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ライオン王国

 西暦2500年代の地球。かつて人間達によって破壊され、失われかけた自然は、時間をかけて本来の姿を取り戻し、緑溢れる星となっていた。

 そんな地球の主役の座に人間の姿は無く、代わって、その座を手にしたのは動物達であった。

 彼らは、人間達が創り出した禁断の遺伝子操作薬、通称『FG』の使用により、劇的な進化を遂げ、その多くは、言葉を操り、種族毎の王国を築くまでに至っていた。


 「若様、お急ぎ下され、今日こそは遅刻する訳にはまいりませんぞ!」

 「分かってるって。だからこうして急いでるじゃないか」

 2頭の雄ライオンが、これから始まる作戦会議に遅れまいと、城内を慌ただしく移動していた。

 1頭は老齢で、もう1頭は若いライオンだ。

 若い方のライオンはこの国の王子で、名はグレイン。

 老齢の方のライオンは、グレインの守役のコークス。

 コークスはグレインの寝坊癖にいつも頭を悩まされていたが、今日も今日とていつもの朝を向かえ、追従するグレインを急かしていた。

 一方のグレインは、まだまだ寝たり無いという表情で、コークスの後を追っていた。

 「しかし、まぁあれだなぁ、これだけ急いでも間に合わないなら、会議を始める時間が早すぎるって事じゃないか?」

 「若様……国王様の前でも同じ事が言えますか?」

 「……分かってるよ、だからこうして急いでるんじゃないか、爺。お仕置きノーサンキュー!」


 西暦2515年春。アフリカ南部一帯を支配するライオン王国は、南側の隣国、バッファロー王国との長きに亘る戦いに、終止符を打とうとしていた。

 ライオンとバッファロー。

 古来よりアフリカ大陸での、永遠のライバルとして命を懸けた戦いを繰り広げてきた。それは、互いに言葉を操り、王国を築くに至っても変わる事は無く、幾度と無く凄惨な戦いを重ねてきた。その戦いの中で、互いに大切な家族・友人・仲間を失った。それにより戦は激しさを増し、更に多くの犠牲を出しながらも、戦況を変えるには至らず、一進一退の状況が長きに亘り続いていた。

 そんな状況が変化し始めたのは、2年前、ライオン王国の国王が、現在のブレイドとなってからだ。

 ブレイドは、武神と呼ばれる程に戦に強かった。

 自らの戦闘力はもちろんの事、先を読む力と状況判断力に長け、自らが指揮した戦いでは不敗を誇った。

 ブレイドの登場により、それまでの力の均衡は一気に崩れ、遂には、ライオン王国はバッファロー王国の国土の9割を奪い、残すは、現首都のジョージ、難航不落の要塞と謳われるユニオンデール、最果ての地アガラス。この3つの都市を残すのみとなっていた。


 「グレインはまた遅刻か?」ブレイドが時計を見ながら側に立つ兵士に尋ねた。。

 「はっ、もう間も無く到着されるとの事です!」兵士が緊張の面持ちで答える。

 「そうか……、皆、グレインの度重なる非礼を許せ、奴には後できっちり仕置きして置くゆえ、もうしばらく待って欲しい」

 作戦会議室内の円卓に座った、国王を除く7頭誰もが頭を垂れ、国王ブレイドの言葉を受け入れた。

 この円卓に集う7頭の将軍こそ、今のライオン王国の屋台骨とも言える存在であった。


 

 大将、ジュード(雄)

7将軍中最年長。現時点では国王に次ぐ決定権を持つ。最近では温厚なイメージだが、かつては鬼神と恐れられた。怪力を持つ大柄のライオン。


 参謀(大将)、キュベル(雄)

様々な軍略・政略に精通し、ライオン王国の頭脳の頂点に君臨する。生真面目な性格で、冗談を言う時も真顔な為、しばしば周囲を微妙な空気に変えてしまう、若きライオン。


 特別遊撃部隊長(中将)、ヴォルテール(雄)

機動力に富み、本隊とは別行動を取る事が多い遊撃部隊。部隊長であるヴォルテール自身もこの部隊の出身。数々の戦果を上げ、隊員からの信頼も厚い。


 特殊部隊長(中将)、ガロア(雌)

文字通り、戦時における特殊な任務を遂行する部隊。先代までは雄で構成されていたが、部隊長ガロアを含め、全ての隊員が雌で構成される。王国内の部隊中、最も連携能力が高いと言われている。又、雌で初めて将軍の座に就いたのもこのガロアである。


 第1部隊長(小将)、リョーク(雄)

 野戦を主戦場とし、隊員数では最大規模を誇る第1部隊長。参謀キュベルと同様、生真面目な性格で知られる。戦では成功法を好み過ぎる所もあるが、いつも期待通りの働きをしてくれる。


 第2部隊長(小将)、ベルシモン(雄)

攻城戦を得意とする部隊を、隊長ベルシモンが考案し育成した。隊員数は、第1部隊に次ぐ規模である。城攻めに使用する兵器、破城槌を開発した事で格段に破壊力が増した。攻城戦では右に出る者はいない。


 第3部隊長(小将)、ベッケルン(雄)

主に本陣を守る為の部隊。大柄の者が多く文字通り体を張って国王を守る。第2部隊長ベルシモンの弟にあたる。皆、認めないが、1対1の戦いをすれば、誰よりも強いと噂されている。


 

 「グレイン様といえば、そろそろですかな成獣の儀は?」国王ブレイドの右隣に座る、大将ジュードが白髪交じりのタテガミを触りながら、目を細め懐かしむような表情で尋ねた。

 「そうだな、今回の戦が終わればと考えておるが……、奴にその気があるのかどうか」ブレイドは手にしたグラスを見つめながら、最後は呟く様に言った。

 「グレイン様なら立派に果たせましょう」ジュードの右隣に座る第2部隊長ベルシモンが言う。

 「確かに、その気にさえなって頂ければ、何の問題も無いかと……」ブレイドの左隣に座る参謀キュベルが、壁に掛かった時計を見ながら答える。

 その時、部屋の外が急に慌ただしい空気に変わり、間もなく、軽快なノック音が室内に響き渡った。

 「遅くなって申し訳ありません! グレインただいま到着致しました!」会議室内に若ライオンの元気な声が響き渡る。

 「入れ!」ブレイドが困った中にも少し安堵した表情で告げる。

 「はっ! 失礼します!」会議室の扉が開き若々しく凛々しいオスライオンが入室し、ブレインに向かって、深々とお辞儀をした。「父上お待たせして申し訳御座いません。皆も悪い……寝坊しちゃった」頭を掻きながらも正直に答える。

 「若様!! 将軍方に失礼ですぞ!! 皆様申し訳御座いません……何とお詫びをしてよいやら……」グレインの後ろに控えていた爺ことコークスが、慌てて前に出て汗を拭きながら謝る。

 「はっはっはっは、若様、今日も寝坊ですか。コークス、そう硬くなるな」ヴォルテールが楽しそうに尋ねる。

 「グレイン……お前の仕置きは後だ、皆待ちくたびれておるゆえ、早速本題に入るぞ、皆もそれで良いな?」ブレイドが真剣な面持ちで皆に尋ねると、またしても皆頭を垂れ、これを受け入れた。

 「仕置き……はぁ……」グレインだけは、頭を垂れるのではなく、うな垂れていた。


 「皆承知の通り、バッファロー王国は風前の灯、長きに亘る戦に終止符を打つべく時が迫っておる」皆、うなずきながら、ブレインの次の言葉を待つ。

 「これまでに双方多くの血が流れ、家族や仲間を失った」皆、感慨深い思いでブレイドを見つめる。

 「だがしかし、ようやくここまでたどり着いた……決着まで、後もう一押しだ!」皆の目に力が入る。

 「これより、ユニオンデール攻略作戦会議を始める! キュベル詳細を!」

 「はっ、では早速作戦を説明致します」

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