表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/50

第10話 第1編 科学の厄災 10:覚悟の時

この10話で序章の前半が終わったという感じでしょうか。

10話もかけて展開がかなり遅いと作者は感じております。


もっとスピーディーな展開にするよう頑張ります。

みなさんも、引き続きご愛顧よろしくお願いします。


第10話 文字数:7737文字

 車両を乗っ取ってから、かなりの時間が経過した。『XG-0』の点滴は、8割方完了している。順調だ。あとは、科学の力と運、さらに清海の力に賭けるしかない。

 警察側は、まさか竜兵が生体パーツを盗んだとは知るはずはない。ならば、時間稼ぎは簡単にできそうだ。こちらは未成年。銃と爆発物を持っているとはいえ、人質に危害を加えなければ、即刻射殺という手段に警察は出ないだろうと期待する。

 気になるのは、周囲の車両の音だ。いくつかのエンジン音は、さきほどからずっと同じもので、変わらない。真後ろにぴたりとついてくる車両も同じ。

(警察車両が追跡してるのかな。――突入は、まだ早いぞ。俺はまだ、説得に応じる可能性を見せてるんだからな!)

 電話が鳴った。30分ぶりの通話だ。また、井出口からだった。

『少しだけ、喜んでくれ。厚生労働省と経済産業省の了解が取れた。あとは、警察庁の説得だけだ』

 半分だけうまくいく――竜兵を失望させず無茶な行動に走らないよう引き留め、かつ、過度に期待させ反動で絶望させないように、配慮したシナリオに聞こえる。

『もう少しだけ、君に訊きたいことがあるんだが、いいかな?』

「いいですよ。どうぞ」

『君は、幼馴染の春海さんを助けたいから、今回の事件を起こしたんだよな? テロリストみたいに、改造人間や生体兵器の技術を禁止する警察規制の撤廃を目論んでいるわけじゃないんだよね?』

 本当は、違うと言いたい。竜兵の目に、今の警察や他の役所連中は、公益の名の下に救える命を捨てるふざけた連中に見える。やつらの脳みそを、内側からぶっ叩いてやりたいというのが本音だ。しかし、あくまで今は、春海のための時間稼ぎが最優先。ここで本心をぶちまけたら、一般的な触法少年からテロリストへと一気に昇格してしまう。言葉と態度は慎重になる必要がある。

「――違いますよ。今はね。あんたらの規制は、正直理不尽すぎるとは思っているけど、規制を政府ごと倒そうとか、社会を変えようとか、そんなことは思っていません。ただ、あんたらが今以上に堅物で融通の利かない状態を続けるなら、俺はすぐにでも、アンチ警察側になりそうだ」

『わかった。もう15分もあれば終わると思う。ぎりぎりになって、すまなかったな』

「いえ、こちらの無茶を聞いていただいて、ありがとうございます」

 通話を切る。車の充電先に、携帯電話をつなぐ。

「あれ――」

 不意に、2人の看護師が腰を浮かした。

「脈が、血圧が、正常値に戻っています。呼吸も、自力での呼吸を取り戻しました」

「信じられない! もう、人工呼吸器はいらないわね」

「本当か! やったぞ!」

 竜兵は、大袈裟に喜んでみせた。

 看護師が、慎重に人工呼吸器を取り外した。外しても、呼吸は完全に安定している。

 そして数分後。ゆっくりと、春海の瞼が動いた。

「春海、聞こえるか?」

「りゅう……くん」

 すぐに、目がぱっちりと開いた。

「ここ、どこなの?」

 すぐに、いつものハキハキとした声になる。今の今まで昏睡状態だったとは思えない元気がある。

「……わかったわ。救急車ね」

「正解だ。しっかりと、頭が働くようになったんだな!」

 思わず、竜兵は泣きそうになった。目が潤むが、瞬きをして何とか視界を確保する。 

看護師2人は、未だに春海の回復を信じていないようで、口を間抜けにも開けたまま、春海の心電図画面や吊り下げられた点滴パックを眺めている。運転手からも、今にでもこちらを振り向きたいという気持ちが、カーテン越しに伝わる。

「どこか、具合の悪いところはないのか?」

「ううん。もう大丈夫。すっかり元気よ」

 春海は、いつもの明るい笑顔を見せた。生まれてから最も魅力的な笑顔ではないかと、竜兵は思った。

 看護師の判断で、今打っている点滴薬が無くなり次第、点滴の針を抜くことにした。

春海の元気は想像以上のスピードで回復しており、すでに横になるのが嫌になるくらい元気を取り戻したと言う。

「この点滴が終わるまで、横になっててくれ。俺も心配なんだ」

 それからしばらく、看護師が春海の具合を確かめた。どこも異常はない。1時間前にはひん死の状態だったのが嘘のようだと、2人の看護師は口をそろえて言った。

 さらに20分ほど経過した後、看護師の判断で春海の点滴の針も抜かれた。春海は元気よくストレッチャーから起き上がった。

看護師が、主に上半身の包帯を取り、怪我を確認する。さすがに幼馴染の裸を直視できなかったが、竜兵の頭は、すでに逃走について考えていた。

周囲は、警察が取り囲んでいると考えて間違いない。次の懸念は、特殊部隊がいつ突入してくるかだ。

「竜くん!」

 不意に春海が高い声を出した。見ると、春海の上半身がみるみる変色していく。春海は慌てふためくこと以外にできないようだ。

「えっ、えっ……?」

 ほんの数秒で、色白の春海の肌が爽やかな空色に染まった。肘や肩まわりなどは、より丈夫そうな紺色の厚い皮膚で覆われている。それはちょうど、プロテクターを意識してデザインされているのかもしれない。サラサラとしたセミロングヘアも、同じ紺色に変化している。顔も、唇を含めて空色に染まっている。瞳は、まるで青白い炎のような真っ青な色だ。

 春海は、全身が青系の色でまとまった怪人に変身していた。春海は突然変異を起こした自分の身体にただ驚き、2人の看護師は恐れおののいている。

 竜兵は、それがすぐに「変身」だと理解した。

「春海、詳しい説明は後でちゃんとする。ただ、ひと言で説明すると、おまえは改造人間になったんだ。普通の人間と比べ物にならない身体能力を持つ超人だ」

 竜兵は全身に力を入れて、意識の深層から何かを呼び出そうとした。すぐに全身の血の流れが良くなり、血管や筋肉が躍動するような動きを感じる。視覚や聴覚が、徐々に鋭さを増していく。通常とは比べ物にならない情報が、感覚器官を通して脳に入ってくる。

 隣の看護師は、怯えて小さな悲鳴を上げた。当然だろう。すぐ隣で、さらにもう1名が変身し、真っ黒な肌と紅い瞳という不気味な姿となったのだから。

 春海の場合、恐怖というより、むしろ好奇心の対象としてまじまじと竜兵を見ている。

 看護師が怯えている隙に、竜兵は銃を置いて、自分が着ているパジャマのボタンを素早くはずして脱いだ。ボタン外しの作業さえ、改造人間は通常の人間よりずっと素早くできるらしい。

「春海、俺の服を着ろ。下は……ズボンを履いてるから大丈夫だな」

「でも、竜くんのサイズの服だと、少し小さいわ」

 春海は、主に胸囲を窮屈そうにしながら、竜兵の着ていたパジャマの中に何とか自分の上半身を収めた。

「あと靴は、俺のスニーカーを履いてくれ。俺は裸足で逃げる」

 靴のサイズは、竜兵と春海は同じ25センチでちょうどよい。

 春海に靴を渡した竜兵は、リュックからホルスターを取り出し、無理やりズボンに吊り下げる。そしてそこに銃を納め、ポケットの手榴弾を確認する。

「竜くん、それって……」

「この武器については、後で話す。それより、おまえはもう走れるか?」

「うん。でも走るって、これから、どうするの?」

「警察から逃げる。今俺は、武装して看護師を人質にとって、立て籠もってるってことになってるんだ」

「それってどういう――」

 春海の言葉を遮るように、携帯電話が鳴った。

『黒山くん。また進捗があったよ』

「それはどうも。でも、ちょっと待ってください。すぐにかけ直します」

 無理やり通話を切った。春海が回復した以上、もう井出口を相手にする必要は無い。それよりも、一刻も早くここから逃走することだ。

自らの位置情報を漏らさないため、携帯電話の電源を切り、念のために電池を外す。

「春海、車を飛び降りたら、走って俺について来てくれ」

頷く春海。とにかく今は理解するより先に竜兵の言うことを聞こうと思っているらしい。

これで準備はOKだ。

竜兵は、救急車の後ろ扉を蹴り飛ばして開けた。頑丈なはずの扉が勢いよくはずれて飛んでいき、後ろを追跡しているセダンのバンパーに直撃した。

「看護師さん、ごめんなさい! でも、春海に尽くしてくれて、ありがとうございました。――よし!」

 竜兵と春海は、決して徐行速度とは言えない速さの救急車から飛び降り、後ろのセダンのボンネット上に着地した。セダンに乗っている2人組の刑事らしい男たちは、目玉が飛び出すかというほど驚いている。

「小路に逃げ込むぞ!」

 続いてそのセダンからも2人は飛び降り、歩道を横切って狭い路地に駆け込み、そのまま国道から離れていく。

2人は、車以上のスピードで道を駆け抜けた。竜兵だけでなく、春海の身体能力も凄まじい。

「どうだ、春海? 急に足が速くなっただろ?」

「信じられないわ! 私、いったいどうなったの?」

「警察から逃げ切ってから説明する」

 だが、このまま地上を走るだけでは逃げ切れない。先回りをされたら終わりだ。

(そうだ。空だ。あの警察の改造人間は、空を飛べたはず――)

 なぜか竜兵は、自分は空を飛べるような感じがした。そして、だんだんと背中と両脚が熱くなっていく。

 周囲の風圧が乱れ、竜兵の全身に風が集まるような感じがする。

 不意に、走る足が空を切った。しかし、前に進む速度は変わらない。いや、むしろさらに加速している――。

「竜くん、体が浮いてるわ!」

「春海!」

 竜兵は、すぐ後ろを走る春海の手を握った。一瞬、浮力がガクリと落ちるが、それでも竜兵の体は春海と一緒に徐々に高度を上げ、進行方向が前方から前方斜め上に変わった。

風を切り、いつの間にか周囲のビルよりも高いところに体が浮いていた。

竜兵は、宙ぶらりんの状態だった春海の体を引き寄せて、「お姫様抱っこ」の形で体を支えた。

「すごいわ、竜くん! 空も飛べるの?」

 春海も、周囲の建物がどんどん下がっていくことに、驚嘆している。

「しっかり捕まってろよ。今から、警察を振り切って逃げる!」

 竜兵が『XG-0』を手に入れたとき、咄嗟の判断で銃器も一緒に持ち出した。そしてそれは、正解だった。

最初竜兵は、脅迫など考えずそのまま病院から離れようとした。しかし、あの戦闘の中にもし春海がいたらと考えると、とても自分だけでは逃げ出せなかった。さらに、テロリストたちの情報収集能力も心配だった。春海が担ぎ込まれた病院を探して点滴を打ってもらう、というような悠長なやり方だと、すぐに『XG-0』の在り処を探し出されて襲撃を受けるかもしれないと思い、やり方を変えた。

次に竜兵は、改造人間の姿になり、看護師たちを脅迫しようと計画した。しかし、もし自分が改造人間だと警察が知れば、警察はパワードスーツ部隊や例の女改造人間も躊躇なく投入してきたに違いない。場合によっては、人里に下りてきた熊のごとく、人間扱いされぬまま射殺されていた可能性すらある。銃器を持ってきたおかげで、竜兵は通常状態のまま車両の乗務員を脅すことができ、結果的に『改造人間』という切り札を温存することができた。

 不意に、首に腕が回った。

「竜兵の言う通り、しっかり捕まるわ」

「おいおい、首を絞めないよう気をつけろよ? 絞めても死なない可能性があるけどな」

 とにかく、今は落ち着いて2人で話せる場所に行きたい。できるだけ見つかりにくく他人に話を聞かれない場所がいい。

 竜兵は海沿いを南に飛び、神奈川県まで入った。巷では、警視庁と神奈川県警の仲が悪いと噂されている。その噂が本当であることを願うばかりだ。

 神奈川エリアに入ってから内陸に向かい、身を隠せそうな雑木林に着地した。神社を含む自然公園だ。

 雑木林の中を2人でしばらく歩き、腰を降ろせそうな場所を探す。

真っ暗な雑木林の中でベンチを見つけ、2人でそこに座った。

「不思議ね。街灯がほとんどない真っ暗な中なのに、周りが良く見えるわ」

「春海もか。やっぱり改造人間って、色々と強化されてるんだな。……よし! 忘れる前に、1から全部、おまえに話す!」

 ごまかしや回りくどい話は無しに、竜兵は一気に真実を春海に話そうと考えた。春海の表情も、引き締まっていく。

 最初に、春海がどこまでの事を覚えているか、尋ねた。春海は、トイレから出た直後、崩れたコンクリートの下敷きになったところまで、鮮明に覚えていた。

 それからは、今までの流れをかいつまんで春海に説明した。竜兵はテロリストから、改造人間の存在と警察側の対抗策の『XG-0』、それと素体が清海であると聞いたこと。竜兵は改造人間の攻撃を直接受けたが、なぜか生きていること。それから病院で、春海の危篤状態の報告を受けたこと。竜兵が改造人間の高度な技術で春海の治療を求めたが、改造人間の存在自体を禁止する規制法のために、それを使った治療はできないと宣告されたこと。規制法や警察の態度に猛烈な怒りを感じたこと。さらに春海を救うには、姉でありクローン元でもある清海用に造られた生体パーツ『XG-0』を春海に使うことくらいしか竜兵にはできなかったこと。竜兵が自分で『XG-0』を盗み出し、救急車で看護師に点滴を打たせたこと。さらに盗み出す現場で、その場にいた清海がテロリストの攻撃をもろに受け、息を引き取る直前にこの生体パーツを春海のためにと渡されたこと……。

「お姉ちゃんが! 嘘!」

 驚き、急に落ち着きがなくなった春海に、竜兵は話を繰り返した。竜兵自身も、そのことを口に出すのは辛かった。しかし、春海はだんだんと落ち着きを取り戻し、状況を理解してくれた。

「映画みたいな秘密部署があったなんて、信じられないわ。しかも、『生物兵器』じゃなくて『生体兵器』なのね。それに、まさかお姉ちゃんがそこにいたなんて……」

「しかも、生体パーツは、清姉が主導して開発したんだ。そっちの方面だと、相当な実力があったらしい」

 竜兵も春海も知らなかった清海の一面に、2人は驚くこと以外今は何もできない。だが、いつかはそれについてもっと調べて、知るべきだとも思った。

「それと、私がお姉ちゃんのクローンだって話だけど」

「あ、ああ。それも、清姉が前にちらっと言ってたんだ。ごめん、突然こんなことをしゃべって。勢いで全部話したから――」

「ううん。いいの。私も、何となくだけど心当たりがあるから」

 春海曰く、春海自身も、清海と自分が不自然なほど似ていることに、薄々気が付いていたらしい。

「それで私は、『XG-0』っていう改造人間になったってことなの?」

「そうだ。おまえは、植物状態から回復した。『XG-0』の中の治癒機能はうまく起動したんだろうな。他の機能はわからないけど、清姉は、最高傑作だから性能の心配はするなって言ってたぞ」

 春海は、自分の両手や両足を、注意深く観察している。全身が青系の、まさに警察カラーに包まれた、警察らしい改造人間。

 竜兵はついに耐えられなくなり、春海の前に立ち、すぐに土下座した。

「――ごめん! 俺の勝手な判断で、春海を改造人間にした。おまえは事実上、一生改造人間のままだ。おまえに、改造人間の裏の顔を一生背負わせたのは、俺だ」

 井出口は言っていた。『XG-0』の開発段階で、改造人間になりたがる人間が誰もいなかったと。誰もが忌避する改造人間になることを、竜兵は春海に強要した。いくら治療のためとはいえ、これだけは謝っておかなければいけないと、ずっと思っていた。

「竜くん――」

 地面に着いた竜兵の手を、春海が引っ張った。思わず竜兵は頭が上がった。

「さっきから、謝ってばっかり。私は、竜兵に謝られることは何もないわ」

 春海は良く笑うが、今の笑顔は、他者を引っ張るリーダーの器にぴったりの、力強い笑顔だった。竜兵は、春海に手を引かれて、再び春海の右隣りに腰を降ろした。

「竜くんは、いつ改造人間になったの?」

「それが、わからないんだ。生まれてから、病院にだってほとんど行かなかった」

「なら、私たちで色々調べましょうよ。お父さんの病院施設をこっそり使ってね。竜くんだって、自分の能力がどんなものなのか知らないわけでしょ?」

 こうも積極的な発言をしてくれる春海に、竜兵は何とお礼を言ったらいいかわからなかった。いきなり改造人間になったと告げられても、文句1つ言わなかった。

(むしろ俺が、自分が改造人間だったことを気にしてる……)

「そういえば竜くん、今日はこれからどうするの?」

「警察から逃げ切ろうなんて思っちゃいないよ。今は、着物と履物すら不足してるんだ。っと、俺たちの自宅や春海のとこの病院に、警察官が張り込んでると思う。武器は、出迎えた捜査員に引き渡す」

「自首っていうか、任意出頭するの?」

 春海の目を見据えながら、竜兵は迷った。自分が、法に触れる行為をしたことは間違いない。ただ、春海が改造人間になった今、春海までもが無条件に逮捕されるのは許せない。竜兵はともかく、春海は大けがの状態から目覚めただけの被害者だ。そのうえ、もし逮捕されたら、春海の改造を解除する処置が施されることも考えられる。そうなったとき、春海はまた植物状態に逆戻りになってしまうのだろうか。

(ひど過ぎてあり得ない話だけど、可能性が無いわけじゃないんだ)

 今日の経験を通して、竜兵は完全に警察に対して不信感を持っている。

(もしそうなったら、俺は、春海を守る。役所や警察と対立しても……)

「ねえ、竜くん。もし、私みたいに治療のために改造人間になって、警察に追われている人を見つけたら、どうしてあげたい?」

 春海の真剣な眼差しは、竜兵の考えていることを見透かしているのだろうか。

「俺は、その人を守りたい。治療のために改造人間になるのは、正当な行為だ。救える命を見捨てるお上のやり方には、俺は従えない」

 はっきりと、自分の考えを口に出してみると、すっきりした。

「警察は、俺だけじゃなく、間違いなく春海も捕まえに来る。でも俺は、おまえの自由を奪うやつらがいたら、絶対に許さない」

「私も戦うわ。竜くんだけに、負担を押し付けるわけにはいかないもん。私も、竜兵も守る。私以外に仕方なく改造人間になった人がいたら、私かその人のために何とか尽くしてあげたい。竜兵もそう思うでしょ?」

「春海……おまえはいいのか? 俺はもう、銃刀法を筆頭に罪状があるから開き直れるけど、おまえは誰かに直接危害を加えたわけじゃねえ。規制当局と交渉の余地がある」

「私だけ見逃されても、嬉しくないわ。実際に、見逃してもらえる手段はいくらでもあると思うの。私の生体パーツを狙っていたテロリストと協力する、竜兵と私の改造人間2人がテロリストになるって突きつければ、警察は私たちを無下には扱えなくなる。でも、竜兵はテロリストの仲間になりたいわけじゃないんでしょう?」

「冗談じゃない! あいつらは、春海を殺しかけた殺人犯だ!」

 それだけは、絶対にしたくない。いくらなんでも、やつらの手段はやり過ぎだと、竜兵は強い拒否感を覚える。

「なら、私たち2人で戦いましょう。テロリストにも規制当局にも屈しない、私たちだけの意志で」

 春海の視線は、この上なく本気だ。竜兵も、ついに決意を固めた。

「……俺も戦う! 俺たち以外にも、技術と規制の間で苦しむ人がいるかもしれない。いや、きっといる。みんなを助けよう!」

 竜兵は、春海の右手を握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ