけど……」

 そこは曖昧にごまかしておく。とりあえず今は、改造人間について秋奈に話すつもりはない。

 それから2人は、しばらくベンチで座ったまま、たわいもないおしゃべりを続けた。お互いの学校のこと、友達のこと、勉強のこと、それ以外のこと。

 竜兵は、秋奈には車椅子に座ったままでいてもらうより、ベンチのようなところに一緒に座る方が、遥かに落ち着く気がした。車椅子だと、どうしても竜兵が見下ろす形になってしまうが、隣り合って座ると視線がお互い同じ高さとなり、より距離感が近くなる。不思議と竜兵は――そしておそらく秋奈も、この近い距離感を求めている。

「……もう、11時を過ぎたのか」

「いっぱいおしゃべりしたものね」

「どこかで昼飯でも食べようか」

 竜兵の提案に秋奈も賛成した。ベンチから車椅子へ、今度は竜兵の介助により秋奈は移動する。秋奈を抱きかかえるとき、シャンプーのいい匂いが竜兵の鼻をくすぐった。

(最初に彼女を助けるときには、こんな匂いを感じなかったのに。不思議だぜ)

 車椅子のブレーキを解除し、坂を下る。車椅子で坂を下る場合、介助者が下側になって、車椅子を「押す」のではなく「支えつつ引く」ように移動させる。そのルールの通り、竜兵は後ろ向きに歩き始めた。

「竜兵って、本当に肌が綺麗ね。女の子みたい」

「よく、女子からも羨ましがられるよ。脱毛いらずだってな」

「うぶ毛も何も生えてないのね。お手入れはしていないの?」

「特に何も。生まれつき、髪の毛と眉毛とまつ毛以外の体毛が生えない体質みたいでね」

「女の子からしたら、すごくうらやましいんだけど!」

 というような言葉を、竜兵は何度も女子から頂戴した。ただし、下の毛も生えないとなると、正直恥ずかしい部分もある。中学のときは、おかしなあだ名をつけられたこともあった。

 2人で丘を降り、倉山学院の敷地近くまで戻ると、少し変な様子が2人の目に入った。

 倉山学院の門の前に止まる、無機質な灰色のセダン。そして門の前で、2人のスーツ姿の男性と、倉山学院の若い男性職員――歯科医のような白い服を着ている――が、何か会話をしている。友好的な雰囲気ではなさそうだ。

 竜兵は、直感的にセダンの2人組が警察官だと認識した。

「少し、待ちましょう」

 秋奈も、何かを感じ取ったのか、慎重な声で言った。

 竜兵たちが遠くから門の様子をうかがっていると、幸いにも数分後に、2人はセダンに乗って学院から去って行った。

「何だったんだろうな、今のは?」

「さあ。どうしたのかしら……」

 秋奈の視線を追うと、彼女は走り去るセダンをじっと見つめている。

 あのセダンに、秋奈は何か心当たりがあるのだろうか――一瞬そんな疑問が頭に思い浮かんだが、竜兵は無意識にその疑問をかき消していた。

「竜兵、あのね――」

 秋奈が、急にそわそわし始める。

「あの、おトイレに行ってきたいんだけど……」

「了解。じゃあ、校舎まで戻ろうか」

「いいよ。おトイレくらい私1人で行ってくる。それに、本当は部外者が学院の門内に入るには、きちんと申請書を出さないといけないの」

 それで今朝、秋奈は門の外で待っていてくれたのか。

「そうだったのか。わかった。――俺、もう1回電話してくるよ」

 門の中に入る秋奈を見届けてから、竜兵は門から離れ、人のいない畑まで移動してから、携帯電話の通話ボタンを押した。

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