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第15話 第2編 科学と夢 01:ヤバさ

第2章が始まります。今までの話を進めつつ、全く新しい話を絡めたいと思っています。

よろしくお願いします。


第15話 文字数:7696文字

「体育当番、サッカーボール持って来い!」

「へい」

 体育の授業中、今週の体育当番を任されている3人――竜兵と海斗とキムは、体育倉庫にサッカーボール籠を取りに駆け足で向かった。

「なあ、体育当番って名簿順なのに、どうして俺らだけ別枠で3人まとめられたんだ?」

 キムの疑問に、海斗はすかさず答えた。

「仕事を他のやつに任せっぱなしにするやつだけ集めたって担任から聞かされたぞ」

 それに対し、竜兵は異論を述べた。

「それはおまえらだ。俺は、そんな2人をうまくコントロールしろって一緒にされたんだよ」

 これは真実である。海斗とキム――この2人のサボり癖なら、クラス全員はもちろん担任も教科担任も知っている。そして竜兵は、不幸にして、この2人を手懐けられる数少ない人物だと思われている。そんな部分に期待されてはたまらないのだが……。

「それにしても、白河さん。美人で勉強ができる上に、スポーツもできるんだよな」

 海斗がいやらしい目つきで、グラウンドの反対側で体操をしている女子の集団を見つめた。女子の体育は陸上競技だ。

 海斗にキムが同意する。

「すげえよなあ。頭の良さと運動神経は竹石さんと同じだぜ。でも白河さんは、竹石さんとはまた違うタイプの美人だよな」

 海斗やキムや他の男子も同じことを言う。雪子は美人だと。

 確かに雪子は、三つ編みのお下げにしている綺麗な黒髪とか、くっきりとした濃い色の瞳とか、白い肌とか、150センチにも満たない小柄な体格ではあるが全体として整っているプロモーションとか、「美人」を構成する要素には恵まれていると竜兵も思う。

「おい竜兵、どうやって彼女と知り合ったんだ?」

「事情聴取とか、現場検証のときに会う機会が多かったんだ。俺も、あいつが転校してくることは、前日まで知らなかったよ」

 昨日、何の前振りもなしに雪子が三本橋高校に転校してきた。表立ってはテロの影響だと漠然としか説明されていないが、真の目的は竜兵と春海の監視だ。

 転校初日の昨日の放課後、竜兵と春海は、雪子からひと気のない教室に呼び出された。

『警視庁から、あなたたちを見張るようにとの指示があります。滅多なことは起こさないようにお願いします』

『はいはい。余計なお世話だってのに……』

『私は初めましてよね。私は竹石春海。よろしくね、雪子ちゃん』

 春海は、やや大げさなくらいににこりと笑って見せた。竜兵にとっても、またおそらく雪子にとっても、予想外に友好的な態度だ。

 雪子は、どう反応していいか態度を決めかねている。

『竹石春海。あなたが『XG-0』、そして清海さんのクローンですか』

『そう。お姉ちゃんと同じリケジョで、一応は同じ頭脳を持っているつもりだから、これからよろしくね』

『あなたは、これからどうするつもりですか? 黒山竜兵と同じ考えですか?』

『端的に言うと、その通りよ』

 笑顔はそのままに、一方で全く遠慮なく春海は答えた。

『それならば、私とあなたが友好関係を結ぶのは無理でしょう』

『あら、残念ね。せっかく秘密を知っているのだから、仲良くしたいわ。竜くんとも、同じ種の生体兵器として仲良くしてもらえない?』

『私は慣れ合いをしに来たのではないので』

 春海は、弟を紹介するような言い方をしてみたが、雪子は首を横に振った。

竜兵としては、彼女と友好関係を結ぶのは、現時点では無理そうだとわかっていたことだ。特に何の感想もない。

『あなたたち2人に、私から1つお願いがあるのですが、よろしいですか?』

『んー、先に私のお願いを聞いてくれたら、考えてあげるわ』

 再び、回答に詰まる雪子。どうも雪子は、春海にはうまく出られないらしい。

『雪子ちゃんのサンプルの細胞がいくつか欲しいの。竜くんの調査結果と、照合してみたいのよ』

 なかなか大胆な発言だと竜兵は感じた。雪子が返事をしにくいお願いだ。

『あなたは『開闢』について何を知っているのですか?』

 恐る恐るという様子で訊く雪子に、春海は平然と答える。

『私がわかることを羅列していくわ。まず、カーボンナノチューブやセラミックスなど普通の生物には無い素材で身体を構成していること。骨格や筋肉は頑丈で、筋肉は単位面積当たりに発揮できる力が普通の生物の20倍はあること。手足や背中からプラズマを含んだ空気を噴出して空を飛べること。体がバラバラになっても、破片がそれぞれ1つの個体になるほど高い再生力を持つこと。そしてそれらに必要な膨大なエネルギーは、呼吸に依存せず、細胞内のマイクロブラックホールから供給されていること。あとは――』

『おい春海、後半のは俺も聞いてなかったぞ……?』

『ええ。まだ竜くんには話せてなかったわ。原理が複雑だから、まだ細かい部分は私もつかめていないのよ』

 マイクロブラックホールという、完全にSFの世界の言葉に、竜兵は戸惑う他なかった。しかし雪子はもっと戸惑っているようだ。

『この1週間で、そこまで突き止めたのですか?』

『ええ、そうよ。それと、これから私の『XG-0』にも改良を加えていくつもりよ。クローンのお姉ちゃんにできたのなら、私ができてもおかしくはないでしょう?』

 あくまで春海は、自然体のまま振る舞っている。一方で雪子は、相当なプレッシャーを感じているように見えた。ちなみに、竜兵ですら今の春海の発言には驚いている。わずか1週間で、国家プロジェクト級の作品の原理を解き明かし、さらに改良を加える道筋をつけたのだから。

『改造人間や生体兵器の技術にはまだまだ不明な点があるけれど、技術分析や研究の面でも雪子ちゃんとは協力できると思うわ。これから、よろしくね!』

 雪子がその日の最後に見せた表情は、完全に春海を恐れている表情そのものだった。

「竜兵さ、竹石さんと白河さんのどっちがタイプなんだ?」

 サッカーボールの入った車輪付きの籠を、それぞれ1人ずつグラウンドの砂の上を押しながら、戻っていく。そのときに海斗が聞いてきた。

「うーん、どっちもヤバい人間だからな……」

 竜兵は、曖昧な答え方しかできなかった。雪子は言うまでもなく、春海もまた常人とかけ離れた頭脳を持っている。そして2人とも、竜兵からすれば自分をも上回る、ある面では怖い存在だ。どっちが好みの異性に近いかと言われても、なかなか適切な答えが見つからない。

「おまえは、恵まれ過ぎて感覚がおかしくなってるんだよ! ああ、うらやましいぜ!」

 キムは捨て台詞のような言葉を吐いて、やや早足に籠を押して行った。可能なら、昨日の空き教室での場面を2人にも見せてやりたいものだと竜兵は思った。

 ちらりと、竜兵も女子の方を見る。

 春海は人一倍張り切って体操をしている。雪子も雪子で、1人で冷静に体をほぐしているが、時々春海の方に意識が向いているようにも感じられる。

 雪子の性格はあまり賑やかな方ではなく、転校初日の昨日から、どちらかというと1人でいることが多い。その雪子が一番注目している同性は春海のようだ。

(これからどうなるか……いや、どうするかだな)


 転校2日目の今日も、雪子はクラスの注目を集めた。体育では陸上部の春海に次ぐ俊足を披露し、物理や数学の授業でも高いレベルの知識と理解力で周囲を驚かせた。本当に今まで学校に通っていなかったのかと良い意味で疑われながら、雪子はちょっとしたクラスの人気者になった。

 HRが終わった放課後も、雪子はクラスの女子に遊びに誘われている。

「白河さん。今日よかったら、みんなで寄り道していかない?」

「ゆっきーの歓迎会も兼ねてね!」

 教室の後ろにいる雪子とクラスの女子数名。雪子は「ゆっきー」というあだ名に少々戸惑いながら、やんわりと誘いを断った。

「ありがとうございます。でも、ごめんなさい。今日は用事があるので」

 わずかに腰を屈めてクラスメイトたちに挨拶し、雪子は足早に教室を去っていった。その際、ほんの一瞬だが、教室の前方で一部始終を見ていた竜兵に鋭い視線を残していった。竜兵への牽制のつもりだろうか。

 それをまた別の場所から見ていた春海が、やや面白がりながら竜兵の方にやってきた。

「さてと竜くん。私たちも帰りましょうか」

「そうだな。部活の顧問には休むって連絡しとくべきだな」

「何だおまえら、今日は部活いかねーのか?」

 学校から帰ろうとする竜兵と春海を、キムが不思議がった。

「先週の事件の件で、俺らも色々あってな」

 そう、色々――例えば警察と戦うための戦闘訓練とか。

 竜兵と春海は、真っ直ぐ家まで帰り、自分たちの部屋でいつもの通り作戦を練り始めた。

「今日も相変わらず、行きも帰りも尾行がついてたな。ご苦労なことだぜ」

「それがお仕事だから、仕方がないわよ」

 念のため部屋に盗聴器が隠されていないか慎重に調べるが、今のところそれらしいものは発見されていない。この部屋に見知らぬ人物が入れば、子供を含めて6匹いるチーターが追い返すだろうから、警察の諜報部隊が侵入して盗聴器を仕掛けたり何かを盗み出したりすることは難しいだろう。

 もっとも、改造人間や生体兵器という者が存在する今、盗聴のするために古典的な盗聴器が必要とも限らない。外部からレーザー等を使い、この部屋の空気振動を解析して音声化するくらいの技術はあってもよさそうだ。

「そこの計算機にアクセスされた形跡はあったか?」

「オンライン経由で、ばっちりあったわ。これからどうなるか、楽しみねえ」

 春海の机の横には、5台ものデスクトップ型パソコンがある。それは単なる家庭用パソコンではなく、高い演算能力を持つシミュレーション計算用のコンピュータだ。春海は、『XG-0』や『開闢』の調査結果から仮設の理論を立て、それをシミュレーションで確かめていく――のだが、それをこのコンピュータで行っているわけではない。部屋にあるのは、あくまでダミーのデータだ。

 本当のシミュレーションは、春海と竜兵の頭の中で行っている。

 春海が仮定した、改造人間に普遍的に求められる三大能力――身体能力や回復力の他に、情報処理能力が挙げられる。春海の予想通り、『XG-0』と『開闢』の頭脳には高い記憶力と演算力が備わっていた。春海は、自身の頭の中にのみ、調査結果をしまいこんでいる。

コンピュータにあるのは、9割の真実に1割の嘘を混ぜた偽の情報だ。おまけに、データを引き抜いた端末にコンピュータウィルスを仕込む仕組みが加わっている。

 あらためて、春海を見る。

目の前で笑う背の高いお嬢様は、わずか1週間で、技術解明の手法から、情報漏洩を防ぎつつあわよくば警察までもうまく操ろうとする仕組みを整えてしまった。警察にとっては、下手な改造人間よりずっと手強い敵になるだろう。

 竜兵たちは、まず春海の父が経営する病院の地下倉庫に移動した。この病院の地下倉庫には、高校の体育館の半分くらいのスペースがある。ここで、竜兵と春海は先週から格闘訓練を始めた。

 雪子との戦いは、完全に竜兵の負けだった。身体能力だけならぎりぎり互角、格闘技術では遥かに雪子が上回っていた。まずは格闘技術で、彼女と互角に立たなければ勝てない。

そのために竜兵と春海は、懐かしい空手の型の復習を始めると共に、突きや蹴りの動きを見直した。小学生の肉体と、改造人間の肉体で行う空手は感覚が全く違う。小学生の頃の動きをそのまま再現すると、動きに無駄や違和感が残る。それらを1つ1つ改善し、超人に相応しい格闘術を作り上げるのだ。

 それから2人は外に出て、周囲の建物の屋根を伝い、近所の小学校のグラウンドに侵入した。ここでは、先ほどの空手とは別の、空中技を駆使した格闘術を研究する。器械体操と中国武術の動きを思い出し、垂直飛びで5メートルは飛び上がる改造人間の瞬発力とスピードでその動きを表現し、アレンジしていく。

 屋内での格闘技では防御動作と攻撃動作の連続した流れを重視するのに対し、外での格闘術では大胆な回避動作と一撃の重さを重視する。弱点の補強と同時に、長所を伸ばす鍛錬も怠らない。

 それらの訓練が、移動時間を含めて1時間半から長くて2時間。それから2人はさらに別の場所に移動し、今日は適当な民家の屋根の上で、『XG-0』や『開闢』の機能を推定し、強化された知能を使ってシミュレーションする作業を行う。ちなみに明日は、シミュレーションではなく病院の機器を使った実測の日だ。

 2人がベッドで眠りにつくのは午前0時前後。6匹のチーターのうち、子供の4匹は既に丸くなって眠っている。留守番を担っているチーターたちに感謝しながら、竜兵は春海と一緒のベッドに入り、そのまますぐに目を閉じた。

 そして眠る前最後に、自分の気持ちを確認する――気持ちでは雪子に負けたくないし、戦闘技術でも負けたくない、必ず追いつくのだと誓った。


 今日の授業は、いつもの7限に加えて特別に8限目まで組まれている。担当は担任で、次の土曜日を利用した、ボランティアに関する課外授業の事前学習らしい。

 竜兵たち生徒は、事前に複数の行先から5つまで希望を書くアンケートを提出している。今日はその結果が発表される予定だ。

 ちなみに竜兵は、ボランティアの内容などどうでもいいので、家に近い順で現場を選んだ。できるだけ第1希望に近い現場に当たるといいのだが。

「黒山くん」

 竜兵がそんなことを考えていると、隣の席の雪子が突然竜兵を呼んだ。竜兵は驚いて、ひどく緊張した顔で雪子の方を見てしまった。

 濃い色の大きな瞳が2つ、まじまじと竜兵を見つめている。

「あなたは、どの現場を選んだのですか?」

「俺は、第1希望は河川敷のゴミ拾いを選んだけど……」

 すごく、ぎこちない話し方になってしまった。

クラスクラスメートの女子に話しかけられたというより、警察官に呼び止められたような気分だ。この前に本気で殴り合った相手から「黒山くん」なんて呼ばれると、正直言って違和感しかない。

 担任が、クラス全員の行先が表で示されたプリントを配りながら説明した。

「できるだけ、全員が希望通りになるよう考慮した。うちのクラスは、ほとんど全員、第1希望か第2希望になっているはずだ」

 プリントの結果を渡されて、クラス全体がやや賑やかになる。ただ竜兵は、プリントを見て呆然としてしまった。

(何で俺だけ、第5希望なんだよ。海斗とキムと一緒か)

 竜兵は、第2希望までに当てはまらなかった数少ない連中に含まれるようだ。

 行先は、同じ区内の特別支援学校――いわゆる障害者が通う高校だ。そこで障害のある同い年の生徒たちと交流し、何かを得て来いというのが授業の趣旨だ。

 特別支援学校に行くのは、竜兵、海斗、キムの他に女子が2人の合計5人だ。

 早速、竜兵はこの人選を疑問に思った。

ゴミ拾いと違い、竜兵たちが行く現場は色々な意味でデリケートだ。ちょっとしたトラブルが名門三本橋高校に汚名を着せかねない。そういう現場には、海斗やキムではなく、もっと品行方正な人間を送り出すべきではないか。例えば、春海のような学年中の人望を集めるリーダータイプの女子とか、真面目さなら絶対に誰にも負けない、竜兵の隣に座っている警察系女子とか。

ちなみに、春海は河川敷のゴミ拾い。雪子も同じ現場だ。

(で、何にしても俺は、海斗とキムがトラブルを起こさないように見張っておけって言うのかよ……)

 ボランティアの行先ではなく、一緒に行くメンバーに色々な不安を感じながら、竜兵は8限の授業を過ごした。


 帰り道、竜兵は海斗とキムの3人で土曜日について話しながら帰った。

「あーあ。今日は部活が無い日でラッキーだと思ってたら、土曜日に課外授業かよ。めんどくせー。一緒の女子2人も可愛くないし。なあ、海斗?」

「振替休日も何も無いのが痛いな」

 キムと海斗は、学校を出てから不満タラタラである。普段の授業も体育以外にやる気を見せない2人が、休日の課外授業にやる気を出すはずがない。

 もちろん、竜兵だってボランティアにノリノリで参加する人間ではないが、少なくとも変なトラブルは起こさないように、気を抜かず慎重に課外授業をこなそうという意思はある。

「おまえらが調子に乗ったり、逆に手を抜いたりしてトラブル起こさなきゃいいんだけどな」

「そんな心配するなよ。一応、俺もキムも、人間としての常識はあるはずだからさ。――あっ、おい!」

 話の途中で、海斗は3人が信号待ちしている横断歩道の反対側を指さした。

 ちょうど今信号が青になったとき、道路の反対側にいた車椅子の女性が、車道と歩道の段差で車椅子ごと転倒してしまった。周囲には、竜兵たち以外に歩行者はいない。

 すぐに3人は女性に駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「はい……」

 海斗が声をかけると、女性は返事をした。

 頭からアスファルトに倒れこんだが、女性はうまく腕を地面について、頭をぶつけるという最悪の事態は回避していた。

竜兵とキムで転がった車椅子を立ててやる。

「ありがとございます。すみません……」

 地面から体を起こしたその女性を見て、3人は一瞬だけどうやって車椅子に女性を乗せようか迷った。女性には、両脚の大腿骨から下が無い。自分で立ち上がってもらうのは不可能だ。

「キム、車椅子を後ろから押さえてろ。俺が介助するから」

 竜兵は、清海を介助していた場面を思い出した。

 竜兵はひと言断った上で、女性の脇に膝をついてしゃがみ、彼女の片方の脇の下を自分の肩に引っ掛けた。それから両手を彼女の後ろに回し、彼女のお尻のあたりで左右の手をがっちり組んで、両腕に彼女の全体重を乗せる。

 そのまま女性を抱きかかえて立ち上がり、キムがブレーキをかけている車椅子にゆっくりと座らせる。きちんと重心が安定した座り方になっているか入念に確認してから、手を放した。

「ありがとうございました。助かりました」

「いえいえ、お気になさらずに」

 女性は車椅子の上で礼儀正しくお辞儀をした。なぜか反射的に竜兵たち3人も反射的に軽く頭を下げた。

 彼女は、年齢は竜兵たちと同じくらいだと思われる。黒い艶やかな髪を後ろで1つにまとめてポニーテールにしている。白く透明な肌が綺麗で、優しそうな瞳で竜兵や周囲をキョロキョロとしている。

「怪我とか大丈夫ですか?」

 キムが、いつもの様子からは信じられないほど紳士的な声と振る舞いで彼女を心配した。

「はい。運よく大事にはならなかったみたいです」

 少し恥ずかしそうに笑いながら答える女性。すごく人懐っこいタイプの人間だと竜兵は思った。

 優しく人懐っこい可愛さが魅力の彼女だが、竜兵は一方で若干おっちょこちょいなのかなとも思った。彼女が車椅子で降りようとした段差は結構な高さがある。清海を介助した竜兵の経験上、あの段差を介助なしで降りようとするのは危険だと思う。

女性は重ねてお礼を言って、竜兵たちとは別方向へと、車椅子を手で動かしながら去って行った。

「かわいい()だったな。おっぱいも大きかったし」

「竜兵おまえ、体目当てで助けたんだろ? 肩でおっぱいを触ろうとするし、尻に手を回すし」

「おまえらの思考回路と一緒にするなよ」

 そんな一瞬の出会い。竜兵はまさか再び彼女と会う機会があるとは思いもよらなかった。

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