異世界のトイレ事情その弐、そんでもって出発です。
今回も下品な場面があります。気になる方はご遠慮ください。
気持ちも新たに階段を下りる。文句を言いたげなフィリップが現れた!
コマンド:スルー☆ 台所へと向かう。
水瓶からたらいに水を移して、顔を洗って布でふく。三四郎もね。歯ブラシは携帯のを持って歩いてる。爪切りも入ってる。無駄に高い女子力、ではない。ポーチから携帯を出すのが面倒で、ポーチごと、学校かばんからリュックに詰めて散歩に出たから。ものぐさが役に立つ日が来るなんてびっくりしますね。
三四郎は……フィリップの歯だからいっか。とか思ってたら、フィリップが竹串の先に何かの毛がついたようなモノを出してきた。おお、歯ブラシの歴史? 面白いかも。
『準備が出来たら出発だ』
昨日の残りで簡単に朝食をすませて、フィリップの指示するものを袋に詰めて、三四郎に背負ってもらう。腰には剣。おお、本当に剣だ、とちょっと感動。でも……使うような事が起こらないといいんだけど。
そう、そして恐れていたあいつ。あいつがやってきました。そう、催したのです。外は嫌がらせですかってくらい爽やかに晴れ渡っていて、明るい。でも生理現象には逆らえない、肌荒れしちゃう。あたしの肌がキレイだって誰得だけど、肌だけは誉められるから。……肌しか誉めるところがないからかもしれないけど。
「すいません、ちょっと、あのトイレ……」
もごもご言って家を出る。三四郎、ついてきてないだろうな、と後ろをしつこく確認。草を必死で踏み倒して場所を作る。踏み踏み運動で更に高まる、純粋で原始な衝動。
野●ソ。
痩せても枯れても、腐ってても、女子が野グ●。チーン。
あたしユウコ。十四歳。職業は畑の妖精だよ。特技は、食べたものを有機肥料に変える事なんだっ。今日もはりきって、おいしいお野菜、育てちゃうゾ☆
……だめだ……どう考えても悲しいものは悲しいので、もうこれ以上、考えまい。忘れよう、野良犬に噛まれたと思って。ああ、でも野良犬に噛まれた事って、トラウマになるくらいの恐怖体験な気がする。
「ユウコおそーい。僕も終わったー」
え? 三四郎君? フィリっさん世話してくれたの?
「あの、どうやって拭いた、んです、か」
『は? 自分で拭くようにちゃんと教えたぞ』
ちっと舌打ちをするフィリップ。うん、それはうちの子がお世話様でしたけど……
「あ、そうじゃなくて、何で拭いたんですか?」
『……紙でに決まってんだろ? 異世界は違うのか?』
紙、あったんかーい! ワイングラス所望です。
「いや、紙ですけど……紙はどこに?」
『トイレに決まってるだろ。変なやつだな』
トイレ、あったんかーい!
「え……あ、トイレあるんですか……」
『あるが、使うと汲み取らなくてはいけなくなるからな。雨でも降ってなきゃ外でしろ』
おい。俺、切れっかんな? マジ切れっかんな? 切れた俺、マジ何すっか、わっかんねえからな?
『ったく、本当にのろまだな。急げよ』
こ、か、く、き、があああ、言葉にならない! この恨みはいつか晴らす! 首を洗って待ってろフィイリィーーップ!! あーーーー!!
……だめ。だめだめ。深呼吸。深呼吸。胸を開いて第一の体操~。
ふう。あんまり悪いことを考えると、自分にも悪いことが起こりそうな気がするからね。悪口言うと、気の流れが悪くなって、体にも影響が出るってお母さんも言ってた。うん。野……なんて、たいしたことじゃないよ。ある意味武勇伝だよ。あたしもさ、若い頃は無茶したけど……って語れ、ませんよ?
★
家を出て、何事かをフィリップが唱えると、空間にキラキラと光が満ち始めた。
「きれい!!」
♪レディエンジェントルメ ボーイエンガー♪ が、脳内再生。色とりどりの光のシャワー。明るいのに、なんで見えるんだろう。まるで魔法み……魔法か。
光がおさまると、ふわり、と一メートル四方ほどの白い布が空中に現れた。
『それ、畳んでしまえ。なくすなよ』
広げてみると魔法陣が描かれている。あたしはそれをキレイに折りたたむと、自分のリュックにしまった。
「あ、あの、すいません、フィリップさん。コーダさんのお宅までは、どのくらいかかるんですか?」
ずっと、気になっていたことを聞いてみた。
『まあ、運がよければ一日。普通で一月。悪ければ……』
一日から一月!? なんでそんな差が。で、悪ければ何?
『よし!』
だから、悪ければ何な……
『東だ。行くぞ』
悪ければなんなのー!
お天気は快晴。おなかもすっきり。隣にはイケメンとかわいい犬。見渡す限りの草原に吹き渡る風。まあ、少しだけならこんなのもいいのかも。では、はりきって歩きましょう! モンスターとか出ませんように。