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犬とあたしと王子様  作者: タカノケイ
コーダを探して三千里
16/24

自己解決と自己分析

 上掛けを抱き寄せて、ぎゅっと目を閉じる。けど、眠れそうにもない。


 くそー! フィリップめ。考えないようにしようと思っても、言葉が毒のように回っていく。


 変な妄想で気持ちを紛らわせて、裸足で家に帰る気持ちなんて、知らないくせに。

 嫌な目に合わないように、自虐ネタで笑わせて、何かあったら悪くなくても謝って、って良いことじゃないの、わかってる。でも、そんなに悪いこと? 自分が可愛くて何が悪いの? 傷つきたい人なんて居るわけない。保身するのは生存競争社会で当たり前じゃないか。

 そもそもあたしがフィリップの半分でもきれいな見た目をしてたら、しなくていい思いだったかもしれない。

 あたしのことなんか、何も、何にも知らないクセに。零れそうになる涙を必死に堪える。消えたいって。みんなの目に映らないように、あたしを消してくださいって願った夜がフィリップにはあった?


 泣くな。


 泣くな。


 泣くな。


 四つに折りたたまれたメモ紙が、瞑った目の裏側に鮮明に映し出される。


――ブウ子 泣くとかウザすぎ。つか、泣き顔マジでホラーなんですけど(笑)


 泣くな。


 泣くな。


 泣くな。


 そうだ、泣くな、怒れ、フィリップに!


  そりゃ、命を狙われることに比べたら、靴を隠されたり、机に花を飾られたり、椅子がベランダに置いてあったり、自分の悪口を書いたメモを拾ったり、そんなことは微々たる事かもしれない。でも、あたしには辛かったんだ!


 悩みっていうものは、大きさを比べるものではないと思う。その人にとって苦しい大きな悩みなら、もっと深刻な悩みのある誰かにとっては、取るに足らないような悩みだったとしても、死を選ぶ事だってある。


  つまり「毒を盛られること」と「靴を隠されること」って言うのは、誰かが自分に悪意を持ってるって不安になるという点では同……あ、うん、例えが悪かった。

 「いきなり火薬が爆発する」ってことは「教室に入ったら椅子がない」という驚き……これも、例えが悪かった。

「呪いをかけられる」と「悪口のメモを……」同じじゃないな。うーん。


 で、でもあたしはまだ十四歳で! ……あ、フィリップ十二歳だな……。だとしても! 不必要に攻撃する必要はないと思う。そう! 仲良しだから何を言ってもいいはずがない。何が、


「お前、本当は明るくて前向きだよな。自虐や謝罪も本気じゃなくて、自分可愛さの保身からなんだろ」


 だよ!! 


 ……あれ、明るくて前向き、って誉められてる? んー。それに攻撃って程でもないかなあ。 


 あ! そういえば、靴がなくなったときに妄想した「クックとツッツの大冒険」は、数あるあたしの妄想の中でもダントツにすばらしかった。

 愛し合う二人が、理想郷を目指す物語だ。犬に攫われたツッツを、クックが犬小屋から助け出すシーンなんて、手に汗握る大スペクタクルだし、理想郷を目の前に力尽きるツッツに、自分の靴紐を与えて死んでいくタッタの……タッタの……タッタ……タッターーーー!! なんていいやつなんだタッタ! 我が心の友よ! そしてタッタ亡き後、立ち上がり理想郷を目指すツッツ。どうか幸せに、そう、それがタッタの死に際の言葉だったからだ。いつも守ってもらってばかりだったツッツは、自分の足で歩き始める


 ……


 ……


 ……うん。


 確かにあたしは明るくて前向きかもしれない。でもチクンと胸が痛んだりもする複雑な乙女心はあるんだよ? あー、うん、なんかもう、どうでもいいや。フィリップ、悪気があって言ったんじゃないと思う。まあ、Sだなっては思うけど。悪口に対してのあたしの過剰反応だ。アナフィラキシーショックみたいなもの。

 大体、少しの努力もしてないくせに、見た目がキレイだから卑怯、とか片腹痛いですよ。持って生まれたものに嫉妬するのは、努力してからにしろってね。可哀想ぶってるんじゃないよ。はい、自己解決。ふう。


 落ち着いたら、隣の三四郎が、起きていることに気がついた。そうだ、三四郎。ごめんね、三四郎。


「三四郎君」

「何!?」


 小さい声で呼んだのに、すごい速さで起き上がる。思わずビクッとしたじゃないですか。


「もう大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」


 あ、あれ? 笑ってくれると思ったのに。なんでそんな顔なんですか?


「ユーコはいつもそうだ」


 ん?


「泣きそうな顔で帰ってきて、何か喋って散歩に出かけて。俺は一生懸命見上げてるのに、ちっともこっちを見ないで。いきなり笑って 帰ろうか って言うんだ」


 そ、ういう風に見えていたとは。だって、嫌な気持ちを誰かにぶつけたら、あたしは少し軽くなるかもだけど、その人が重くなっちゃうって思うんだ。それは、またあたしに重みになって返ってくる気がするの。


「俺、今犬じゃない。ユーコの話、聞けるよ」


 う、ちょ。新技! 新技の床ドン! いや、ベッドドン、ベッドン!! ひええ。ひょええええええ!


「ねえ、俺はユウコの役に立たない?」


 そんな真剣な目で見つめられたら、困る。困る!


「ちがうよ。三四郎君が側に居てくれるのと、居ないのじゃ全然、違うんですよ」

「本当?」


 泣きそう。やばい、三四郎君が、泣きそうだ。どうしてそんなに尽くしてくれるのかな。この忠誠心、本当にいじらしいなあ。


「本当だよ」

「本当に本当?」

「うん、本当」


 ……ぎゃあああああああ。耳に口。耳が、胸が、密着して、あああああああ!


「大好きだよ、ユウコ」

「ちょ、重い、苦しいよ三四郎君、降りて」

「やだ」


 ちょ! なんでだ。


「ユウコも三四郎を好きって言って」

「あ、うん。好きだよ三四郎」

「んふ。ふふふっ」


 吐息が! 吐息が首筋にかかるから!! 嬉しそうなのは良かったですけど、むすむすする。むすむすする!!


「さ、三四郎君? 降りよう? 重いから、ね?」


 静止?


「三四郎君?」


 って、寝てるんかーい!!


 明日は町に到着する。コーダ師は山深くに住んでいるらしく、その町からはほぼ山登りになるらしい。気を引き締めていかないと~……重い!!


 

 


 


 

お読みいただいてありがとうございます。

二章終了です。


三章+エピローグで、物語は終了です。

次回から徐々にシリアス(きも~ちだけ)展開。夕子の妄想は控えめとなります。


楽しんで書きました。お読みいただけたら嬉しいです。



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