北方3国
ライオン王国北部に隣接する、サイ王国、チーター王国、ハイエナ王国の3国に、バッファロー王国から再三の使者が訪れていた。狙いは当然、ライオン王国の挟撃な訳だが、これが全く上手くいっていない。理由はいくつかある。バッファロー王国の国力は衰退の一途を辿っており、本当にライオンを挟撃ができるのか? それから、バッファロー達の姿勢にも問題がある。窮地に陥っているにもかかわらず、他国に対して強硬な姿勢を崩していないからだ。この日も、ハイエナ王国にはバッファロー王国からの使者が訪れていた。
「ブルチ様、バッファロー王国の使者が参っております」
「うむ、通せ」
「はっ。ベアリウモス殿、中へ」大柄のバッファローが、ハイエナ国王ブルチの待つ謁見の間へ入る。
「失礼致します! お初にお目にかかります、バッファロー王国元帥ギュリフス配下、ベアリウモスで御座います」挨拶をして頭を下げる。頭を下げても尚、周りのハイエナ達よりも高い位置から言葉を発する事になる。この事も含め、ハイエナ達にとって、バッファロー王国からのこれまでの使者は非常に不愉快な存在であった。バッファローの本音は自国滅亡の危機を救って欲しいはずだ。にも関わらず、使者の話す内容は決まって、ハイエナ国にとって千載一遇のチャンスだ! そんな話ばかりで、自国の窮地を救って下さいという話は出て来ない。バッファローお断り! と、門前払いをしたいところだが、国王ブルチはそれを許さない。
「おぉそうか。ギュリフス殿はお元気かな?」
「はい。つつがなくお過ごしで御座います」
「ほう、つつがなくか。それは良かった。彼とは古い付き合いでな」
「ギュリフスからも聞いております。自らお伺い出来ぬことを詫びておられました」
「分かっておる。ギュリフスもそう簡単に国外へは出られんだろう。ましてやここに来るにはライオン国を通過せねばならん。リスクが高すぎる」
「恐れ入ります」
「で、ベアリウモス殿、今日は何の話かな?」互いに一瞬鋭い目つきに変わる。
「今日参りましたのは他でも御座いません。ライオン国への共闘の盟約を結びに参りました。我が国からのこれまでの使者が説明した通り、この盟約は貴国ににとって非常に有益なものであります。又、同時にチーター王国、サイ王国にも共闘を呼びかけております。ライオン共を倒す又とない機会であると、我が国王アシモフ並びに参謀ギュリフスからの提案でございます」
「うむ。悪くは無い話なのは理解しているが、いくつか聞きたい事がある。」
「何なりと」
「ではまず、サイとチーターは何と言っている?」
「……双方他国の出方を伺っている様子で御座います」
「それを、どうまとめる?」
「はい。他の2国もライオン国がこれ以上大きくなる事を非常に警戒しており、この挟撃案に興味を示しております。3国の中で最も国力の高い貴国が動けば、残り2国も必ずや同調する事とでしょう! この話、ブルチ様の御決断次第かと」
「それは、確約を取ったのか?」ブルチの目が再び鋭く光る。
「……必ずや動かれると思います!」ベアリウモスはブルチから時折放たれる鋭い目つきに圧倒されていた。それを相手に悟られぬよう必死になればなるほど、全身から汗が噴出し、言葉に詰まり、的外れの返答をしてしまいそうになる。そんな中でもなんとか結果を出そうと、必死に奮闘していた。国を救いたい思いと、国王アシモフの存在があるからだ。
これまで北方3国に使者として訪れたものの、成果なく帰国したバッファロー達は、アシモフによりその大半は処刑され、命が助かった者もそれまでの職は降ろされ、過酷な重労働を強いられていた。その為、交渉役の外交官が激減し、その結果、外交官では無いベアリウモスが使者としてやって来たのだ。
「確約では無いのだな。ではもう1つ。貴国はいつも共闘と言うが、そなたらに残された戦力はわずか、それで本当に共闘、挟撃となるのか? そうならなければ我等3国のみがライオンと戦う事となるが?」
「そんな事は決して御座いません! 今は詳しくお話できませんが、我等には秘策が御座います。近々、ライオン共に一泡も二泡も吹かせる事となります。そのタイミングで貴国を含めた3国が攻め入る事で、ライオン国を一気に壊滅させる事が出来ます!」
「そうか、秘策があるか……うむ、今日のところはこれまでだ、ベアリウモス殿も長旅でお疲れであろう、宿と食事を用意してある。ゆっくり休まれよ!」
「いえ! 良い返答を頂くまでは……」
「返事は明日だ! まぁ今日は休まれよ!」
「……分かりました。それでは明日。良い返答をお待ちしております」
不安げな表情で退室するベアリウモスを見送った後、ブルチが合図を出すと、3頭のハイエナが現れた。ハイエナ国の3大将軍、カルショウ、シルマン、アールドだ。いずれもハイエナにしては巨大な体をしている。
「どうだった?」ブルチが3頭に問いかける。
「今回の使者はこれまでで一番マシでした。しかし話の内容はいつもと同じ。唯一気になる所といえば秘策とやらですね」カルショウが話す。
「秘策ねぇ~、そんなもんがあればとっとと使って、とっととライオンをやっちまえばいいじゃねーか」アールドがどこか気に入らないとゆう表情で話す。
「使い時が重要なのだよ、秘策なんだから。まぁそれがあればの話だが……」シルマンがアールドに向かって話す。
「そうだな、共闘するならそのタイミングになろう。カルショウ、サイ、チーターに鳥(伝書鳥)を飛ばしておいてくれ」
「という事は、バッファッローと共にライオン国に攻め入るとゆう事でございますか?」カルショウが確認する。
「そうだ。北の怪物共もしばらくは南下して来んだろう。バッファローに秘策が在ろうが無かろうが、この期に一気にライオンの国力を削ぐのが最良と考える」
「はっ、かしこまりました。しかし、我等3国が同盟を結んでいる事、バッファローは未だに気づいていないようでしたね」
「そうだな、今の会話の中にはウソは無かった。つまり、同盟については気付いていないと見て良いだろうな」ブルチはFGの力で、5感が異常なまでに発達しており、他者がウソを付く時に取る極めて些細な不自然な行動、言動を決して見逃さなかった。
「いよぉ~し、ライオンに積年の恨みを晴らす時が来たってわけかぁ~~!!」アールドの血が早くもたぎっていた。
サイ国王、グンドリルの元にブルチからの書状が届いた。
「……ハイエナがライオンに攻め入る覚悟を決めたぞ。ホンドリル、北の怪物共の様子は?」
「はい、ご安心下さい。この時期奴らが南下してくる事はございません」参謀のホンドリルが答える。
「そうか……この時がやってきたか。ライオンとの停戦協定、ハイエナとの同盟。どちらかを切り捨てねばならんな」
「どちらか……グンドリル様、まさか未だに迷っておられるのですか! ライオン国に攻め入ると決められたのでは?」ホンドリルが驚いた様子で尋ねる。
「そうだな、国王として国の事を考えるとそうすべきかもしれん。だが、ライオン国王ブレイド、ヤツには何か引かれる物があってな。どこか踏ん切りが付かぬのだ」
「そうでございましたか……では、将軍達もお呼びして皆の意見を聞かれますか?」
「そうだな……ワームドルジェを呼んでくれ。その意見を聞いた後、どうするか決める。書状を出すのは明朝とする」
チーター国王、キンガースの元にもブルチからの書状が届いていた。
「ようやくこの時が来たか。待ちわびたよ」書状を読み終え、不適な笑みを浮かべながらキンガースが独り言の様に話す。
チーターとライオンは、長年大きな戦いをしていなかった。個の力、国力共にライオンがチーターを圧倒しており、チーターからは手が出せず、ライオンは南へ侵攻しているからだ。しかし近年、チーター国で新たなFGが発見され、その力を継承した子を増やし、数年かけてようやく国家の戦力となった。キンガースはこの新たな力で現状を打破できると確信していた。
「ストリング、早速書状を出しておけ、我等の準備は整っているとな」
「かしこまりました、今から血が滾ります」参謀のストリングが答える。