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犬とあたしと王子様  作者: タカノケイ
コーダを探して三千里
13/24

獣人……だと?

 森の中の道はかなり険しかったけど、歩きましたよ。偉い、あたし。

 大きな森を抜けると、そこは見晴らしのいい丘の上で、はるか下方には、ちいさな町が広がっていた。赤いレンガつくりの家と、黄色い土と、青い空が絶妙なコントラスト。中央のあれは教会? 時計台?


「うっわあ」

「きれいだねえ」


 本当ねえ。……うん、だから近い、三四郎君は近いんですよ。パーソナルスペースって知ってますか。


「あ、手、離して良い。もう大丈夫だから」


 そうです。森の道は倒木や、沢がたくさんあって険しくて、あたしと三四郎は手を繋いでいたのだ。って、だから何で離さないかな。で、淋しそうに見つめるかな!!


『町まで二時間ってところだな。ここで休憩しよう』


 見えるのにそんなにかかるのか。あたしたちは適当な草地を見つけて座る。うー! 足パンパンだ。運動不足なんだなあ。


『……町に魔術師が居るといいのだが』


 ふう、と物憂げにため息をつく犬。ぷぷ。 なんで魔術師? あたしは首を捻って続きを待つ。


『この規模の町でも、獣の人型化くらいなら出来る魔術師が居るかもしれん』


 獣・人・化、ですと? 


 あえて、もう一度言おう。言わせて貰う。


 獣・人・化、ですと?


 獣のように力強い体、全てを切り裂く長い爪。高い戦闘能力。そして、その野性味溢れる容姿と野蛮な行動に反比例するように、愛するものを一途に守り抜く心。みんなの憧れのアニキ! それは誰だ! そう、それは獣人。長い尻尾は性感……止めるのです、ユウコ。今すぐ妄想を止めるのです。ココロを無にするのです。解脱戦隊、ニルヴァーナ発進です。

 ……あ、耳もきっと性感……あわわ。


 煩悩が止まらないよー。助けて脳内兄さーん。「やあ、お兄さんだよ。落ち着く時には、素数を数えるんだ、ユーコ」 わかった! 1・3・5・7……7……11……んー13? ふうう、危なかった。


「じゅ、じゃない、獣を人に出来るんですか?」


『人じゃない。人型に、出来る。ただ、まともな魔術師は、あまり役に立たない上に、夜の商売で使われることも多いから、忌避することが多い』


 さらっと言った、夜の商売って言った。こちとら思春期真っ只中。いけない妄想が止まりませぬ。留まる所を知り得ませぬー!! いや、大事なのそこじゃない。どうどう。


『だが、薬の調合は教えられるし、魔方陣が描ける奴なら、俺の魔力で底上げして、なんとかできるかもしれん。上手くいって、自分の手で魔方陣が書けるようになれば、コーダの隠れ家まで一瞬で移動だ』


 上手くいけば、一日ってそういうことか。あっ、じゃあ今日中に元の世界に帰れるかも知れない! ん?だったら……


「魔術師さんに、移動の魔法陣を書いてもらえばいいんじゃないですか?」

『アホか。コーダの隠れ家を教えることになるだろうが』


 そういうことになるのか~。バレちゃ何で困るのかはわからないけど。事情があるんだろう。


「あ、じゃあ、根本的な問題の、精神を元に戻せばいいのでは? 簡単だって言ってましたよね?」

『俺やコーダにはな。精神取替えの魔術が使えるレベルの術師が、この規模の町に居るとは思えん。し、出来ると言われてもしない。あれは一歩間違えば死ぬからな』


 死ぬ!? 却下、満場一致で、即刻却下で。


「うまくいくといいですね。そうすれば、あたしたち、今日中に帰れるかもしれないですよね」


『……ああ、そうだな』


 変な間が開くから、変な事言ったような気になるじゃないか。大丈夫、変なことなんて言ってない、言ってない。うん。


『よし、そろそろ出よう』

「はい。ほら、行くって、三四郎」


 返事がない。ただの屍のようだ。じゃない、話が退屈で、また寝ちゃったんだね。 難しい話はまだわからないもんね。


「三四郎君」


 二度目の呼びかけで、三四郎ははっと顔を上げる。


「いくってさ」

「うん」


 笑顔。だけど、あれ、なんか曇りがある?


「三四郎、具合でも悪い?」


 三四郎は、ふるふると首を横に振る。


「大丈夫」

「本当?」

「本当」


 お、いつもの笑顔だ。あたしを倒木の上に引っぱり上げたり、抱き上げて沢を渡ったり、やっぱり疲れたんだよね。


「もうちょっとだから頑張ろうね」

「大丈夫だってば!」


 あれ? ニコ、じゃないの。うーん、子供が反抗期を迎えた親の気持ちってこんな感じなのかな。


「そっか、ごめんね。しつこくって」


 立ち上がりかけた三四郎が、はっとしたようにあたしの顔を見つめる。


「……僕こそごめんね」

「いいよー。疲れたらいら、いらするよね」


 はあー、という深い深い、なんだかわざとらしいため息が聞こえた。


「いくぞ」


 なんだ? 文句があるなら言ってよフィリップ。なんだか微妙な空気のままで、あたしたちは歩き出した。


 


 





 


 



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