表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬とあたしと王子様  作者: タカノケイ
残念女子、異世界へ
6/24

異世界のトイレ事情

*下品な場面があります。苦手な方はお気を付けください。

 出来た煮込みを、台所に置かれた二人がけのテーブルの上で木皿に取り分ける。おいしそう。だけど、あれ?


「犬ってこんな塩辛い味、だめですよね」

『おい、食わせない気か』

「だ、だって、三四郎の体なんですよ! ああ、でもドッグフードがあるわけでもないし……」

『はあ……黙って食え、もう今日は疲れた』


 誰のせいだよ、と思いつつ木皿を一つ床に置く。フィリップは不服そうな顔を一瞬だけして黙って食べ始めた。三四郎を見ると、ああ、なんて躾のいいお利口さん。ちゃんと椅子に座って待っている。飼い主の顔が見た~い。あ、あたしだあ。まあ、目は皿から離れないけど。よだれ、垂れそうだけど。


「三四郎~待て。待て~……よし! ……って、まてええええええい!」


 三四郎はお皿に顔を突っ込みかけて止まった。


「えと、お匙を使ってみようか、三四郎」


 うん、だよね。やっぱ無理だよね。仕方ない、仕方ないんです。


「三四郎、あーん」

「あー」


 あああ、かわいい。無垢な表情やばい。じゃない、違う。これはつまり、母親が赤ちゃんにきゅうんとくる類のものであって、決して恋愛感情ではない。そうだよ。三四郎が子犬の時、同じ気持ちを感じたよ。断じて、絶対、恋愛感情ではないのだ。


「おいしー」


 にっこり微笑む三四郎。 こ、このときめきは!!……初恋の相手が飼い犬でいいの? 夕子! いや、良い訳がない。良い訳がなーい! 騙されないで、これの正体はバカ王子なのよ!

 ふう。心頭滅却の苦行な夕飯が終わって、お茶を飲んで、片付けも終わった。窓も時計もないからわからないけど、多分もう夜更けだろう。


『さて、寝るか』


 うん、寝る、んだけど……。


「すいません、お手洗いは」

『手洗い?』


 う、通じないの?


「トイレは……」

『ああ、外でしてこい』


 そ、んな、気は、し、て、た。そんな気はしてた! 異世界にトリップする小説はいっぱい読んだ。でもね、誰もトイレに困ってないから、おかしいなっては思ってたんだよ。思ってたんだよ。


『そこの扉じゃなくて、隣の部屋の扉から出ろよ。俺が居ない時はな』


「わかりました。じゃなくて、えっと、何で、拭いたら……」

『なんだ、大きいほうか』

「ちがいますよ! もういいですよ!!」


 まあ、いずれは大きいほうも出るでしょうけどもね。 とりあえず、ポケットティッシュ持ってるからそれ使おう。うん。


「ユーコ、僕もおしっこー」


 え? えええ? ええええええ? あたしは多分、泣きそうな顔だったと思う。縋るようにフィリップを見つめる。犬の視力じゃ見えてるかどうか、わからないけども。


『しょうがねえな。ついて来い三四郎。お前はこれ持ってけ』


 フィリップは台所にあったランプに例の魔法で火をつける。わあ、幻想的。でも今はそれどころではない。沈痛な面持ちであたしは玄関に向かった。フィリップと三四郎は台所の「フィリップが居ない時は出てはいけない」扉から出て行く。


 わたくし、前田夕子、十四才。うまれ~て、は~じめて~、屋根も壁もないとこで用を足しました。ちーん。

 家に戻ると、フィリップと三四郎が玄関の部屋で待っていた。上手に出来たかい? 三四郎君。足を上げては駄目なんだよ。


『いくぞ』


 フィリップは、玄関の部屋の奥にある幅の細い階段を登り始めた。階段の手すりの細工が可愛い。おお、二階には丸い窓もある。壁は光ってはいなくて、所々にぶら下げられたランプが優しい光を放っている。外、真っ暗で何も見えないな。あ、窓枠の細工も可愛い。なんだか随所に可愛らしさがあるなあ。


『ここは、俺の部屋だ。あとは、あっちの部屋しか開いてないから二人で使え』

「あ、はい」


 二階には二部屋。ああ、扉も可愛いなあ。白いのがいい。目の高さくらいに小さな四角がくくり抜かれいて、ステンドグラスがはまっている。なんというか、手作り感があったかい。つかガラスがあるんだ。あ、よく考えたらランプもガラスだ。中身は何の油だろう。思ったより文明は発達してるんだろうか。


『じゃあな』


 考え事をしていると、フィリップはトコトコと『俺の部屋』とやらに向かったが、立ち止まって扉を睨んでいる。


『開けてくれ』

「あ、はいはい」


 すみませんね、気が利かなくて。あたしは腕を伸ばしてドアを開ける。


『俺の体に変なことするなよ?』

「しませんよ!?」


 あたしはドアをバタン! と閉めた。なんてやつだ。尻尾を挟んでやればよかった。あ、三四郎の尻尾だった……くそう……


「もう寝よう、三四郎。今日は散々でしたね」

「ぼくは、ユーコと話せてうれしいよ」

「そっかそっか。……はあ?」


 自分たちに与えられた部屋のドアを開けて、あたしは間抜けな声を出す。なんということでしょう。

 ……お決まりだ。お決まりのようにベッドがひとつです……。


 雪山で二人きりで遭難するか、記憶喪失か、隣にイケメンが引っ越してくるか、くらいにベタです。

 そう、そのイケメンはきっと意地悪なんです。びっくりするくらい金持ちで頭がいいけど、何故か頭の悪い主人公と同じ高校にいる不思議。あ、マンションの隣に一人で住んでることにしよう。

 まあ、イケメンが意地悪してくるのは気になって仕方ないからでして。アイドルみたいにかわいいライバルとか、優しいけどちょっと強引な幼馴染の男の子に揺れながらも、絆を深めていく二人。みんなで夏休みに旅行に行くんだけどはぐれてしまって、やっと見つけたホテル、空き部屋はひとつ、ベッドもひとつ……ふたりはお互いの気持ちを確かめ合い、そして……


「どうしたの、ユーコ?」


 固まっているあたしの横をするりと通ると、三四郎は大きなあくびをして、床の上に丸まった。お、おう、そ、そうか床か。良かった、うん、良かった。ちょっとがっかり? してない。断じて。


「なんでもないですよ、お休み、三四郎君」

「おやすみ、ユーコ」


 眠そうな上目遣いぃやあああ! 声! 声も甘い!  

 でも、こう、床の上で人が丸まって寝てるの図ってあれだなあ。不憫だな。でもな、中身は犬だし、いいのかな。あー疲れた、すごく。おやすみなさいー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ