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犬とあたしと王子様  作者: タカノケイ
コーダを探して三千里
10/24

懐いているだけ・・・なんです

「ユーコ、ユ・ウ・コ」


 名前を呼ぶ声に、ふ、と目を覚ます。上から顔を覗き込んでいたのは三四郎。……近い!


「あ、お、はよう?」


 あたしはどこ、ココは誰? ああ、歩き疲れて休んでたんだ。今、何時だろう。


「ごはんだよ」

「へ? ごはん?」


 三四郎に手を引かれて起き上がる。夕飯、だよね。


「いた!!」


 靴を履こうと思ったら激痛が!! そうだった。仕方なく、なんとか片足だけ靴を履いて、ケンケンで移動しようとすると、ふわっと体が浮いた。


 ……お姫様抱っこ。かの、有名なお姫様抱っこ。全世界の少女の憧れ、お姫様抱っこじゃないのかい!?


「ユウコ、首に手をまわして。おとしちゃう」

「だ、大丈夫、歩け……おろしていいよ。重いですから、ぐへへっ」


 無理無理無理無理。いやだ。あたしきっと、顔が真っ赤。しかも変な笑い方をしてしまった。ちーん。


「重くない」


 いや、そういう男の子のプライド、的な問題ではなく、ね? 三四郎はかまわず歩き出す。不安定に揺れて、あたしは思わず三四郎の肩にしがみ付いた。ああ、これが胸板、っすか。へえ。別に。別になんともないですけど、何か? ど、動揺なんて全然してないっすよ。な、なんか今日暑くない?

 軽いはずないのに、三四郎は本当に平気そうにとんとんと階段を下りて、あたしを椅子に座らせた。テーブルには食事が並んでいる。


「え? これ、三四郎君が?」


 にっこり笑って頷く三四郎。あああ、なんて偉い子さんなんだろう。親の顔が見たい。テレーン! それは、あったしー♪ ブラーボウ! なんて感動していると、フィリップが現れた。


『起きたか。三四郎、こっちだ。……早くしろ!』


 慌ててフィリップに着いて行く三四郎。もう、短気だなあ、フィーリップンは。やれやれだぜ。というか、夕飯作ってくれたのって、フィリップ発案だよね。うーん。あれはもしや、ツンデレというやつなのだろうか。それは、ツーテール赤毛少女の専売特許なんですよフィリっさん。

 しばらくして、三四郎が瓶を持って戻ってきた。あたしの前に膝まづき、あたしの足を自分の膝に乗せる。あ、傷薬って書いてある。なんだ、足のこと知ってたから優しかったのか。って、ねえ、ちょ


「じ、自分で!出来る!」


 思わず叫ぶ。くすぐったいし、恥ずかしい。三四郎は悲しそうな顔であたしを見上げる。


「ユウコは三四郎が嫌いになった?」

「ち、ちがいますよ。そうじゃなくて」

「じゃあ、じっとしてて」


 いや、ちゃ、えっと、と、しどろもどろになるあたしの足首を、三四郎は有無を言わさず、ぎっちりホールド。薬を塗り始める。ああ、無駄毛が。スネに無駄毛がああ。

 それにくすぐった…………って、ぎゃあーーーー! この薬超染みるーーーー!! 痛あああ……あ? あれ、痛くない?


「え?」


 突然消えた痛みに、羞恥も忘れて足を見つめる。うそ。治ってる。もう片方にも塗っておけー。というフィリップの声に、三四郎が片方だけ履いていたあたしの靴を脱がし始める。やばい。臭い、絶対臭い。でも抵抗しても無駄そうなので痛みに備える。

 というか、三四郎君。すごくスムーズに動けるようになった。ますます三四郎だと、というか、犬だとは思えな、う、来る。ぎゃーーー! 染みる! 染みぃ……てない。治った。意外に容赦ない三四郎君。

 というか、怖いくらいの効果。強い薬には必ず副作用があるんだよ。なんたってここは異世界、足から触手が生えてきて、こう、すーんっと滑るように歩けるようになっ……


『何考えてる、冷める前に食べろ、アホ』

「すみません」


 口が悪い。口が悪いんだよ、フィリップは。


『お前はすぐに謝るんだな』

「すいません、あっ」

『……チッ 黙って食え』

「……はい」


 って、アホって付けるから謝ったんだけどなあ。でも「すぐ謝る」は、よく言われる。大概は否定的な感じで。謝ればすむと思ってって言われたり、本当は反省してないから軽く言うんだと言われたり。あながち間違っても居ない気がするのが、悲しい。はあ、ま、食べよ。


 お芋の皮は剥き残してるし、パンは固めだったけど、三四郎君、一生懸命やってくれたんだろうな。そういえば、お匙も上手に使えている。どんどん動きも表情も人間に近くなって、三四郎って呼んではいるけど、全然知らない人みたい。


「ご馳走様でした。片付けはあたしがやります」

「おいしかった? ユウコ」


 とびきりの笑顔に、照れと不安をトッピング、と来ましたか。ほっほーう。動じませぬよ。我、動かざること山の如し、です。というか、イケメンに慣れてきた気もする。


「おいしかったですよ」

「じゃあ、撫でて」


 おっふう。そうきたか。侮れません。ああ、はい、と立ち上がって、座っている三四郎に近づいて頭を撫でる。


「よしよし」


 三四郎はあたしのおなかに、形の良いおでこをくりくり。おおうっふ。今きっと消化中できゅるきゅるいっちゃってると思う。さりげなーく体を離すのは、擦り切れてても乙女心なのです。だから責めるようなジト目で見上げるのはやめなさい、三四郎君。犬の時は、そんな目しなかったでしょ。いかん、疑ってはならぬ。


「三四郎君、お片付け手伝ってくれるかな?」

「うん! いいよ!」


 見上げる笑顔が眩しすぎます。ついーっと顔を背けると、苦虫を噛み潰したような表情で、あたしたちを見ているフィリップと目が合った。


「なんか、ほんと、……すいません」

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