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犬とあたしと王子様  作者: タカノケイ
コーダを探して三千里
11/24

フィリップ王子の事情

  その夜は、当たり前のように、三四郎と一緒にベッドに入った。苦しいから、という理由で抱きつき阻止致しました。

 はあ、どうでもいいけど、二日お風呂に入ってない。……どうでもよくあるか! 臭いよ! 痒いよ!

 そして、イケメンだろうと、洗ってない頭は臭いことが判明しましたよ。人間だものね。でもそんなに嫌ではないな。むしろ臭いってわかってるのに、つい嗅いでしま……変態か。頭が高い、我は変態の国の国王……ああ、もう、本当にバカみたい。寝るっ。


 ……


 ……


 ……眠れない。

 

 眠れないぞ。


 うーん。昼寝をしちゃったせいだな。お水でも、飲んで来よう。あたしはそっと部屋を出て、階段を下りる。


「あっふわ! すいません……」

『ん? 眠れないのか?』


 ランプがついてるなあ、とは思ったんだけれど。フィリップが起きていて、驚いて思わず変な声が出てしまった。それにしても、あんな分厚い本を読む犬って。油性マジックで眼鏡書きたい。なんて。ぷぷ。


「あ、昼、寝すぎたみたいで……邪魔してすみません。水を」


 あたしは台所に向かう。


『気にするな。見にくいし、めくりにくいし、読むのに疲れてたところだ』


 そっか。見にくいんだ。言えば読んであげるのに。何故だか字は読めるみたいだし。ページだってめくるのに。と思いながら水を飲む。


『外の空気でも吸うか』

「あ、はい」


 外、それもいいかも。断る理由もないので、同意する。


『そこにある、ひざかけを持って来い』


 昼間は暑いくらいだったのに要るかなあ、でもあたしは言われたとおりにひざ掛けを持つ。これも可愛い。たぶんこれ、手編み。そしてフィリップはあたしが出たことのない台所の扉の前に立った。前にフィリップと三四郎が出て行ったあの扉。実は気になってたんだよね。


『開けろよ、見りゃわかるだろ』

「ああっはい、すいません」


 我ながら本当に気が利かなくて嫌になる。ドアノブをまわすと、冷たい空気が流れ込んできて、思わず目を細めた。


「え? あれ?」


 ここ、場所が違う? 広い草原から繋がる森の入り口だったはずなのに、完全に山の中だ。木立が深くてあまり遠くまで見えないけど。


『ああ、ここはこの家が本当に建ってる場所だ』


 振り返ると、家が消えてない。フィリップはとことこあるくと、庭先のベンチに腰を下ろす。というか飛び乗る。しつけ的にはNGだ。

 庭は手入れがされていなかったけど、これも手作り感が溢れる石垣なんかが組まれていて可愛らしい。ちゃんと花を植えたらきっとすごく可愛い。ハーブガーデンもいいかも。あの、一段高い真ん中にローズマリー。バジルとオレガノは外せない。ミントも。


「かわいい、おうち、ですよね」


 フィリップの隣に座る。あ、本当にちょっと肌寒い。持ってきたひざ掛けをかける。あ、あれトイレだ! 多分トイレだああ。神様ありがとう! トイレ~に~は~とても~


『母と俺の家だ』


 え? ……王子様と王妃様の? あ、別荘的な? それにしても、この家は王家のっていうイメージとは違う気がする。

 というか、フィリップは王子様なのに、ふらふらしてて居ていいのかな? ましてや異世界とかに行っちゃまずくないの? 


「えと、フィリップはどうして異世界に?」


 ふと湧いた疑問だったのに、フィリップは黙り込む。あれ、なんか悪い質問しちゃったのかな。話題を変えたほうがよさそうかも。ええと、話題、話題、とか思っているうちにフィリップは話を始める。


『俺の母は、王宮で下働きをしていて王に見初められたんだ。妊娠を隠して逃げて、俺が十二歳になるまでここで二人で暮らしてた。五年前に見つかって、王宮に連れ戻されるまで』


 え?


『なんの後ろ盾もないのに第一王子、という微妙な立場で。まあ、母は相変わらず王に大事にされてるし、妹も生まれた。少し安心したら……ちょっと逃げたくなった。かっこ悪いだろ』

「や、そんな、ことは」


 フィリップの口調が、この家に似合ったものになったことに、気がついた。フィリップは笑顔を見せる。犬なのに本当に表情豊か。笑顔、だけど、うん、笑ってない。そういう笑顔はなんだか悲しい。あれれ、ずきん、と心が痛んだ。


『せめて第一王子じゃなかったらな。第二王子も側室の子なんだけど、子供は諦めていた王妃に三年前に王子を産まれた。それから、こじれてる。継がないって言ってんのに、毒は盛るわ、火薬は仕込むわ、呪いはおくるわ』


 ……は?


『普通なら死んでたぞ。天才的魔術師の俺様はなんてことなかったけどな。ふふっ』


 フィリップはまた、笑ってない笑顔で言う。一緒に住んでいる人に、命を狙われる気持ちなんて、想像もつかない。お母さんは気づいてないの? お父さんは守ってくれないの? どうして? 

 どうしよう、気の利いた言葉なんて、出ない。当たり障りのないことは言いたくない。そしたらあたしに言えることなんて何もない。なんて質問、しちゃったんだろう。


「すいません、でした」

『……で、今回は何に謝ってるんだよ?』


 ええと。なんというか。


「想像力が……足りなくて」


 フィリップは不思議そうな顔であたしを見つめる。嫌なことを聞いて、と続けようとして、嫌なことっていうのは失礼かな? と思ったら言葉が尻切れトンボになった。……尻切れトンボってどんな生き物なんだろう? というか、トンボの尻ってどのあた……いやいや、脱線だめ。フィリップは急かさずに、続きを待っていてくれている。ちゃんと伝えよう。








 

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