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犬とあたしと王子様  作者: タカノケイ
コーダを探して三千里
15/24

言っていい事と悪い事

「明日は、あの町に宿を取ろう。体を洗いたい。痒すぎる。」


 食事が終わると、フィリップが言った。大賛成ですとも。


「おまえら、超臭いし」


 フィーリープ、そうか、君はそういうやつだったな。仲良し大作戦で、ちょっと忘れかけてた。悪気がなくてもね、言っていいことと悪いことがありますよ。


「服、子供だと思ってなかったから、大きいかもしれないな」


 フィリップはごそごそと包みを開ける。麻っぽい生地。インディゴブルーに染めてある襟付きのワンピースは胸元に刺繍が入って、思ってたよりずっと可愛い。


「ありがとうございます」


 フィリップはあたしをチラリとみて頷く。


「これが三四郎の分」


 今、フィリップが着ているのと同じ、麻生地で襟のついているシャツを出す。あ、そういえば三四郎が着ているのは……絹? やっぱり王子様だなあ。ズボンだって綿だよね。フィリップが履いてるのは麻だ。

王子なのに、麻の着心地悪くないのかな。つか、人化した瞬間は裸……いや、いやいやいや。


「あ、あたし十四歳です」


 そうだ、誤解を解いておこう。変な妄想より大事なことです。


「は? 嘘つくな」

「本当です」


 フィリップの視線はすっと下がる。


「だってお前……」


 言うな! 飲み込めフィリップ! 君なら出来る! 雄弁は銀、沈黙は金! 金です!!


「ぺったんこじゃねえか」


 うん。別にいいんだけどね。気にしてないから。全然、気にしてないから。むしろ、女だと気がついてただけでいいですよ。大丈夫、気にして……


「フィリップさん、いくら王子様でも、言ってもいい事と悪い事は考えてください。あたしの世界では、女性の外見について、とやかく言ってはいけないことになってます。セクハラといって罰せられるんですよ」


 気にしてるわ。気にしてるに決まってるわ!!


「……お前はちぐはぐだよなあ」


 何ガ? 胸が小さいのに腹は出てるとカ、そういうことカ。ユルサヌ。ケシテユルサヌ。


「自信なさ気に謝ってばっかりいるかと思うと、そういうことははっきり言うし。こないだは自分でブスだって言ってたろ? おかしくないか」


 ……ん、おかしい、のかな?


「自虐的なことばっか言う割に、何をやるにも楽しそうにしてるし」


 ……そう、かなあ?


「トイレ如きで大騒ぎするくせに、血が出てても黙って歩くとか」


「ひ、人には価値観の相違ってものがあるじゃないですか。こう、これは気になるけど、これは大丈夫、みたいな? ここは我慢できるけど、これは駄目、とか? それですよ。あたし的には普通です」


「ふーん」


 ふーん、ってなんなの。一生懸命答えたのに。……まあ、でも、今、尻尾がパタパタって動いて可愛かったから、許す。


「もう寝よう、ユーコ」

「え? 眠くなっちゃった?」


 三四郎が甘ったれた声を出す。まだそんなに遅くないけど疲れちゃったのかな。じゃあ、行こうか、と立ち上がると、片手で頬杖をついていたフィリップがあたしを見上げる。


「お前、本当は明るくて前向きだよな。自虐や謝罪も本気じゃなくて、自分可愛さの保身からなんだろ」


 え。


「あ、はい、えと、おやすみなさい」

「おう」


 一瞬、止まってしまった。で、逃げてしまった。なんだろう、この感じ。うーん、面白くない、な。悔しい、かな。


「どうしたの? ユウコ?」


 部屋に入ると、心配そうな三四郎。いけない、顔が沈んでたかもしれない。


「なんでもないよ」

「フィリップの事?」


 なんで、その質問なのかな。三四郎君、意外に鋭いんですね。


「なんでもないって。もう寝ようか」


 あたしは、三四郎の視線から逃げるようにベッドに向かう。ドン! って、え? 


「元気出してユーコ。ユーコは優しくていい子だよ。俺、大好きだよ」


 壁ドン。


 壁ドンと来ましたか! 


 なんというスキルアップ。君は天然タラシなのかい三四郎? ていうか、俺? さっきまで僕だったよね? あれ?

 それにしても、本当にきれいな顔。こんな人間もこの世にはいるんだなあ。神に祝福されてるレベルだよ。

 ……こんなきれいな顔で、王子様のくせに。その上魔術も使えて。そんな人に、不細工で運動音痴で成績は中の中。スクールカースト最底辺のあたしの、何がわかるって言うんだろう。

 あたしはわかろうとした。フィリップの過ごした五年間を、わからないなりに想像して、わかろうとしたのに。


「フィリップの事、考えないで」


 三四郎の声にはっと我に返る。抱き寄せられて、ぎゅうと抱きしめられる。


「俺がずっと側に居るよ」


 ありがとう、三四郎君。でも、そういうことじゃないんだ。今、そういうことじゃないの。


「ありがと、もう大丈夫ですよ。ごめんね。疲れたから寝たい」


 笑って三四郎の手から逃げてベッドに潜り込む。

 ああ、だめだ。自分の気持ちに精一杯で、心配してくれてる三四郎の優しい気持ちまで、受け入れることが出来ない。どうしてあたしは、こんなに弱いのだろう。

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