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ただの恋の話  作者:
1/2

恋をしてみませんか?



このお話は、恋をしたことのない

至って普通の少女の

ただの、恋の話である。












「高倉陽子さん、俺と付き合ってみませんか?」


それなりに、中学と高校と過ごしてきて。

部活も頑張って、勉強もして。高校2年生からは大学受験のために予備校にも通って、部活と勉強両立させながら頑張ってきた。そして、念願の第一志望の大学に合格して、いよいよあたしの大学生活が始まる。これから、いろんなことが待ってるんだと。心躍らせて、今日の入学式を迎えた。


そんな決意を胸にしたあたしの前に突然現れたこの人は、単刀直入にそう言った。


「え、今なんて?」


突然現れて、この人は何言ってるんだ。第一、今日は大学の入学式。そんな日に、この人は本当に何言ってるんだ。彼からの意味不明なセリフを受け取るが、理解しきれないあたしの脳みそ。頭ではまだ処理しきれていないけれど、口は勝手にお笑いのツッコミのように、スラっとそんな言葉を滑らす。


「俺と、付き合ってみてください!」


あたしの質問に対して、同じセリフを繰り返しながらこの人は、さっきから嬉しそうに楽しそうにニコニコ笑っている。そんなにも笑われると、拍子抜けしてしまうじゃないか。しかも、その笑顔は自身に満ち溢れていて、あたしがその申し出を断らないとでも、思ってるのだろうか。いやいや、断りますから。だって、そんなの本当に意味不明じゃないですか。友達でもないあなたと、どうして付き合ってみないといけないのだろうか。


それに、よく見てみると。

目の前の人は、いわゆるイケメンという人で。余計に、あたしにこんなことを言う理由が分からなくて混乱する。


「あ、」


そうか!と閃く。

入学できて嬉しすぎて、初日からハメはずしちゃおうぜ!とかいう類の人だ!大学に入る前、友達達が話していた会話を思い出す。「大学生って軽いらしいよ」という言葉を。この人は、さっそく彼女作りにいそしんでいるということだ。


そんなお誘いに、乗ってやるもんですか。むしろ、あたしみたいな堅物を選ぶんじゃなくて、もっと自分に釣り合うような女の子を探せばいいのに。なんで、あたしなの、と謎が大きくなるばかり。


「付き合ってみる気になってくれました?」

「そんなわけあるか!」


あまりにも勝手すぎる男の言葉に、あたしは間髪入れずに突っ込んでしまう。そんなあたしに、男は苦笑いで「あれ~?」と笑みを零す。やっぱり、彼はあたしが断るわけがないと確信していたようだ。その自信は一体どこからきたんでしょうか。


…結論。この男の本心が、全然掴めない!



「俺と!」


とりあえず、断らなければ。そう思って彼を見るのだけれど。さっきまであった彼との距離はいつの間にかゼロになっていて。彼はあっという間にグイっと近寄ってきて、あたしの両手を握って瞳をキラキラさせながらあたしを見つめてくる。整った綺麗な容姿をしている彼に、不覚にもあたしはドキドキしてしまうのだけれど。


やっぱり、どうしてあたしなのか。そんな疑問だけが、頭の中を支配している。


そして、あたしに言葉を発する暇さえ与えずに、彼は続けた。


「恋をしませんか!?」


一体何を言ってるんだ。

冷静に男のセリフを頭の中で繰り返してみる。やっぱり、そのセリフは意味が分かりかねるセリフで、だから何で!相手があたしなんだ。ポカン…と、あたしは彼を見つめることしかできない。


それに、今日からいろいろ始まるんだ。何が始まるのか楽しみだなぁとそう思った矢先にだ。もう、あたしは軽い男に遊ばれて、大学生活をむちゃくちゃにしてしまうのか!?嫌な予感がして、ゾクっと悪寒まで身体中に走る。


「いや、別の相手を探してください」


冷静に考えると、やっぱりここは断るべきだ。

まだ、大学に入学したばかりのあたしは、高校とはまた違った学生生活を楽しんでいない。恋愛初心者のあたしが軽い男に引っかかるのは有りえそうな話だけど、まだいいだろう。まだ、引っかからないでもいいだろう。


「嫌ですね!」


だけど、ニッコニコしながら、あたしのお願いは却下された。

いや!見知らぬ人に強制される意味も分からないので、頭の中にモヤモヤが増えていく。



「いきなり言われても、困ります」

「いや、俺だって断られたら困ります」

「は?」

「相手は、陽子さんがいいんです」


一体何のドッキリですかぁ~?

一体この人は、あたしに何を求めてるんですかぁ~?



「どういう意味ですか、それ」

「誰にでもこんなことを言ってるわけじゃないんです」

「……はぁ…」

「付き合う相手は、やっぱり可愛い人がいい!」


っておい!

まず容姿重視かよ!



「そして、面白い人がいい!」


芸人で可愛い人を探せよ!


「あとはオシャレな人」

「…」


ちょうど、近くにガラス張りの壁があって自分の姿が見えた。その姿を凝視するが、あたしは決してオシャレではない。


「厳正な調査をした結果、あなたに決定しました」



一体何の調査ですか、それ。あたし、ひとっつも当てはまってないじゃないですか。

ツッコミどころ満載のこの男に、あたしは呆れ果てため息を吐く。男は、あたしが観念して、付き合うことを了承したと勘違いしたのか。



「俺、絶対幸せにします!」



なんて言いながら、ぎゅぅぅぅうっと抱きしめてくるその人。あたしは、その強引さにもう反論できなくて、抱きしめられる腕の中で「はぁ…」とだけ応えた。





こうして、あたしと彼との恋が始まったんだ。




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